Netflixでディレクターズ・カット版が配信されたので久しぶりに「ミッドサマー」をみた。
グロや不気味なところにはだいぶ耐性ができてきていたので、あらたにプラスされたところなどを眺めていた。
大きいのは儀式がひとつくわえられていたことと、主人公のダニーとクリスチャンの関係にさらにいくつかのエピソードがあったくらいか。よりわかりやすくなっているとはいえるかもしれない。
映画自体の宗教団体や不条理な儀式の数々は日本のホラー映画を参考にしたらしい。それらを念頭に置いてみると、「これおかしな宗教に巻き込まれて死ぬホラー映画じゃないな」と思った。
軽くネタバレありのあらすじを書くと、ダニーとクリスチャンは長く続いているけどお互いに関係に飽きているカップル。クリスチャンは卒論のネタにスウェーデンに実家がある友達のコミューンに行くことになる。黙っていこうとしてたダニーが怒ったので「一緒に行こう」と誘う。ところがそこはおかしな宗教団体でクリスチャンほか仲間は殺されました。そこでダニーは女王になって優しい村人にわかってもらい幸せになりましたと。
この話を各キャラの損得だけで考えると、得をしているのはダニーだけだなと思ったのです。
クリスチャンとの関係は形骸化して惰性でだけつきあっている。さりとて別れるにしてもクリスチャンはグズでルーズだけど浮気してるでなし暴力を振るうでなし、自分がパニック障害の発作を起こしたときに友達と遊んでいても駆けつけるし、クリスチャンの男友達が浮気をしろといわれてもそれは断ったりはしているので、嫌う決定打がないんだよね。
・スウェーデンという知らないところ。
・みんなが平和で穏やかで優しくしてくれる(たまに不気味だがそれは宗教上の儀式)。
・判断が鈍るような薬を飲まされる。
・悲しくて泣いたら他の味方もみんな泣いてくれた(共有してくれた)。
・薬が効いててわからないまま彼が儀式で殺されることになった。
・彼は薬が効いてて一言も発してない。でも、意識ははっきりしている(無理やり決めさせられてはいない→ひょっとして肯定された?)
・自分は殺してとはひとこともいってないのにまわりの「仲間」が察してくれて彼を燃やしてくれた。
そして彼女はなんだかうっとおしい彼氏と別れられることになり安寧を手に入れた→幸せになった。
この先どうなるかはわからないが物語はダニーが安寧を手に入れたところで終わるし、その先はない。まるでダニーがみてた夢のように終わる。
ここでのダニーは徹底的に無責任で仕方のない状況でただそこにいるだけで望んでいる事態へと動いていっている。
すごく冷静に考えるなら、アメリカやスウェーデンの警察も間抜けで無能ではないから何人もいっきにひとがいなくなったら調査に向かうだろうしそうなったらただで済むわけではないよね。
実際、村の爺たちは保身のために証拠隠滅を図っている。自分らがヤバいことをしている自覚はある。
でも、ダニーは関係がない。無責任だ。まわりが勝手に動いたことだ。
ここらへんはひとえにダニーが聡明で頭が良くて一般常識があるからこそなんだよね。だからここまで無責任で抗えないしょうがない状態を作り出さないとクリスチャンを切ることができなかった。
この映画で1番ゾッとしたのは、クリスチャンがハメられてハメているときの1番のトラウマシーンでの女性たちのあえぎとか、浮気を目撃させられているダニーの悲しみに合わせて泣いている女性たち。最後に生きたまま火炙りにさせられてる叫びに合わせて泣いている村人たちの行動だよね。
それってSNSでの共有そのものだと思った。Twitterのリツイートコメントやはてなブックマークのコメント。「わかる~」からはじまる共有の正体こそがこれなのだと。
実際にあえいでいる女性が気持ちいいかどうかはわからない。浮気を目撃したダニーの苦しみはわからない。100歩譲ってそれは自身の体験から導かられるとしても、生きたまま火炙りをされたことのない人間の痛みを共有することは絶対にできない。なぜなら死んでないから。
あのわざとらしい泣き姿をみていると、SNSの共有や慰めなんて所詮この程度なのだなと思って心の奥が冷たくなっていく。
俺この映画「ヤバそうだから帰りたいけど卒論(だっけ?)がー」って言って残るの選んだ時にバカじゃねぇのって思って以降感情移入出来なくなって終わった