私は金で女を買っている。
きっと褒められることではない。
私は貧乳華奢低身長を希望していたのでそれに対する質問だった。
パパ活アプリでは自分の肉体的特徴を最初に提示する嬢は少なからずいる。
自信をもって売り込みにくるのではなく、確かめるようなその言葉のなかに特別さを見たのだった。
正直に言うと 159 cm は対象外なのだがその言葉の響きに私は興味を抱いてしまった。
「はい、大丈夫です。しかし遠方ですね。東京まで来ていただくことは可能でしょうか?」
「申し訳ございません。バイトが詰まっていて東京までは行けません。今回はご縁がなかったということにしてください」
一瞬で断られた。それもいやに丁寧に断られた。
パパ活において吹き荒れるパパ側の暴虐な言葉に慣れてしまったパパ活女子特有のおもねるような文句だった。
19歳の女子大学生にここまで言わせるこの界隈はどうなのかと思ったが、普段からデリヘルで19歳を呼んだりしているのでただのブーメランだなと気付きそのまま突き進むことにした。
「交通費を加えて7万を出すのでどうですか?」
そう伝えたところ
「実現するのであればお願いしたいです」
と返ってきた。
それらの返答で私の目的が若くて貧乳で華奢で低身長の嬢とにゃんにゃんすることから、その19歳の人間に会うことに切り替わっていた。
そう、人間に会うことに切り替わっていた。
東北から東京に顔も名前も知らない実在するかすら分からないクズ男に会いに来るという19歳のその行動の対価として7万を払うことにした。
たとえ何もできなくてもその人間を一目見るというその経験が7万円なら安いと考えてしまっていた。
「はじめまして、はるなです」
名乗った彼女は見るからにまともな人間だった。とにかくまともだった。
世の中の人々は風俗やパパ活をやっている女は派手で遊んでそうな感じだと思っているだろう。それは正しい。
ラブホテルの管理人の父を持ち風俗狂の私はディープスポットをたくさん見てきたがほとんど例外はない。
風俗嬢もパパ活女子も特有の雰囲気がある。派手で遊んでそうで向こう見ずだ。そしてその仕事をそこまで辛く思ってはいない。
より丁寧にいうとまともな人間はすぐにトぶ。体験入店で終わる。はるなはそのトぶ子達より更にしっかりしたまともな人間だった。
界隈にいて長いがデリ嬢や初回から大人を売ってくる子達の中でこんな子はいなかった。
「私はあなたに興味があってここに呼びました。この七万円はここに来たことに対してのあなたの正当な対価です。今この瞬間に去ってしまってもいい。ただ良ければ食事でもしませんか」
しかし、そんな訳の分からない客はもちろん歓迎されない。不信感を持った目と共に彼女は儀礼的は頷いた。
「もちろんいいですよ」
我々は少し足を延ばし帝国ホテルのランチを食べに行った。パパ活においてそこまでおかしなことではない。
「お兄さん、若いですよね、凄い珍しいですよ。大学の先生くらいの年齢の方が多いので」
「そうですよね。色々理由はありまして」
「聞いていいですか?」
「それは大変ですね。悩んでいます?」
「いいと思いますけどね」
特に話が盛り上がる訳でもなかった。初めに言ってしまうと彼女が帰るまで盛り上げることはなかった。
「君こそどうしてこういうことを?いやにまともに見えるけれど」
「学費です。単純な話ですよ。親がいないんです。厳密にはいるけれど頼れない」
「両親はいるんだね」
彼女は長い髪の毛を一度かきあげた。
安物の服を着ていたがセンスがよく帝国ホテルのバーラウンジに良く合っていた。
「あるあるだね」
「あるあるです」
彼女が大きく息を吸って、そして一息に吐いた。
「まぁもういいかな。あなたはそういう苦学生を抱くみたいなファンタジーは求めてなさそうだし面倒なのは無しにします。さっきはそういいましたけれど嘘ですよ」
「それほど大変ではない?」
「はい。学費は父が払っていますし、奨学金も借りています。私が通っているのは国立の医学科なので将来の奨学金負担も特に問題はありません」
「ではなぜこんなことを?」
「わかりませんよ。逆に聞きますけれど、あなたこそなぜ?若いし女性慣れもしている。モテるというほどのことではないにしろわざわざ七万円も払って女を抱く必要はないでしょう」
「その服、Youji の新作ですよね。お金もある。イケメンではないけれど中性的で清潔感がある。その感じで女性に困ることはないです。こういうことをしていると分かるんです」
「面白いことを言うね」
彼女はすでに愛想笑いをやめていた。大学時代の学友達があの頃していた顔をしていた。大人に媚びる子供の顔はすでになかった。
愚かな私にはそう見えた。
「きっと我々は繰り返すんですよ、それぞれ。そうせざるを得ないんです」
全く同じことを言われたことがある。
あなたメンヘラばかり抱いているでしょ。メンヘラという言葉は好きじゃない。ただそういわれる子とお近付きになりやすいのは確かだ。
別れ際の車で話したことは今でも覚えている。私たちはきっと繰り返しますよ。
帰り際、古い友人から連絡があった。
何を描きたかったのかわからない