2013-01-25

桜宮高校体罰事件続き。「生魚と包丁まな板を使って料理を作ってください」。

元増田です。

前の記事http://anond.hatelabo.jp/20130124080522を書いて一晩たって、またちょっと考えた。

前の記事と、朝日の記事にちょっとひっかかる点があったので。

朝日の記事をもう一回読み直してみることにする。

自殺前日学校で起きた事実に関することのみ抜粋著作権の範囲を超えてはいるが、必要なことなので。関係者の方のクレームあったら削ります

生徒がボールを取りにいかなかったり、パスを受ける際に相手の守備側選手を見ていなかったりするミスがあった。

 「なぜ、相手を見ない」。顧問試合中、生徒を呼び戻して、まず顔を平手でたたいた。さらに「なぜ、飛びつかない」などと、たたくたびに詰問。平手打ちは計4発ほどになった。

 その後も、「やるのかやらないのか」などと質問を繰り返し、頭を6発ほど指先ではたいた。生徒は無言で耐えていたが、最後に「やります」と大声で返事し、顧問も「行け」とコートに送り出したという。

 その後のタイムアウト(休憩・作戦タイム)でも、ばてて足元がふらついていた生徒に、「しっかりやれ」と3発ほど顔をたたいた。「たたかれてするのは動物。それでいいのか」と叱りつけたとされる。

■体育教官室で1時間議論

 生徒はさらミスをしたとされる。顧問が再び「なぜ相手を見ないんだ」としかると、「余裕がありません」と答えた。

 顧問試合後、生徒を呼んで体育教官室に。話し合いは約1時間に及んだ。

 「簡単なことを言っても、たたいても分からんようだし、どうすればいいんだ」と顧問は尋ねたという。

 この日は試合以外でも、生徒が顧問質問に口ごもる場面があった。「質問意味がわかる者はいるか」。顧問がそう尋ねると、多くの部員が挙手した。顧問は「みんなが選んだキャプテンなんだから、教えてあげなさい」と促したという。

■「覚悟決めて頑張るから

 解散は午後7時40分ごろ。直前に部員だけのミーティングがあり、生徒が顧問とのやり取りを打ち明けたという。

 「キャプテンを続けるのはつらい」

 「これまでの指導はどうなるんだ」と顧問

 考え直した生徒は「(引き続き)キャプテンやらせてください」。

 「これからも怒ったり、たたいたりするかもしれない。それでやれるか」

 「やります

 生徒はミーティング部員に「覚悟を決めて、頑張るわ」と話した。

 部員から「チームのために怒られているんやから、全員でカバーだ」「助けてやろう」と、励ましの声があがった。

 帰り道。生徒は親しい部員に手を振って別れた。暗い感じはなかったという。


顧問の教師の指摘は正しい。

そして多分多くの学校でこういう指導がなされているだろう。桜宮高校を評して「犯罪空間」と言った人もいるが、これが犯罪空間なら、運動部を持っているほとんどの学校犯罪空間だ、と感じた。

そして、チームメイトの言動も、正しい。

からあいう記事を書いたのだが…なんかが引っかかった。

何で引っかかるんだろう、と、もう一回記事を読み返した。で、なぜ引っかかるかわかった。

教師も正しい。

チームメイトも正しい。

正しすぎるのだ。

正しいことしか言わない。

教師は、その時々に「なぜ」と問いかけている。

自分で考えさせるためだ。

「どうするか」とも問いかけている。

自分で選択させて、自分で行動させるためだ。

でも。

それは、はじめから答えが決まっている。

「いや」という答えは、許されていない。

別の社の記事では生徒は、なぜキャプテンをしているか、と言われ、「進学のためです」と答えたという。

そういう「立派でない」答えは許されなかった。

生徒はミーティング部員に「覚悟を決めて、頑張るわ」と話したという。


それは、本音の言葉だっただろうか。

チームメイトも「みんなで助けていこう」と言った。

いい仲間だ。でもそこは、「おれもむかつくんだよな」とか、「間違ったこと」を言える場だったのだろうか?



私の先生は、いつも私たちに「スポーツマンらしく」、礼儀正しくしろと言っていた。

前にも書いたが、それは私たちが「そうしたい」と思ってやっていたわけではない。やらなければ怒られるし、それが「先生に言われた正しい振舞だから」だ。「やりたいから」やっていたわけではない。

「やる気」に関してもそうだ。

先生は、もうあらゆる機会を捉えて、私たちにやる気があるか、を試していた。ちょっとした言葉尻を捉えて、「やる気」があるかのチェックをしていた。

そこで怒られたわけではないんだけど、そこで「やる気がない自分」が表出してしまうと、今まで言ってたことは嘘じゃないかい、ってことになってしまう。

それはいかにも不誠実だし、「人間としてマズイ」ことだった。

その「一貫した自分」を守るために、どんなことがあっても「やる気」がなきゃならないんだった。

から一挙一動を気にしていたのは私たちの方だった。この先生の問いかけは、「そう」であるか、「そう」でないか

もう、毎日ブービートラップのようである


今でもそういうところがある。

この言説は、人間として不誠実か(と他人に思われるか)、「お前が言うな」とブーメランが飛んでこないか、「社会的に」間違ってないか

言いたいことを言っているようだが、どこかでそれを気にしている。時々「あっこれを言ったら前の言説と矛盾する」と、消すことさえある。

若いうちの「訓練」というのは根強いもんだな、と、ため息が出てしまう。

そういうのがだんだんめんどくさくなってきたので、この頃はいやがられそうな言説でも「わざと」出すことがあるのだけど。

で。

朝日の記事を見ると、みんな「間違って」ない。

愛情と熱意にあふれた先生と、やる気と思いやりにあふれた仲間。

みんな「正しい」。

生徒だけが「間違って」いる。

正確に言うと、「正しくないことを考えちゃう生徒だけが」間違っている。

こりゃ、息が詰まるわ、と思う。

やる気に満ち溢れて、信頼によってつながれている仲間と一緒にやれば、確かに成長する。

けど、それは、「本当に思った」時だけだ。

「決められたことだから」やってるのって、本当につらい。

周りが正しいとなおつらい。

自分けが間違っているのは、本当につらい。

何回頑張っても「正しく」なれないのは、一番つらい。

こういうこと言うと、またマズーなのかもしれないが、今回生徒が自殺したのって、本当に体罰によるものか、自分的には疑問がある。

リンチに至るほどの暴力ならそれ自体がきついが、生徒の遺書から見えるのは「何で自分だけ」という不公平感のような気がするからだ。

個人的に体罰がきつかったのは、みんなの前でさらし者になって、「お前は間違ってる、間違ってる、速く答えを出せ」とせかされたからだ。考える時間はない。「正しい」答えは決まっている。でもそうできない。でも答えないといけない。早くしないと殴られる。

でも、わかんないのだ。

から絶望する。どうやったって、わかんないんだもん。

体罰なければ死ななかったかもしれない。

でも、「私なら」つらいのは体罰じゃなかった。「体罰によって」「正しい答えを」せかされることだった。

生魚と、包丁と、まな板を渡して、

「これで自由に料理を作ってください」

と言われると、たいていの人が刺身を作る。

でも、事実上刺身しか」作れない。

答えは、渡された時から決まっているのだ。

それは、「自分で考える」ことにならない。

自分で考えた」ことでもない答えをせかされると、つらいのだ。

生徒と私とは違う。

バスケのことはわからない。

体育科という特殊なところにいたこともない。

年代だって違う。

から、「ほんとうのところ」は、よくわからない。

から、「私はこう感じる」でしかない。

でも、高校のときの、あの「正しい自分」「やる気がある自分」を求められたつらさを思うと、この子、「正しすぎる」ところにいてつらかっただろうなあ、と感じてしまうのだ。



部活にいて、私はたった一つ嘘をついた。

やめる時、「親が進学のためやめろと言ってる。ケンカして抵抗しているがどうしようもない」という口実でやめたのだった。

もちろん、方便だ(親は知らない)。

引退試合前にやめることは無理だと思っていたので、ケンカして意思を通しているがやむをえない、という設定ならやめられる、と思ったのだ。先生は、「本気ならケンカしてでも意志を通せ」とよく言っていたから、「そういう設定」なら受け入れられると思ったのだ。

