あるいは呪いにかかっているのはシャニPもしくはアイマスPなのではないか?
以下は苦言でも要望でもお気持ち表明でもなく、単なるアイマスPの断末魔なので悪しからず放っておいて欲しい。
七草にちかをやった。「やった」というのはつまり、W.I.N.Gを勝ち、W.I.N.Gに負け、喜びと悔しさと悲しみと夢と絶望とを一通り味わったということだ。
シャニマスくんさあ……君はアイマスを、アイマスPをどうしたいの? そもそもシャニマスくんが作りたいのはアイマスなの? それとも仮面ライダー555なの?
(当然、シャニマス新アイドルの『七草にちか』に関するネタバレあり)
いや、我々に非がないとは言えないよ。確かに我々は天井努で盛り上がりすぎていた。あまりにもにちか本人を放っておいてあの男をいじり倒すのに夢中になりすぎた。いや、もしかしたら、あの見た目に特徴の無い、いろんな意味でフラットな外見であるにもかかわらず背後の関係性だけが妙に複雑でその矢印が暴力的なまでに天井努に向かっている設定を見るに……もしかしたらSHHis発表後の天井努を廻る喧騒すらもシャニマスくんの掌上の出来事だったのか?
あまりにも「普通」の女の子を……「普通の女の子をアイドルにするってのはこういうことなんだぞ」を、よりによってノクチルの後に、樋口円香の後に、『海に出るつもりじゃなかったのに』の後に叩きつけてくる所業は、天井努の件を抜きにしたって人の情があまりにも無さすぎる。むごすぎる。
アイドルを夢見てアイドルになったのにアイドルとしての幸せを見つけ出せなかった天海春香ifとして、人に夢を見せる笑顔すら本人を傷つける茨でできた仮面となるアンチ島村卯月として、アイドルを続ける夢や動機すら他人からの借り物である春日未来オルタとして、そして何より「普通であって特別じゃない。なのに普通じゃない夢のような事を”できてしまった”」櫻木真乃殺しとして、あるいはそういった「夢」と瓶に書かれた毒を飲み込めない天道輝から最も遠い者として、シャニPどころかアイドルマスターの歴史そのものを、今まで「普通の子がアイドルに!」の物語を無批判かつ無責任に受け入れ紡いできたアイマスP達を殴りつける存在、七草にちか。
樋口円香が放った「あなたに責任が取れるんですか」パンチをかろうじて受け止められそうなシャニPを追撃で殺す少女、七草にちか。
“明”るい部屋を、「やりたいことがわかっている葉月」と共に探したシャニPを刺しに来た少女「やりたいことがわかっているつもりの日花」。
あまりにも平凡で普通なのに舞台に上がってしまった、上がれてしまった、上がり続けることができてしまった、上がり続けることを約束されてしまった少女、七草にちか。
大袈裟な言い方かもしれないが、彼女の登場はシャニマスの……いや、アイマスの価値観を根本から変えた。にちかの平凡さから逆説的に語られ始めてる真乃や智代子や小糸の「やっぱり普通じゃない普通さ」だけじゃない、そもそも「『普通の子』がアイドルなんかやったらこんなんなっちまうんだ」「今までプロデュースしてきたアイドル達はこういうぺんぺん草を燃やしてきたんだ」という現実の提示。あるいは天海春香から始まる「普通の子」の歴史、もしくはいつの頃からか語られていた「普通の子がアイドルになるシンデレラストーリー」そのものへのネガ。七草にちかのあの“笑顔”がそれら全てを「ちょっと待てよ」の俎上に上げる。「アイドルをやるってことを甘く見てないか」「板の上に幸せはあるのか」「舞台の上に楽しさを見つけられなかったら、それでも続けなきゃならないのか」「じゃあ舞台から引きずり下ろせば幸せになれるのか」「そんなことも今まで考えたこともなかったのか」……。今までのアイドマスター15年をもう一度1から検証し直さなければならないほどの問いを、あの色の定まらない瞳が投げかけてくる。
ただ、じゃあそれは「呪い」と呼ぶべきものなのか? とも考えてはいる。
七草にちかの200%は曲がりなりにも、13,000越えのアピール数値を叩き出しW.I.N.Gの決勝審査員を吹き飛ばした。七草にちかはそれを「できてしまった」。それにより、確かににちかは月まで伸びる赤い地獄の道をこの先も歩き続ける羽目になってしまったが……それは果たして本当に「呪い」であったろうか。
よしんばそれが呪いと呼べるものであったとして、ソレは本当に七草にちかにかけられた呪いであったろうか。
確かにアイマスは、プロデューサーとかいうおっさんが少女達に救いを与えるだけの物語であるわけがない。逆に15年もの間おっさん達に救いを与えてきた物語であるはずだ。
であるならば逆に
「普通の少女達が普通にしているだけというかけがえのない時間の輝きに『アイドル』という体裁を与えて人々に提示できるエンターテイメントにするのもプロデューサーの仕事だ」とシャニPに言わせた『海に出るつもりじゃなかったのに』の後に、この「アイドルの道をただ歩いているだけで幸せから遠ざかりそうな少女を、なんとかして幸せにする」ミッションをシャ二Pに課したシャニマスくん。あまりにも反アイマス的であり、「それは純然たるアイドルプロデュースである」という意味ではあまりにもアイマス的でもある。
そういう意味で、あるいは七草にちかの物語はシャニPにとっての、あるいは俺らアイマスPにとっての呪いではなかったか。
確かに七草にちかの輝きは彼女の前に地獄の道を伸ばしたかもしれないが、逆に言えば、そんな地獄の道の上にも確かに輝きはあった。そんな輝きを拾い集めてにちかにとって地獄ではない道に変えなければならない。それもあの天井努と七草はづきとノクチルら先輩アイドル達がいる中で。そんなシャニPこそ呪いの中にいるのではないか。
言われてみれば確かにアイマスにおいて夢は呪いだった。無印アイマスで天海春香をドーム勝利エンドの先へ進ませたのは、アイマス2で如月千早を殺そうとしたのは、デレアニで島村卯月を苦しめたのは、etc.etc.....それは彼女ら彼らの夢と表裏一体になった呪いだった。そしてとうとう、アイデンティティそのものの中に夢という呪いを組み込んだアイドル……いや「女の子」があらわれた。そんな七草にちかがアイドル道を、シャニマス世界を、アイドルマスターを、どうやって歩んでいくのか……。にちかの登場はアイドルマスターを大きく切りつけたが、それ故に、新たな切り口でアイマスを楽しめそうな気がしてならない。アイマスに新しい角度を与え、新しい視点を作った七草にちかの物語……それはもしかすると「祝い」なのかもしれない。
しっかし新アイドル一人目の登場だけでこんなんなっちまって……二人目の緋田美琴が出てきたらどうなってしまうんだ? 本当に「わたし(she)がわたし(she)」になれるんだろうな? そもそも「(she)」ってまさか「彼女」ってことじゃないだろうな?
それはそれとしてこういう邪悪な物語は大好物。正直シーズン4くらいになると「そうだよ。これからも君はこの道を歩いて行かなきゃならないんだよ(愉悦)」と思っていた部分もある。
なのでどんどんやってくれ高山。