字が汚いという自覚があったし、他の人からもよく指摘されていた。
とんでもない勘違いだと思うけれど、それを否定したところで自分の字はきれいにならない。
「ぎっちょ」は良くないという、ふんわりした理由だったと思う。
いまだにボールをける時とか、投げる時は左。
書く時や包丁を使う時は右という、なんともバランスの悪いことになっている。
あとは、成長が遅い子だったとか、そもそも3月末の早生まれだとか。
そんな諸々の理由も重なって、小学校に上がってからは他の子と大きく差がついてしまい、色々と苦労した。
授業についていくのが大変で、ノートは書き終わるのに精一杯という感じだったと思う。
来年のクラス替えまで、代理の先生が来ることになったのはいいんだけど、当たったこの人が最悪だった。
具合が悪くてもだめで、とにかく完食を求められた。
まず、何も聞かされない状態で、紙に仲のいい人と嫌いな人。それから好きな人を書けと言われた。
小学2年生なんて簡単なもので、何の疑いもなく当時好きだった男の子の名前を書き込んだ。
そうしたら、隣の席にされた。
もう、好きな同士ですって丸わかり。
恥ずかしくて、恥ずかしくて、泣きたい気分だった。
他の席でも、両想いの人が隣になっていた。
組み合わせがなかった子達は、同性同士で並んでいた。だから、露骨なんてものじゃなかった。
このあと抗議が殺到し、それにふてくされたのか、学級会の途中で先生は帰ってしまった。
勉強も遅い、しゃべるのも遅い、かけっこも遅い。体が小さいから給食は残すし、さらには席替えの抗議に加わっていた。
じゃんけんで配役を決めるはずの劇では、先生の勝手な変更で草の役にされたりと、子供なりにしんどい思いをした。
そんなある日、ノート提出を求められた。
ちゃんと授業を受けているかのチェックとか言っていた。
いまでもはっきり覚えている。
自分だけノートが返ってこない状態で、先生が教壇に一冊のノートを出した。
「このノートは誰のですか? クラスで一番字が汚くて、先生は文字が読めませんでした。まだ、ノートが返ってきていない人は手をあげてください」
さすがにいたたまれなくなって、めそめそ泣いた。
それでも「手をあげてください」と言われ続け、泣きながら手をあげた。
クラス中に笑われて、それから一度も顔をあげずに、ずっと地面を見ながら家に帰った。
その日から、字を書くのが嫌いになった。
自分にトラウマを植え付けた先生は、なぜか二学期の終わりに学校から消えた。
当時は、いなくなったことがうれしくて疑問視しなかったけど、たぶん問題になったのかなって思っている。
危ないことや、必要なく騒げば怒る先生だったけど、それ以外では優しかった。
昼休みは一緒にドッチボールをした。一緒に遊ぶのが楽しくて、苦手な体育がちょっとだけ好きになった。
とてもよく書けているから、作文のコンクールに出したいと言われた。
まさか選ばれると思わなくてビックリしたけど、先生にほめられるなんて初めてで、本当に舞い上がる心地がした。
清書をするのは苦痛だった。
苦痛ではあったけれど、大好きな先生に「ていねいにゆっくり書けば、それでいい」と言われたのでやった。
受賞はしなかった。でも、いい思い出だ。
本当に大好きな先生だったから、気持ちに応えたかった。それでもやっぱり、字を書くのだけは嫌いだった。
その上、練習を拒否したものだから、ノートの字は汚いままだった。
この悪い流れを断ち切ることができず、ついに三十路まで引きずって、いまや完全なコンプレックスだ。
いまさらながら字の練習をしたくて、ついに買ってきてしまった。
月並みだけど、この子を守るためなら、命を捨てても惜しくないと思えるほど愛しい。
昨日、子供の寝顔を見つめながら、ふと思ったんだ。
ぴかぴかの制服を着て、新品のバックを持って、幼稚園に行くんだよね。
その時につける名札を、いまの下手な字で書くの?って。
この子のために、できる限りのことはしてあげたい。
そう思うのは簡単だった。だから、できる限りの中に、文字の練習もスムーズに入ってくれた。
あんなにいやだったのに、なんとも単純。でも、それでいいから練習しようと思う。
でも、もういいじゃないか。
先生の影響なんか無かったことにして、やりたいことをやることにした。
それから、リマインダーを設定して、定期的に読み直して、思い出すことにしよう。
どうか間に合いますように。ぴかぴかの制服に似合う、いい名札をつけてあげられますように。
よし、がんばるぞ!
<追記>
たくさんのコメントありがとうございます。
この年になっても、誰かに褒められたり、励まされるとこんなにうれしいものですね。
昨日の夜、練習をはじめました。
そうしたら今朝。子供が練習用ノートに、赤いクレヨンでグルグルした線を描いていました。
画用紙が切れたのかなと思い「どうしたの?」って聞いたら、「はなまるっ!」って言うんです。
お母さんは勉強してえらいし、夕飯のグラタンおいしかったから花丸にしておいたって。
これだけたくさんの励ましと花丸があれば、一年続けられそうです。
つまづいた時や投げ出しそうな時に、コメントを読みながらやっていきます。
本当にありがとう。
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