2023-03-29

マジックミラー越しの世界の住人

それは、見学店での事だった。

見学店とは、マジックミラーに囲まれブースから制服姿の女の子たちを眺めてオナニーするための店であるあなたが知らないだけで、日本では合法でそういビジネスをする店があるのだ。

店側は「デッサンができるお店」と謳っているが、各ブースにはご丁寧にティッシュゴミ袋が用意されている。どう見ても「抜き」に特化した空間である。ここでデッサンをする奴がいたら、そいつこそ本当に変態だと思う。

料金は40分で6000円。10分間だけ選んだ女の子指名することができる。指名すると、自分ブースの前で女の子パフォーマンスをしてくれる。デッサンをしたい人からしたら困っちゃうくらいクネクネウネウネしてくれるのだ。

指名されていない間、女の子たちはスマホをいじったり、キャスト同士でおしゃべりしている。それを、10枚のマジックミラーが囲んでいる。マジックミラーの向こうには、101000円以上の金額を払ったおじさん達が、誰を指名しようか吟味している。ものすごい空間だ。そして今、私はその空間の一員になってしまったのだった。

私が普段見ている世界は、マジックミラーで隔られてはいない。にもかかわらず、私は小学生の頃から何も変わらない。恋人キスセックスも、何も知らない。努力して自分を磨き、失敗を恐れずに積極的アプローチする。そんな当たり前ができない人たちが、マジックミラーのない世界からマジックミラーで隔たれたこ世界にやってくる。ここでは、彼女たちに受け入れてもらう努力をする必要がない。必要なのは、40分で6000円の対価だけだ。

店員から渡されたタブレット端末には、出勤している女性たちのボタンが並んでいる。このボタンを押せば、誰でも見ることができる「あなたのためだけのパフォーマンス」を10分間してくれる。

ボタンを押し、1人の女性指名する。彼女は立ち上がり私のマジックミラーの前に立つ。ブースの左上には丸い穴が空いており、ここからパフォーマンス内容の希望事項を書いた紙を受け渡す。異性とコミュニケーションをするための努力怠った男達がたどり着いた世界では、「穴から紙を渡す」がコミュニケーションデファクトスタンダードとなっていた。

彼女は私から紙を受け取り、内容をサラリと確認する。そして、「''胸多め''でしたら、ブラ外しオプション1000円でつけられますよ」と営業をかける。マジックミラーで隔たれた私たちを繋いでいるのは、お金。ここにいる大人は、「ブラを外す」という行為を、オプションとしてしか捉えることができない。

私はオプションを断り、そのままパフォーマンスの開始に備える。この時私は、向こう側から自分の姿が見えているのかどうかが気になって仕方がなかった。

基本的には見えていないようだが、彼女達は時々、マジックミラーに顔を近づける。そしてその時、私たちの顔を捉え、微笑む。こちらは、チンチンを握ったまま、ぎこちない笑みを浮かべることしかできない。お金を払ってマジックミラー越しにパフォーマンスしてもらう人に、どんな顔をするのが正解か私は分からなかった。おそらく、ここに来てしまった時点で正解なんてものはないのだろう。

「もしかしたら、向こうから見られているかもしれない」と思ったのは、パフォーマンス内容のリクエストを記入する紙を見たときに、「たくさん見て欲しい」というチェックリストがあったからだ。ここにレ点をつければ、おそらくたくさん見てもらえるのだろう。

ラーメンの「麺固め」「麺柔らかめ」と全く同じ要領で、「たくさん見てほしい」「あんまり見ないでほしい」という項目が並んでいる。そんな項目が存在するということは、その恥ずかしさを快感として享受できる人がいるのだろう。それは、人として、ある意味幸せことなのかもしれない。そんなことを考えながら、「たくさん見てほしい」に私はレ点をつけた。

からだろうか、彼女マジックミラーに顔を近づけ、こちらを見ている。この瞬間、私は自分客観視せざるを得なくなってしまった。「彼女が見る対象としての私」がマジックミラー越しに誕生し、私は私を客体化していく。その感覚を存分に味わらせられると、快感なんてものより、「お金を払って年下の女の子マジックミラー越しにクネクネさせている」という現実が押し寄せてくる。

このマジックミラー越しの世界残酷だ。彼女から見てマジックミラー越しに見える私は、どうしようもない大人に他ならない。それを、自分俯瞰しているような感覚になりながら、パフォーマンスをしている彼女とじっくり味わう10分間。感情がぐちゃぐちゃになってくる。

まだ、あちらからこちらが見えているとは確定していない。もっと顔をマジックミラーに近づけて、目の周りの光を手で覆って、そんな仕草をしてようやくこちら側が見えるのかもしれない。自分存在客観視してしまった私は、もう彼女から見られることに耐えられそうにない。彼女に見られた瞬間、私は「彼女から見たマジックミラー越しの世界の住人」になってしまうから

そのうち彼女は、マジックミラーの前でペロペロと何かを舐め回すようなパフォーマンスを始めた。感情がぐちゃぐちゃになったままチンチンをしごいている私は、座ってペロペロと舌を動かす彼女の口元にチンチンを近づけてるため、立ち上がる。そしてマジックミラー越しの彼女の口元へ、自分のチンチンを近づけようとする。

私が立ちマジックミラーに近づいたことで、私のチンチンの距離マジックミラー越しの彼女に近づいた。しかし、立ち上がったせいで、私のチンチンは彼女の頭よりもだいぶ高いポジションにぶら下がっていた。

その、彼女の頭の上でぶら下がるチンチンに対して。彼女は自ら膝立ちをし、口の位置を合わせてきた。彼女の頭の上にあった私のチンチンを、自ら迎えに行ったのだ。

その瞬間、私はとんでもない自己嫌悪に陥りながら射精した。自分もびっくりしたが、「死にたい」と一瞬思ってしまった。

彼女マジックミラー越しの私の姿を捉えていたようだ。私が立ち上がったので、より興奮を味わえるように、わざわざチンチンの位置自分の口元を移動させ、マジックミラー越しにペロペロしてくれたのだ。

彼女は客をより満足させるためにサービスを尽くし、自分からチンチンに顔を移動した。対する私は、感情をぐちゃぐちゃにしながらも、夢中にチンチンをしごいていた。

彼女仕事に対するプロフェッショナルとしての冷静な顧客対応と、ただただ感情の赴くままに立ち上がってはチンチンをしごいて果てた私の、そのあまり非対称性に。私は自分自分ドン引きしてしまった。とんでもない情けなさと、強烈な自己嫌悪が襲いかかってきた。そして同時に、彼女マジックミラー越し見られていた事が、今、ようやく、確定してしまった。

その瞬間、私は「彼女から見たマジックミラー越しの世界の住人」になってしまったのだっだ。

  • 近づくと見えるもんね。後ろの方でシコっとけば見えなかったのにね。

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