2015-11-19

http://anond.hatelabo.jp/20151119145752

「なぜ最初から文庫本で出さないのか? 」を書いた増田です。

質問の件に触れる前に前回の補足と今回の質問関係する部分をお話ししたいと思います。話が長くなって申し訳ないです。くどかったら飛ばして下さい。

ものには何でも「値ごろ感」とでも言うべきものがあり、それはその値段の歴史でおおざっぱに決まっているようです。原価や需給のバランスというのは経済学的には価格決定の要素として解説されるのですが、マクロにはともかくミクロ日常レベルではそこまでビビッドは要因にはなりません(人間の目は店頭で需給バランス可視化して見えるというわけではないですからね)。書籍で言えば文庫本って500円から1000円弱くらいだよなあ。ハードカバーって2000円から3000円くらい? そういう肌感覚です。もちろんこれは永遠不変のものではなく、値上げしたり値下げしたりがおこなわれ、受け入れられ日常化する繰り返しです。いまから10年ほど前、おそらく文庫本平均価格は50円ほど安かったと思いますし、僕たちが子どもの頃(というとばらつきがありますが)週刊少年ジャンプは200円を切っていました。

前回はなした「ハードカバー3000円ほどで売り出して、後に廉価版で700円ほどの文庫で出し直す」というのも、この値ごろ感が関係した結果です。最初から3000円の文庫でだし、部数が伸びるに従って値段を下げることは(少なくとも法制上や原理上)不可能ではありませんが、みなさんの「値ごろ感」が邪魔をして、3000円の文庫は購入してもらえないのです。なかには「いいや俺は本棚圧縮のために喜んで金を払うね」という方もいらっしゃいますが、それは少数派です。

さて、値ごろ感の話ですが「ハードカバーって2000円から3000円くらい」の本は売れます。多くは売れません。しかし少なくとも、その規格の本が現在でも毎月出る程度には、世間に受容されているわけです。「この大きさの商品に2000円から3000円くらいは払うよ」というのが一定読者層から理解を得られていると考えられます。それは文庫も同じです。文庫サイズで500円から1000円弱(じりじり値上がりしています)は世間に「まあ、そんな値段のアイテムだろう」と思われているわけです。パッケージと値段のセットはセットであって、たとえば「ハードカバー文庫の間の大きさで、値段も真ん中くらい」とか自由に決めてもなかなか浸透しません。書棚のサイズ問題や整理の問題もありますし、なにしろ値ごろ感は皆さんの内部の常識ですからそれを固定化するのに時間コストがかかります

角川ホラー文庫とかあとハヤカワとかの、

基本文庫で時々単行本ソフトカバーとかのレーベルってどういう戦略なんですかね?

さてやっとこの話が出来るのですが、「B6程度のソフトカバーで1000円~1500円程度の小説を売る」というのは、最近発明」されて「根付いた」新しい値ごろ感なのです。

いやいや昔からあったよ、という指摘もあるとは思いますが、いまほど安定できたのはごく最近のことだと思います。(さらに以前はカッパノベルスなどのノベルス判型があった地位なのですが、仮想戦記没落のあたりで徐々に廃れて行ってしまいましたね)

この新しい値ごろ感は、Web小説などをきっかけに広まったように思います(ここは私見です。きちんと統計などを蒐集すれば別の経緯かもしれません)。

新しい値ごろ感の発見というのは、そのまま、新しい読者層の発見でもあります。いってみれば「文庫しか買ってくれないと思っていたライトノベルユーザーが、少し大きめの判型であれば1200円だしてくれるのだ!」というエウレカでした。はっきりとした統計データなどはもっていませんが、現場の肌触り的な感覚で言えば、a)初期ラノベを読んでいた読者の皆さんが年齢を重ね可処分所得が増えた結果、1200円程度のレーベルでも購入してくれるようになった。b)すべての国内大衆小説が多かれ少なかれラノベの影響を受ける中で、文庫判型ではないライトノベル(の隣接したなにか)が要請された――などの実感を持っています

日常的に書店に行く皆さんであれば判ると思うのですが、ここ数年の間に書店ではB6判型ソフトカバーライトノベル的な書籍がふえていませんか? Web小説が主流ですがそれ以外の参入や、ボカロ小説と呼ばれるものや、自動文学的もの推理小説ライトノベルのハイブリットのようなものも見られると思います。それはこの「新しい値ごろ感」=「新しい判型と価格バランスポイント」が皆さんに受け入れられ、希望があると出版社判断たからです。もちろんそれが全面的に善だとはいいません。まだ固まっていない規格でぼったくってやれ、というような出版社レーベルがあるかもしれませんし、読者的には「文庫で良かったのに」と思われるかもしれません。

はいえ、新しいチャレンジなど10して1つか2つ成功すれば万歳ですから、この「B6ソフトカバーで1000円~1500円」というチャレンジは、最近出版業界では(かなり)成功した部類だと言えます

記事への反応 -
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    • http://anond.hatelabo.jp/20151118225408  業界内部増田です。  まず、本当にどうしようもない(不可抗力ではなくしょうもないという意味)で、その作者さんと編集者さんの持っている稼働で...

      • 角川ホラー文庫とかあとハヤカワとかの、 基本文庫で時々単行本・ソフトカバーとかのレーベルってどういう戦略なんですかね?

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          • 一読者としては、文庫本は小さすぎて文量のわりにページをめくる回数が多くて嫌、 ハードカバーは重すぎて、楽な姿勢で気軽に読めない、 ソフトカバーが本として手にフィットして読...

          • 「読者数からペイできる金額が決まり、その金額により装幀が決まる」に対して、 基本が文庫のレーベルって逆に売れる作者・作品が単行本になってね? という疑問でした。 単行本出...

          • (トラバつけたうえでこういう前置きを書くのもナンなんですけど) (でも、disってるように読めるかもという危惧があるので書くんですけど) (小声で言いたい案件) 「新刊書店に...

      •  読書にたいしてお金を使う習慣のある方、書店を日常行動の経路に含んでいる方、読書家という人種はある意味非常に高尚で「紙の書籍を手にとる楽しみ」「装幀を愛でる楽しみ」と...

      • 安くしても売れる部数が変わらないというのは森博嗣先生が実際に試しておられましたね。実際安くても何も反響(売り上げ、感想)がなかったとか。

      • http://anond.hatelabo.jp/20151119124356 おれは安くていいからいっぱいごほんがよみたいよう

      • 値段のことはおいといて、本の情報ってよっぽど注意していないと入ってこない。 昔は本屋行ったり新聞の書評や本の雑誌を読んだりして「むぉー。あの本もこの本も読みてえ。金が足...

    • それが、最近では-作品の内容云々ではなく、「本を読むという行為」そのものの地位が、相対的に下がって-新宿から、せいぜい下北沢にしか行けない。ような体験になってしまって...

    • 立花隆「フィクションは読まない。人が頭の中でこしらえあげたお話を読むのは時間がもったいない」 http://anond.hatelabo.jp/20151118225408

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