https://twitter.com/Eguchinn/status/425181251914321921
なんだけど、この、ハンドルネームでネット上で絵を発表してる若い人たちに共通して感じるのは「世に出る」という感覚の希薄さ?僕らの世代だと絵でも小説でも音楽でもなんでもいいけど自分の技量で「世に出たい」というのがまずあったんですよ。この「世に出たい」という感覚がもう古いの?ダサいの?
“「世に出る」という感覚の希薄さ”を「ダサい」の一言に要約しちゃう感覚にはすげえ違和感を覚える。ダサいという形容がもうダサいっす!っていうかそれ死語っす先生〜!
――まあそれはさておいて。『虚無的なのがかっこ良く、お金儲けは下品』という昭和ベクトルでこの世代を眺めるのはいささか古い。いや江口寿史Disってるわけではないすよ? ただ、見方として、江口寿史がこのたび想定しているPixiv世代についていえば、個人もしくは仲間内でひったすら趣味活動を醸成しつづけた結果、プロ並の技量を得てしまった、とみるのが(おそらく)正しい。趣味であるゆえそれに注がれる熱量たるや凄まじいんすよね。実際生産量がムチャクチャに多いしアホみたいな書き込み量だったりするんで本当にビビリます。
技巧やノウハウについてはPixivやブログに「講座」というかたちで星の数ほどアップされていて編集者や先輩イラストレーターから教わらなくてもよい状況にありますし、できあがった完成品はPixivやTwitterという超強力ツールによって24時間いつでも品評されます(Favや評価点という定量的数値として)。なんだったら同人誌にしたためて売りに出すこと売れても売れなくても強烈なリアクションが期待できます。
――このようなサイクルに放り込まれたPixiv世代は、趣味のスタンスをまったく崩さないままプロ並と呼ばれる水準にまで到達できてしまうことも充分可能でしょう。パッと見『「世に出る」という感覚』が希薄だったり、自分の技量にやたらと無頓着だったりするのも、お金を取れるレベルに自分が達していることに気づいていないか、『プロ(=専業)』という生態を至上とはしていないせいと考えられます。
同人活動をしている知人の話になりますが、イラストレーターの報酬額には毎回とても悩むといいます。金額をまったく提示してこないからです。好きでやってるんだからタダでいいよというケースすらあるそうですよ(ちなみにイラストレーター氏は受賞歴が複数あり、Pixivではオリジナル非エロが評価点5桁レベルの技量ということです。プロで通用するレベル)。
技法や知識はネットで調べられる、絵道具はペンタブとソフトで充分、Favや評価点でレスポンスが超ハッキリ提示され、気のあう仲間と盛り上がって楽しくすごせる……。そんな環境に囲まれたPixiv世代を外部から理解するにあたり、それこそ江口寿史くらいの年齢層ならば出世欲の希薄さにフォーカスしてしらけ世代との近似を想定するのも無理からぬ話ではあります。ただし言われたほうはコレジャナイ感に満ち満ちる。以上に書いたとおり「しらけ」とは程遠い熱量を持っているからです(イラストレーターごとの個体差はもちろんあります)。むしろオタク的情熱がインプロージョンして世間から観測しづらくなったと言えるのかも。
昔のように身を賭してイラストレーション関係の賞に積極的に応募してこないのは――内部事情をビタイチ知らないので憶測ですが――リスクヘッジが働いていると見るのが妥当でしょう。プロで生きていくより平日ふつうに働いて土日の余力でちょいちょい仕事もらうほうが精神的には遥かによろしい。先が見えなさすぎるイラストレーター稼業のリスクを加味したならば、あえてプロ化しないのも至極まっとうな選択と言えます。そりゃ誰だってジジイババアになってから路頭を迷いたくはない。そういう算段を皆しっかり行うようになったんで「賢くなった」ように見えるのだと思います。
個人的には『無謀こそが最善手』とするのは精神論すぎると思う。トキワ荘のみんなは死んじゃったし。バブルも弾けて華やかな未来は霧散したし。専業はやっぱ怖いすよ。
https://twitter.com/takokainahare/status/425185441478766592
“@Eguchinn 書く事と収入のバランスが悪い。「世に出て」安定した収入を得るまで年月がかかる。働きながら趣味で描いてる方が安心ですよ。”
あと、江口寿史が働きはじめたくらいの頃はメディアたる雑誌の「賞」という入口のほかに不特定多数からリアクションを獲得する手段が存在しえなかったと思います。PixivもTwitterも21世紀のサービスですからな……。今日ではそういったSNSでいくらでも褒めてもらえることが出来る。飯の種を探すことすら可能です。今昔の違いが雑誌の賞に現れるのも、まあ妥当な作用なんじゃね?って気はします。
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