2013-12-02

特定秘密保護法案12条2項1号における「テロリズム」の定義の読み方

結論

政治上その他の主義主張に基づき、

国家若しくは他人にこれを強要し、

又は

社会不安若しくは恐怖を与える

目的

人を殺傷し、

又は

重要な施設その他の物を破壊する

ための活動をいう。

まり

  1. 主義主張
  2. 目的
  3. 行為

という要件を以て定めており,

の4類型が,同条における「テロリズム」に該たります

理由

まずは条文。

特定秘密保護法4党修正案の全文:朝日新聞デジタル強調引用者)】

第五章 適性評価

行政機関の長による適性評価の実施

第十二条

1項 略

2項 適性評価は、適性評価の対象となる者(以下「評価対象者」という。)について、次に掲げる事項についての調査を行い、その結果に基づき実施するものとする。

一 特定有害活動(公になっていない情報のうちその漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるものを取得するための活動、核兵器、軍用の化学製剤若しくは細菌製剤若しくはこれらの散布のための装置若しくはこれらを運搬することができるロケット若しくは無人航空機又はこれらの開発、製造、使用若しくは貯蔵のために用いられるおそれが特に大きいと認められる物を輸出し、又は輸入するための活動その他の活動であって、外国利益を図る目的で行われ、かつ、我が国及び国民安全を著しく害し、又は害するおそれのあるものをいう。別表第三号において同じ。)及びテロリズム政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう。同表第四号において同じ。)との関係に関する事項(評価対象者の家族配偶者婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下この号において同じ。)、父母、子及び兄弟姉妹並びにこれらの者以外の配偶者の父母及び子をいう。以下この号において同じ。)及び同居人家族を除く。)の氏名、生年月日、国籍過去に有していた国籍を含む。)及び住所を含む。)

二〜七号 略

3,4項 略

問題となる部分は以下(強調引用者)。

政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう。

条文の書き方として,同じレイヤーには「又は」は複数置かれません。「A or B or C」は「A,B,又はC」と書きます。したがって,少なくとも「強要」「殺傷」「破壊」が同列ではないことは文言上明らかです。

ただ,それを踏まえても,上記の「テロリズム」の定義は,「基づき」や「目的で」の範囲がぱっと見分かりにくいために複数の読み方があるようにも見えます

しかしながら,丁寧に読めば条文上に冒頭の構造が現れています

すなわち,ブロックが最も明確な社会不安若しくは恐怖を与える目的という部分は「○○に○○する目的」という書きぶりになっていて,これは直前の国家若しくは他人にこれを強要と同じ形式になっているから,両者の間(=最初)の「又は」は「強要し,又は与える目的で」と読める。

同様に「○○を○○する」でまとめると人を殺傷重要な施設その他の物を破壊する並置されていることが分かります

実際,森担当相はそのように答弁をしています

第185回国会 国家安全保障に関する特別委員会 第14号(平成25年11月15日(金曜日))

近藤(昭)委員

 (前略)さて、懸念があることがありますので、一つお聞きをしたいと思います。これは法案に関連することであります

 法案の第十二条の二項一号にありますテロリズム定義についてというところなんですが、法案では、「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう。同表第四号において同じ。」とあるわけであります

 この文章どおりに解釈をすれば、「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は」となっており、「又は」で接続をされていて、かつではないわけでありますね。そうすると、「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要」する行為テロリズムということに読めてしまうわけでありますが、その解釈はいかがでありましょうか。

○森国務大臣

 全く同じ質問をこの委員会でも以前受けまして、御答弁申し上げましたけれども、この条文の「目的で」というところの前と後が、かつでつながっております

 つまり、条文の書き方でいうと、まず、目的がこういうものである目的が二つ挙げてありまして、それが「又は」でつながっております。そのような目的を持った上で、今度、行為態様として、人を殺傷するか、または破壊活動というふうになっておりますので、目的が該当しただけでこの条文の構成要件を全て満たすわけではございませんで、このような目的を持ち、また、ここに書いてあるような行為態様殺傷、または重要な施設その他のもの破壊する行為をした場合が該当するということになります

