最近はめっきり離れてしまったけれど、初音ミクがリリースされたときは大学生でいわゆる”ニコ厨"だったから、まさに初音ミクに熱狂していた当事者だった。
初音ミクがあれだけ受け入れられた理由は色々なところで語られているだろうけれど、自分自身の思い出として、これ以上記憶が薄れる前に簡単に当時の記憶を書き留めておきたい。
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私が大学一年生のとき、ニコニコ動画(仮)のサービスが始まった。今のように独自の動画があるわけではなく、YouTubeの動画を利用してその上に文字が重なる方式だった。それは爆発的に話題となり、ネットに入り浸っていた私は気づけば暇さえあればニコニコ動画を見るようになっていた。
その後程なくしてニコニコ動画のサービスが止まり、暫くたった後、会員登録が必要なサイトとなって新たなサービスが始まった。会員登録をしたら負けだと思ったのか、しばらく登録せずにニコニコ動画と関わらずに過ごしていた。
しかし結局は我慢できなくなり登録してしまった。IDは30万台だったと思う。その後は着実にニコ厨への道を歩んでいき、毎日ランキングを追いかけては様々なジャンルの動画を楽しんでいた。大学生らしくバイトとサークルに忙しい毎日だったけれど、それでもいつも何時間かは動画を見ていたと思う。
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なぜそこまでニコニコ動画にハマっていたのか思い返すと、やはり単純に動画のコメント上でのコミュニケーションが面白かったというのが最大の理由だったのだと思う。会員登録して経ったした頃にはニコニコ動画というプラットフォームが本当に好きになっていた。
そうなると同時に、少しもやもやした感情も芽生えていた。ニコニコ動画はどうしてもアンダーグラウンドなサイトだったのだ。
当時楽しんでいたコンテンツといえば多くはアニメであったりそのMADがほとんどだったように記憶している。厳密に著作権に問題があるコンテンツが削除されれば、ランキングの上位はほぼ消えて無くなるようなサイトだったのだ。私が楽しんでいた動画の中には料理動画などの純粋なオリジナルなものや公式に掲載が許可された著作物などもあったが、それがムーブメントとなることは決して無かった。
好きなのはあくまでニコニコ動画というプラットフォームであって、違法コンテンツなんて必要ないんだという思いを叫びたかったが、それを証明することはできなかった。
そんな思いが大きくなっていた中、救いのように現れたのが初音ミクだった。最初は描いてみた動画で盛り上がっていたが、程なくして既存の曲を歌わせたものがアップロードされ、そしてついにオリジナル曲が発表されてきたのだ。そして次から次へとオリジナル曲が溢れていった。
「あぁ、これでもうニコニコ動画が無くなることはない。」
それまでは全ての著作コンテンツが削除されたらもうほぼコンテンツが無くなるという状況であるから、いつ無くなってもおかしくないサイトだった。今思えばそうなることは無いとは思うのだけれど、当時の自分の感情としては、白と黒のギリギリのところで綱渡りをしている、そんなサイトに思えていたのだ。
しかし初音ミクを用いた楽曲というオリジナルコンテンツが盛り上がりを見せた時、初音ミクの動画さえあればこのプラットフォームで楽しめるんだと自信を持って言えるようになった。もちろん誰に言うわけでもないんだけれど。
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こういった思いを持った人が全てだったかというともちろんそうではない。それは当たり前で、当初の初音ミクの曲のクオリティは今と比べ物になるようなものではなく、本質的なコンテンツの質という意味では他のコンテンツよりも低かったのは間違いなかった。
しかしそれが逆に良い循環を生み出すことが出来たのではないかと思う。相対的に質が低いコンテンツである初音ミクを好んで見る視聴者は私と同じように「ニコニコ動画」それ自体が好きで、後ろめたさのないコンテンツで楽しみたいという思いが心の何処かにある層だったのではないだろうか。こういった良質な消費者が集まることで、更に創作者が増えるという最高の循環が自動的に出来上がっていた。
実はこれこそが初音ミクが流行った理由なのではないかと思っている。
ニコニコ動画のユーザーの熱量が今からでは想像もできないほど高かった時に、後ろめたさの無いコンテンツに飢えた少なくない数の良質な視聴者がいて、私達がコンテンツを作りあげていける対象が現れたことが、あそこまで大きなムーブメントになったのだと思う。
初音ミクの素晴らしさは後付けでいくらでも説明できるが、あそこまでの熱量で受け入れられたのは、ユーザーのニコニコ動画への愛を一手に引き受ける存在だったからだったのではないだろうか。
もちろん他にも受け入れられた要因は色々あると思うし、あの時初音ミクを見ていた人たちもその理由は人それぞれだと思う。それでも私はあの時あのタイミングで初音ミクが出てきたのは本当に救世主だと思ったし、"ミクさんマジ天使"という言葉では片付けられないくらいの思いで初音ミクを応援している理由でもある。
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と、ここまで書いたものの、初音ミクの曲を聴いていた期間はほんの1年程度で、ニコニコ動画も同様の時期からほぼ見なくなってしまっている。でもあの当時の熱量はインターネットを20年以上使ってきて一番だったように思う。きっとそれぞれの人にそんなサービスがあるのだろう。初音ミク10周年という記事を見て少し懐かしくなったので、当時のことを思い出しながら書いてみた。
Flash黄金時代の回顧の仕方と似るんだな MMDの話まで入れるとさらに近づく感じ