2018-03-02

[] #51-2「ノットシューゴ」

≪ 前

某日、『ハテアニ』の親会社にて。

『ヴァリオリ』の総監督であるシューゴさんが呼び出された。

「何故ここに呼ばれたかおわかりになりますでしょうか」

親会社の重役が、重々しくシューゴさんに尋ねた。

「え!」

シューゴさんは口ではそう言っているものの、その態度は白々しい。

から何かを言われるのは今に始まったことではなく、いちいち真面目に相手をすることが億劫だったからだ。

ちょっとシューゴさん!」

そして、そんな二人の間を取り持つフォンさん。

父にとっては定期的に見る構図であった。

もちろん、それを俯瞰して見ようとする父も、その“構図”の中にいるのだが。

「ほう、分かっていらっしゃらない? あなたが先週、ブログで書いた記事読み聞かせましょうか」

「そんな必要ないでしょ。自分で書いた内容くらい覚えてます

『ヴァリオリ』の総監督であるシューゴさんは非常に我の強い人物だった。

好きなものは好き、嫌いなものは嫌いと公言することを憚らない。

そのため、彼がブログなど様々なメディアで口を開く度、波紋が広がることは日常茶飯事であった。

シュー監督を雇っていたスタジオ親会社はその言動、ひいては存在にいつもヤキモキしていたのだ。

「だったら、我々がなぜ怒っているのかも分かるでしょう! あなたはもう少し、自分言動が周囲にどのような影響を与えるか考えるべきだ」

このご時世、何かを好きだったり嫌いであるだけで誰かに不自由な思いをさせる。

言葉権威付与されやす立場人間なら尚更だ。

しかし、シューゴさんはそういったことには無頓着だった。

「オレが気を揉む理由がない。間違ったことは書いていませんし。それを納得できない人間がいるのなら価値観の相違でしかなく、是非の問題ではないでしょう。もし理解することすら出来ないなら、そいつバカなだけです」

「そういうところです! あなた言動は、『ヴァリオリ』のファンを減らすことに繋がる。実際、あなたブログを見てマトモに見れなくなった人は少なくありません」

「オレの人格と、作品の良し悪しは別の話でしょ。仮に同じだとして、オレ一人でアニメ作ってるわけじゃないですから。そこを切り離せないなら、それは気持ち問題しかない」

いつもなら、このあたりで取締役が爆発して更にデッドヒートするのだが、今回はそうじゃなかった。

しろ落ち着いて、淡々言葉を発した。

「やはり改善余地はなさそうですね、フォンさん?」

「いえ、ま、待ってください! 確かにシューゴさんはこんな感じですが……」

それに対して、フォンさんはいつも以上に必死な様子だった。

このあたりで父も、今回はいつもとは別ベクトルでマズい状況だと薄々思い始めていた。

「“シュー監督”……あなたスタジオにおける……特に『ヴァリオリ』においての功績は、我々も十分に理解しているところだ」

「だが、それでも尚。あなたをこのまま監督として使い続けるリスクは重い、という結論になりました」

そして、嫌な予感が的中する。

シューゴさんに、事実上監督降板が言い渡されたのだ。

父やフォンさんはショックを隠せないのに対して、シューゴさんは意外にも狼狽えていなかった。

「ふーん、そうですか。じゃあ、これで話は終わりっぽいので帰りますね。お疲れ様でした」

しろ、あっけらっかんとそう言ってのけ、スタスタと部屋を出て行ってしまった。

父やフォンさんは慌ててシューゴさんの後を追う。

次 ≫
記事への反応 -
  • 受け手にとって最もコスパに優れた大衆娯楽はアニメである。 そして作り手にとって最もコスパに優れていない大衆娯楽はアニメである。 ……というのが作り手側である父親の談だ。 ...

  • ≪ 前 実のところ、重役たちは監督降板を半ば予定していた。 これまでのシューゴさんの態度を顧みるに、今回も改善の余地は見られないであろうことは想像に難くない。 監督降板を...

    • ≪ 前 こうしてシューゴさんの監督降板の報は、瞬く間に広がっていった。 様々なSNSサイトで『ヴァリオリ』関連の話が頻出し、いずれも阿鼻叫喚の様相を呈していた。 「あの俗悪の...

      • あのさ、お前の書く話、すっげーつまんねえのわかるか? つまらねえ話はいい加減やめろよ。 そんなにやりてえなら 小説家になろうにでもやってろよ

      • ≪ 前 俺は呆れ果てて何も言えないでいたが、同じくクラスメートであるタイナイが、カジマの蛮行を嗜めた。 「ちょっと待てよ、カジマ。そんなの撮っちゃダメだ」 タイナイは俺た...

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん