僕はただの大学生だ。
でもキャバクラという場所で働く女性たちを心底尊敬している。というのも僕のバイト先がキャバクラだからだ。
キャバクラのボーイというと若ければ長髪のチャラそうな男が、そうでなければ怪しげな雰囲気のおじさんがやってるイメージだが、僕自身は全くそんな感じではない。量産型の地味目の男子大学生だ。働く時間が当時の生活リズムにちょうどよかったのと、単純な好奇心でこの業界に飛び込んだ。「夜の世界へようこそ」面接で採用が決まったとき、店長から言われた言葉は、僕を未知なる世界への期待に駆り立てた。
でもいざ仕事が始まってみると、やっていることはそこらの居酒屋とかの店員と変わらない。お酒を作って出したり、変わった仕事といえば田舎のキャバクラだから、女の子を車で送迎することぐらいだ。夜の世界での主人公は僕たちボーイではなく、常に女の子たちなのだ。
キャバクラとは究極の接客業である。客と女の子の関係性がそのまま売上と名誉に反映されてゆく。実は、キャバクラで働く女の子にはマニュアルが存在している。そこにはこう書かれている。「疑似恋愛を作り出そう!」彼女たちは接客のプロであるだけでなく、人の心を捉え虜にするプロになることも求められる。彼女たちはお金の対価として、恋愛において会うたびに距離が縮まるドキドキ、甘い雰囲気、そして男性の理解者として精神的な支えを提供する。相当コミュニケーションに精通していないと、とてもではないがこなせる仕事ではない。まさに究極の接客業。
もちろん、ご存知の通りそんなコミュ力お化けの女の子は少ないし、普通の女の子だって沢山働いている。僕が言いたいのは、高みを目指そうと思えばいくらでも目指せるということで、実際すごくパワフルに、八面六臂の活躍をする女の子たちがが確かに存在するということだ。
僕が働いていた店で一時期No.1を取っていた女の子は、枕営業なんて絶対しないタイプだったけど出勤すれば常に複数の指名をもらっていた。女優みたいに綺麗な女の子だったけど、彼女は決して高飛車ではなかった。コミュニケーションの取り方はむしろ「貞淑な聞き上手」キャバ嬢にあるまじき清楚さは、彼女の生来の稀有な人の良さから来ていたし、男の人はギャップにめっぽう弱いものだ。人を夢中にさせる才能は確かに存在するもので、しまいにゾッコンになったある客から婚姻届にサインをするよう迫られてしまった。
男に媚びて金をもらっているとか、女は楽でいいなとかいろいろ言われる仕事だけど、僕はその渦中で働いているからこそ、職業に貴賎なしだと本当に感じる。彼女たちはセクハラに耐え、話を盛り上げ、巧妙に男たちを楽しませる。そこにプロ意識があるし、時には僕たちボーイの不手際を厳しく指摘する。そんなときには、彼女たちの仕事への熱意にハッとさせられることもあった。彼女たちは確かにある意味でのエキスパートたちだ。だから、僕はそんな女の子たちを心から尊敬している。
他にも、37歳なのにどう見ても20代前半にしか見えない美魔女や、僕とあまり歳が変わらないのに麻雀競馬競艇パチンコなどなどおっさんの趣味を全てカバーする女子大生とか、面白い人にたくさん出会ってきた。
でも、僕が働いているのは地方のなんてことはない規模のキャバクラだ。それなら一体、東京のしかも夜の世界の中心地、歌舞伎町にはどんなすごい女の子がいるというのだろう。田舎者の僕には全く想像がつかない。来年、就職で上京する。お金ができた暁には是非ともいつか行ってみたいなあ。