某日、『ハテアニ』の親会社にて。
「え!」
シューゴさんは口ではそう言っているものの、その態度は白々しい。
上から何かを言われるのは今に始まったことではなく、いちいち真面目に相手をすることが億劫だったからだ。
そして、そんな二人の間を取り持つフォンさん。
父にとっては定期的に見る構図であった。
もちろん、それを俯瞰して見ようとする父も、その“構図”の中にいるのだが。
「ほう、分かっていらっしゃらない? あなたが先週、ブログで書いた記事を読み聞かせましょうか」
『ヴァリオリ』の総監督であるシューゴさんは非常に我の強い人物だった。
好きなものは好き、嫌いなものは嫌いと公言することを憚らない。
そのため、彼がブログなど様々なメディアで口を開く度、波紋が広がることは日常茶飯事であった。
シューゴ監督を雇っていたスタジオの親会社はその言動、ひいては存在にいつもヤキモキしていたのだ。
「だったら、我々がなぜ怒っているのかも分かるでしょう! あなたはもう少し、自分の言動が周囲にどのような影響を与えるか考えるべきだ」
このご時世、何かを好きだったり嫌いであるだけで誰かに不自由な思いをさせる。
「オレが気を揉む理由がない。間違ったことは書いていませんし。それを納得できない人間がいるのなら価値観の相違でしかなく、是非の問題ではないでしょう。もし理解することすら出来ないなら、そいつがバカなだけです」
「そういうところです! あなたの言動は、『ヴァリオリ』のファンを減らすことに繋がる。実際、あなたのブログを見てマトモに見れなくなった人は少なくありません」
「オレの人格と、作品の良し悪しは別の話でしょ。仮に同じだとして、オレ一人でアニメ作ってるわけじゃないですから。そこを切り離せないなら、それは気持ちの問題でしかない」
いつもなら、このあたりで取締役が爆発して更にデッドヒートするのだが、今回はそうじゃなかった。
「いえ、ま、待ってください! 確かにシューゴさんはこんな感じですが……」
このあたりで父も、今回はいつもとは別ベクトルでマズい状況だと薄々思い始めていた。
「“シューゴ監督”……あなたのスタジオにおける……特に『ヴァリオリ』においての功績は、我々も十分に理解しているところだ」
「だが、それでも尚。あなたをこのまま監督として使い続けるリスクは重い、という結論になりました」
そして、嫌な予感が的中する。
父やフォンさんはショックを隠せないのに対して、シューゴさんは意外にも狼狽えていなかった。
「ふーん、そうですか。じゃあ、これで話は終わりっぽいので帰りますね。お疲れ様でした」
むしろ、あっけらっかんとそう言ってのけ、スタスタと部屋を出て行ってしまった。
父やフォンさんは慌ててシューゴさんの後を追う。
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