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2016-08-02

シン・ゴジラ観に行ったけどクソだった

 レイトショーの回を観に行った。

 まずとなりの席に座ってたババアが最悪。

 七対の触手を落ち着くなくうねうね蠢かせて視界を塞ぐし、十七秒間隔で先端からオレンジ色の膿汁みたいなものを撒き散らす。

 ババアを注意しようかしまいか迷ってる内に本編が始まる。

 入場前に持たされた3DLSDを服用すると、光の世界ジャック・イン。


 おれたちはもうゴジラだ。

 東京破壊する黒色の異形だ。

 スカイツリー破壊しよう。

 霞ヶ関蹂躙しよう。

 多摩川突破せよ。


 劇場から出ると東京は滅んでいた。


 それから我々は毎日劇場に集まるようになった。

 アーチ型に列に並べられた、八十ほどあるパイプ椅子のうち、その日使われているのはたった五脚だった。わたしたちは互いに離れて座っていた。わたしたちは一人になるためにここに来たのだ。自己省察、つまりは失われた人生結果論批判したいという欲求。それは宗教信者が抱く祈りへの欲求くらいにやむにやまれものだった。

 シンゴジは昔の大作の映画みたいに、本編上映中に休憩時間が挟まっていて、そのあいトイレにも行かず、ホットドッグを補充しようとしないやつは十五分間のニュースを観させられる。その一コーナーは株式市場報告だった。素人くさい二人の女の子が、熱心にその日の市場の動向を報告するのだ。

 私は見て、聞いた。女の子たちは私の娘だった。オオクニヌシアマツヒコネ、十歳と十二万歳。二人の母親電話でぶっきらぼうに、娘たちがTOHOシンデレラに選ばれてこれこれの番組に出ることになったと教えてくれた。


 二人は画面で無表情にアラブ首長国連邦で急速に進展している状況について報告していた。

キーワードドバイです」

「驚くべき速度で進化し、大陸や海を越えています

「市況は急速に悪化しています

パリフランクフルトロンドン

東京株式市場には深刻な影響は出ていないと政府コメントしています

ドバイ国民ひとりあたりの負債世界一多い」オオクニヌシが言った。「そして、建築バブルもはじけ、もはやドバイ借金を〜〜〜(聞き取れない)へ返せません」

借金の額は五百八十億ドルです」

借金の額は五百八十億ドルです」

「何十億かの誤差はありますが」

ドイツDAX指数

「三パーセント上下げています

王立スコットランド銀行

「四パーセント上下げています

キーワードドバイです」

ドバイの人々はゴジラ上陸を待望しています

負債を負ったこの都市国家は、六ヶ月の返済猶予を諸銀行に求めています

ダウ・ジョーンズが下がった」

ドイツ銀行

「下がった」

ロンドン――FTSE一〇〇指数

「また下がった」

「ホンコンのハンセン指数

「どんどん下がる」

原油イスラム債

「下がった、下がった、下がった」


 以前の人生は毎分のように自分を書き換えていく。四年後にも私はここにいて、この薄暗い客席で悲惨に座って石原さとみルー語を聴いているのだろう。

 自由になった未来などなかなか想像できない。信じられるものなど何一つない。

 スクラップ・アンド・ビルド

 それは神話であり、幻想だ。

 日本は立ち直りなどしない。

 この二十数年、いや、この六十五年間、立ち直ってこなかった。

 立ち直ったのは監督の鬱だけだ。


「恐怖は増すばかりです」

数字の恐怖、拡大していく損失の恐怖」

「恐怖とはゴジラのことです。話題ゴジラです。ゴジラには収益性があります。五百八十億ドル、それとも八百億ドル?」

「速報です。ハリウッドゴジラ製作しているレジェンダリー・ピクチャーズ中国企業に買収されました」

「速報です。エヴァンゲリオンはもう誰も観ていません」

「なぜなら誰もが観ているからです」


 私はサッカーゴジラ映画類似について考えた。

 戦争、休戦、無秩序右往左往する群衆インスピレーションとなってきたサッカーゴジラ映画。どれも世界熱狂的に愛されている。あるオブジェクトを追い回し、草地や芝生や都市で行われ、国全体が高揚や悲嘆に身を悶える。

 もしゴジラアメリカ発明品だったならば、古くから清教徒的な本性に導かれて、マスターベーション禁止という原則にのっとった作品にならざるをえなかっただろう、とヨーロッパ知識人が唱えたりしないだろうか。

 これはいま私が考えていることのうち、以前は決して考える必要のなかったことの一つだ。


 映画が終わると私はオレンジ色の粘液でべとべとになっている。

 肌が音を立てながらが溶けていくのを感じる。

 性器が溶解していくのを感じる。

 それがなぜか妙に心地いい。

 

 

 

  

 

 
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