ちゃんと本音を話してやめる「べき」だったかなあ、と今考えるが、本音は言えなかった。

嘘をついてよろしくない行為ではあったが、多分それは、私が部活でたった一つ自分意志を通した行為だったのだ。

人として不誠実だったし、間違ってはいたが、結果的に、私は残りの高校生活、大変大変幸せだった。

ダラダラ過ごせる自分クラスが大好きだったし、たくさん笑ってたくさん勉強してたくさんの人と話せた。

やめてよかった、と今でも思う。


追記

これは主として個人の経験から追憶談です。

現在の事件に関する考察はすべて推測であり、どなたか責任があると指摘するものではありません。

ご友人を亡くされてつらい思いをなさっている方々について配慮が足りなかった部分がありました。

記事への反応 -
  • 大阪市立桜宮高校の体罰事件が毎日伝えられている。生徒はキャプテンになってから毎日しかられ、体罰を受けて参っていたという。教師は体罰を辞めます、といった数日後の練習試合...

    • http://anond.hatelabo.jp/20130122033549 元増田です。 トラバとブクマ、ありがとう。いろいろ考えさせられて思い出すことも多かったです。 それでちょっと重要なことをいくつか書き忘れていた...

      • 元増田です。 前の記事http://anond.hatelabo.jp/20130124080522を書いて一晩たって、またちょっと考えた。 前の記事と、朝日の記事にちょっとひっかかる点があったので。 朝日の記事をもう一...

        • 顧問の教師の指摘は正しい。 いや正しい部分は何一つないから、それ。 まず、  「なぜ、相手を見ない」。顧問は試合中、生徒を呼び戻して、まず顔を平手でたたいた。さらに「な...

          • 元増田です。トラバありがとう。 はい、ごもっとも。 増田の言うことは全部正しいです。 でも、それは、卒業して、仕事をして、「指導者」も一つの職業だと理解できるようになっ...

        • 元増田です。 事件について推測が行き過ぎて関係者の方に配慮が足りなかったかと感じましたのでその旨追記しました。 事件からまだ間もない時期であることを失念しておりました。

    • 言っちゃあなんだが、その顧問の水準はそんなに高いとは思えない。下から数えた方が早い方なんじゃないか。

      • 元増田です。 うーん、そうかもしれない。 生徒があまりやる気を持って動いてくれないので悩んでいたっぽい。 私たちの代だけじゃなく、その後もいろいろあって、定年まで待たずに...

        • なんかスポーツの指導って難しいね。 むしろ難しいのが当然だろう。例の顧問くらいのキャリアで簡単に上達させられるなら今頃NBAは日本人選手で溢れかえってる。 俺の母校のバスケ...

    • 内柴ですらかばう人いたのだものなぁ。 私は先生にレイプされて嬉しかった、あれは愛情だった、訴えるなんて許せない。

    • 確かにあんまり体験を語る人がいないと思うので、自分の体験というより記憶を書く。 大学の頃の部活が結構酷くて、何かあると口を開く前に殴る人が部長だった。 遅刻とか部員に落...

      • 元増田です。 ああ、そうそう、うちの部でもやめたいとか言うと「負けるな」って言われた。 苦しさに負けるな、ってことなんだろうけど、いや部活動をやめることは負けることなのか...

    • 学生時代の昔語りをしてはいけないと言われているから、匿名で書く。 俺は小中学校通じていじめられっ子で、毎日他の生徒に引っ叩かれ、学ランには毎日スリッパの跡がつくような楽...

      • 元増田です。 ちょっと・・・きついね。 桜宮高校の場合は、今日の朝日の記事を見るに、チームメイトからはいじめられてなかったみたい。だからこそプレッシャーがきつかった、って...

    • 元増田です。 なんかスラムダンクのゴリ思い出した。 彼もゆるゆるやってる先輩同期が許せなくて、「ダブルスコアのどこが健闘なんですか」とかいって「暑苦しいよおまえ」とか言わ...

    • 元増田です。 なんかいろんな方に読んでいただいてうれしいす。 しかし、これは自分の能力の問題なのですが、やっぱり説明しきれてないっぽいところがあって、今頭を抱えています。...

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