2017-10-18

神戸製鋼データ改竄に関する簡単説明など

なんでこんな記事を書こうかと思ったかと言うと、公式リリースでは引張試験などについての説明がなく、何の知識もなかったら何言ってるかさえ読み取れないだろうと思ったから。

http://www.kobelco.co.jp/releases/1197833_15541.html

魚拓: https://megalodon.jp/2017-1017-2227-45/www.kobelco.co.jp/releases/1197833_15541.html

機械的性質って何さ?

文中に頻出する機械的性質について説明する。

まず機械的性質って項目を列挙するだけで結構ある。引張強さ、圧縮強さ、剪断強さ、硬さ、曲げ性、靱性、脆性、耐摩耗性などなど。材料開発の現場では金属組織化学特性(耐酸性・耐アルカリ性)なども評価する。

評価方法

基本的にこれらにはJISなどの規格によって定められた試験方法存在している(たまに独自試験もあるが)。勿論そういった規格に沿った試験機が広く販売されている訳だが、試験機も良いお値段がするので自社内で全部揃えようとすると結構大変なんだ。だから、その手の装置を抱えてる試験専門の会社外注する事も多い。自社でやるにしても外注するにしても測定したら検査成績書ってのを発行する。普通はそれを製品に添付して顧客に納品する。

簡単試験は自社でやるんだが自社でやる試験ほど誤魔化しやすい。その中の代表例が「引張試験(引張強さを測る試験)」と「ビッカース硬さ試験(ビッカース硬さを測る試験)」である。硬さの測定方法は幾つかあるが、説明の分かりやすさのためビッカース硬さをチョイスした。

自社内でやりやす試験=偽装やす試験

さて、偽装やす試験について書く。代表例は上述の通り引張強さとビッカース硬さニュースリリースに「検査データの書換行為」と書かれているのはこのどちらかだと勝手に思っている(個人の感想です)。

引張強さとは?

普通、引張強さ(tensile strengh)というのは、その試験片での最大荷重(M点)を、試験片の元の断面積で除した値である

『鉄鋼材料改訂版』著者: 門間改三 (発行: 実教出版) P.23

例えば、エレベータロープに何人ぶら下がれるか分からなかったら怖いと思うんだよね。だから千切れるまで測ってみよう、と言うのが引張試験の考え方。実際には材料から試験片を切り出して破断するまで力を加え続け、ひずみと応力関係を測定する。結果として鉄(SS400)なら400~510[N/mm^2]、アルミ(A5052)なら230[N/mm^2]の力を加えられますよ、というのが分かる訳。世に出回っているあらゆる製品は、この数字だけは絶対に超えないように設計されている(はず)。

試験片作ったりするのにちょっと時間がかかるから数検査は難しいけど、製造ロット毎くらいには測る。顧客から絶対要求される。

ビッカース硬さとは?

これは四角錐のダイヤモンド(圧子と呼ぶ)を決められた力で材料に押しつけるだけ。凹みの寸法で硬さが分かる。製品破壊せずに実施できるから簡単なんだよ。楽な試験ってやる気になるからいいよね。

ところで「硬さの相似則」ってのがある。実はビッカース硬さと引張強さには相関があり簡易的に換算できるんだ。「ビッカース硬さ 引張強さ 換算」とかでググれば出るんだが、得られる結果は参考値にすぎない。不適合製品の③はこれをやりました、と書いてある。

引張試験データ改竄するとどこらへんの製品ヤバいか?

どれくらいの荷重でその材料が壊れるか分からなくなるのが一番の問題しか材料側が危険でも設計側で安全マージンが取られていればそこまで心配する必要はない。

100人吊ったら千切れるはずのロープが、データ改竄により90人吊った時点で千切れると分かったとしても、10しか吊らない設計になっていたら実用上安全と言える。こんな風に100kgfで壊れる部品設計上で10kgfまでしか荷重がかからないようにするような状態安全率(100kgf/10kgf=)10状態という。

この安全率は業界毎、製品毎に決まっている。例に出したエレベータロープ安全10以上にするように決められている。「うちの製品に使われてますけど大丈夫です」などというアナウンスを出した会社もあったが、そういうのは設計面で高い安全率を設けていたり、または材料を購入する毎に自社内で評価試験実施しているから言える話で、何も根拠なく言っている訳ではない。

問題なのは安全率の低い業界の話。例えば軽さが重要業界、すなわち航空宇宙関係部品だ。どうしても軽さと安全率はトレードオフ関係なので安全率がかなり低い。基本は1.5、物によっては1.2を割る場合もあるとか(伝聞)。安全率1.1ってどういう状態かというと限界値の(100*1/1.1≒)90.9%まで使用するという状態から、仮に引張強さが10%も低く偽装されたら壊れる計算になる。航空機メーカーメンテナンス等に熱心なのは運用でカバーしているからなので、ボーイングに納入した材料データ改竄洒落にならないと思う。

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うそう、ニュースリリース読んで駄目すぎて笑ってしまったのが本件不適合製品④で、「引張特性の一部を書き換えたりした」他に「測定していない微量合金成分値を入力」したと書いてあった件。もはやそれ別物じゃん!

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2017/10/20[00:51] 追記: 結構反響が大きくてビビってる。

かにブックマークコメントにて補足されているように応力やひずみの説明をすべきだったし、やはり弾性変形・塑性変形などについても説明すべきと思いましたが、分かりやすさのために色々と割愛しました。説明もかなり雑ですが考え方として読んで貰えたら嬉しい限り。あと、勢いで書いてしまったので以下の通りに怪しい日本語修正しました。

修正箇所:

①×引張試験などについての説明が何もなく

 ○引張試験などについての説明がなく

②×試験機も結構良いお値段が

 ○試験機も良いお値段が

③×この数字だけは絶対に超えないように部品設計されている(はず)。

 ○この数字だけは絶対に超えないように設計されている(はず)。

④×または材料購入する毎に

 ○または材料を購入する毎に

⑤×航空機メンテナンス等に熱心なのは

 ○航空機メーカーメンテナンス等に熱心なのは

  • アメリカを始めとした諸外国にいくら賠償しないといけないのかが気になる

  • 航空機の安全率は基本1.5だよ。ただし全体に安全率掛けた値は終極荷重という永続的でない(三秒耐久)値として設定されているので、永続的な負荷としての安全率はもっと低い。そし...

  • 違う合金にするって、スゴすぎ。

  • そうかアルミだったなこれ やばすぎ

  • スカイツリー近くに住んでるから心配してます・・・ 地震で倒壊とかしないんだろうか・・・

    • 東日本大震災で大丈夫だったんだから首都直下型地震とかでもないかぎり大丈夫でしょ

  • なぜ神戸製鋼問題で微量合金添加量の改ざんが問題なのか説明する. そもそも材料というのは, 周期表にある鉄, アルミ, 銅, マグネシウムなどの元素に対し, ある程度の添加元素を加え, ...

  • そうそう、ニュースリリース読んで駄目すぎて笑ってしまったのが本件不適合製品④で、「引張特性の一部を書き換えたりした」他に「測定していない微量合金成分値を入力」したと書...

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