近藤(昭)委員

 大臣ありがとうございます

 ただ、それならばなぜ、わかりやすいといいましょうか、今まさしく、そして殺傷したという、かつという言葉を使わないのかということを思うわけでありますいかがでありましょうか。

○森国務大臣

 これは刑法法規の定め方でございますが、まず目的が書いてあって、その後に行為態様が書いてございますので、例えばそれぞれの行為態様がかつで結ばれている場合には、かつと書くこともありますでしょうけれども、目的行為でございますので、これは別々の構成要件ということで、「目的で人を殺傷し、」といったときに、目的でまたは人を殺傷しとは読みませんので、ここはあえて、かつを入れないということでございます

近藤(昭)委員

 大臣がそのようにおっしゃって、それがこうした法律の書き方だと。しかし、随分とこれは法曹界の方からも懸念が出ているということであります。律の書き方だと。しかし、随分とこれは法曹界の方からも懸念が出ているということであります

内田樹氏の言説について

石破発言について (内田樹の研究室)

担当相は国会答弁でこの条文の解釈について、最初の「又は」は「かつ」という意味であり、「政治上」から殺傷し」までを一つ続きで読むという珍妙な答弁を行った。

しかし、この条文の日本語は、誰が読んでも、「強要」と「殺傷」と「破壊」という三つの行為が「テロリズム」に認定されているという以外に解釈のしようがない。

内田氏の言説は,森大臣の答弁内容について誤解し,かつ,条文解釈を誤ったものです。

まず,森大臣最初の「又は」は「かつ」という意味などとは言っていません。おそらくは森大臣この条文の「目的で」というところの前と後が、かつでつながっておりますという答弁を捉えたものだろうと思いますが,これは「又は」について説明したものではありません。

冒頭の結論を前提とすれば,12条2項1号は

  1. 主義主張
  2. 目的
  3. 行為

という3要件から成り立っており,目的行為のみでは「テロリズム」には該当しない。従って,「目的」を有し,かつ,「行為」を行った場合でなければ「テロリズムには該当しない。

あとは条文上の書き方の問題で,目的要件と行為要件の間には「かつ」を入れないのが通例です。(というか,別種の要件であればいちいち「かつ」は入れない。)

例:通貨偽造罪(刑法148条1項)

行使の目的で、通用する貨幣紙幣又は銀行券を偽造し、又は変造した者は、無期又は三年以上の懲役に処する。

次に,つの行為が「テロリズム」に認定されているという以外に解釈のしようがないとする部分ですが,既に述べたように,行為類型は「人の殺傷」と「物の破壊」の2つです。

ちなみに,条文から動詞を抜き出すと,「強要し」と「殺傷し」と「破壊する」の他に「与える」という行為(by内田氏)存在します。この「与える」は「与える目的で」と書いてあり一見明白に目的規定なので,読み飛ばしちゃったのだろうと思います(私も最初内田氏と同様の誤読をしたし)。

 

実際のところ,条文構造上最も大きい区切りである目的」と「行為」の間に読点(「、」)が無いのは,現在立法慣習上は不思議ではないのですが,とても分かりにくい慣習だと思います

一昔前の法律には条文のタイトルも無かったように,立法技術も月進年歩の発展を見せているところですので,こういった「要件単位での区切りの明確化」を発展させて欲しいところです。

  • 伊藤博文も塙次郎を暗殺したり、長井雅楽暗殺を画策したり、英国公使館を焼き討ちしたりと、安重根なんか足元にも及ばないテロリっぷりだったね http://anond.hatelabo.jp/20131202003513

  • 忠臣蔵ってただのテロリスト集団なのになんで持ち上げられてるん(´・ω・`)? 赤穂浪士はテロ集団? - Yahoo!知恵袋 http://anond.hatelabo.jp/20131202003513

  • 現在も横行している「転び公妨」の類でテロリズム認定ということもありえるのかな。

  • 特定秘密保護法案に賛成することにした http://d.hatena.ne.jp/aliliput/20131205 という id:aliliput さんのブログを読んだ。トラックバックを見る限りでは、誰もまとまった記事として答えていない...

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