ここで吐き出すことで忘れたい。
私の知人に、30代で、女性にとってはブラックな職場だという会社で働いているという人がいる。
その知人の職場は、女性社員の産休取得のような、はっきり法律で定められている権利を行使することを嫌がるなど、女性が働き続けるには様々な問題があるようで、それ故私に連絡をくれ相談する気になったようだ。
私は教育関係の職についている独身の40代、本を書いたりするほどの専門家ではないが、女性同士の情報交換のネットサークルに加入している。会員相互でTwitterをフォローし合っている関係上、気がついたらフォロワー数が4桁に達していたから、たまに見ず知らずの人からも相談のメールをもらうことがある。
その知人との付き合いは数年ほどで、よく相談のメールをくれ、仕事の繋がりはないが可愛げのある後輩という感じだった。
ただ彼女の悩みや質問には、専門違いの私では答えきれないことも多く、私より詳しいネットサークルの他メンバーに相談してはどうかともちかけたり、連絡をスムーズにするためにいっそあなたも会員にならないかと誘ってみたりもしたが、その都度仕事の忙しさを理由にあまり乗り気でないと断るので、それ以上勧誘しなかった。ならばなぜ私だけには相談するのか、少し不思議だった。
しかし、1年半ほど前に知人が恋人ができたと言い出したころから、相手の雰囲気が少しずつ変わりはじめた。知人のパートナーは3つ年上で、早いうちからお互い結婚を意識するようになり、この春に結婚式を挙げる準備を進めているとのことだった。
もちろん私は、知人と恋人がうまく行っていることは全力で祝福した。だが、恋人は十分な収入があるので、相手に今の職場を辞めて専業主婦になってほしいと言っていると告げられたため、私の疑問はさらにつのった。
まず仕事を辞めたいというのは、相手自身の意思なのか、相手の恋人の意志なのかというのが第一の疑問だ。
もし相手の恋人の意思であれば、辞めるのはよくないんじゃないかと告げた。今はお互い相手に夢中の状態だろうが、嫌なことを言うようだがそんな関係がいつまでも続くとは限らない。もし仕事を離れ経済的に自立する手段を手放せば、女性側の立場は圧倒的に不利になる。残念ながらそれが現在の日本社会の現実なのだ。
産休は法律で認められた正当な権利なのだから、仕事は辞めずに復帰する道をさぐったほうがいいと告げた。また、男性側も育休を取ることができることも知らないようだったので、そうした権利があるから恋人の協力も求めてはともアドバイスした。
だが相手は今度は、はっきり言うと今の職場で続けるには様々な悩みがあり、それ故その私にも相談していたんだという。産休をとってまた復帰するのは、もちろん出来ないことはないがかなりプレッシャーのある職場だという。
ようするに、女性にとってはブラックな職場であり、相手自身わざわざ周りから白い目で見られながら続ける気になれないという。
だから先のことはわからないが、とりあえず結婚を機に今の職場はやめると言うのだ。
だったらそれは、恋人の意思ではなく、あなた自身の意志ではないのか?
辞めたいのなら辞めればいい。それは本人次第で私にはどうすることもできない。
だがブラックな職場だからと言って何の意思表示もせずにただ辞めるというのは、ブラックな職場を利するだけのことじゃないかと思って、せめて少しは抵抗してみたらどうか、女性の権利は決して天賦の物ではなく、先輩たちが筆舌に尽くしがたい苦労を重ね、現状でも十分とは言いがたいにしろ少しずつ勝ち取ってきたものだから、というようなことを告げたのが私にとっての運の尽きだった。
これまでの私が知人に言ったことが、次々と過激な言い回しに翻訳され拡散されてしまった。曰く「女は断固として仕事を辞めるべきでない」「育休は夫にとらせるべきだ」「今までの私が相談に乗ってあげたことを全部無駄にするのか」「女性として社会と戦うつもりはないのか」「あなたの選択は負けて奴隷になるようなものだ」このようなことを言ったことにされてしまった。そして私は「フェミニスト」という烙印を押されてしまった。
私もカッとなって喧嘩別れになり、それ以来twitterもメールもブロックした。私の理解するところによれば「フェミニスト」というのは、男女の性差には生物学的なもの(sex)以外に社会・習慣に起因するもの(gender)が存在し、両者の違いを見定め、後者に起因するもののうち理不尽で女性を苦しめる原因になっているものについては改める努力をしようという立場のものをさす言葉のはずだ。しかしネット上では、この言葉が相手にマイナスの烙印を押す単なるレッテルのように使われていることも当然知っている。そのことに関してだけは、適切に反論できれば良かったと思っている。
目下の最大の疑問は「結局あの人は存在したのだろうか?」ということだ。相手の書いた文面を思い返すと、女性なら当然知っているはずのことにあまりにも無知・無関心だったことに気づく。どっかのミソジニーをこじらせたおっさんが、自分の人生を自己肯定するために私を使おうとしていただけだったんだろうか? だとしたら壮大な時間の無駄だった。気づけなかった自分がバカだとしか言うしかない。まああの人のことは忘れて自分の人生を歩むつもりだ。
純粋に気持ち悪い 土曜日の貴重な時間をこんなくだらない事に費やすなよ