2023-03-26

江澄とかいう令和のスネイプ

完全な悪役ではなく、善と悪ふたつの要素を持つグレーな性格キャラクターには、なぜだか陰湿思い込みの激しい粘着質な女性ファンが多くつく。


平成時代はそのようなキャラクター代表ハリー・ポッターのセブルス・スネイプだった。私のハリポタにおける推しである

JKRは「スネイプはまったくのグレーな人間聖人ではなく、復讐燃えいじめをしたが、悪人でもなく、魔法界を救うために死んでいった」とたびたび説明しているが、それでも「スネイプは英雄聖人だ。スネイプを悪だというやつはおかしい」とSNSで主張しまくり、原作者にすら説教をするほどの熱心なスネイプファンは跡をたたない。

原作ファンや、「グレーなスネイプ」をそのまんま愛しているスネイプファンは、このようなスネイプファンを煙たがり、原作者もこ過激なスネイプファンの行動をマンスプレイニングとかけて「スネイプ・スプレイニング」と呼んでネタにしてきた。


で、話は令和に移る。ここ数年、ao3を席巻するほど世界規模で流行っている中国発のBL小説魔道祖師」にも、江澄というスネイプのようなキャラクターがいる。魔道祖師にハマって、案の定スネイプの時と同じように江澄にハマったのだけど、江澄はまさにスネイプのポジションであり、スネイプについていたような「厄介で粘着質で思い込みの激しい女性ファン」が多くついているのを見てパブサするたびにうんざりしている。



江澄は確かに不憫でかわいそうな経験が多い。若くして家族と門下生たちを惨殺され、師兄にも出奔された。が、それも自分の怒りと妬みにそまりやすい歪んだ性格能力的な至らなさが招いた愚かな結果であるともいえる。そのもっともたる例が鬼道術者に対する拷問で、鬼道を行っていないと判明しても拷問して殺しており、江家管轄領の住人たちから恐れられている。


江澄は原作者の墨香铜臭にも「性格が悪い」と言われている。窮地に陥った魏無羨を辛辣言葉で追い詰め、宗主という権力者立場でありながら魏無羨と協力し合わず彼を助けなかった。この物語ヴィランで(であり被害者でも)ある金光瑤に、「あのころの江宗主が魏無羨と連携をとれていたら魏無羨は死なずに済んだ」と指摘されているほどだ。ほかに自身性格の悪さが原因で、実の父親にはうとまれて愛されず、恋愛関係になった複数人女性にも愛想を尽かされて破局しているというエピソードもある。(後者原作完結後インタビューより)


アニメ3期の最終話にて、江澄は魏無羨をさら辛辣罵倒し、怒った藍忘機に髷を落とされた。それにより江澄は己を省みるための閉関修行に入る。

これらは原作にないアニメオリジナルの展開なのだが、アニメ制作陣により刑罰意図をもって明確に描かれている。無論、江澄が愚かな性格を直してこなかったことに対する罰だ。


本国放送時に初めてこのシーンを見たとき、「ああ、これで江澄は反省するだろうし、自分性格のせいで損ばかりする人生じゃなくなるな」と、江澄ファンとしてかなりほっとした。


作品を読んで感じていたが、原作者の墨香銅臭は主人公カップルの結末以外にはとくに注力しないタイプ作家である。なので原作の江澄は何も自身性格省みることなく、魏無羨とも完全に断絶して終わった。

原作を読み終えた時、江澄はこのままで大丈夫なの?という漠然とした不安あった。

三大世家の中で雲夢江氏は孤立しているという設定なため、この先何者かに陥れられるか、間違って拷問した相手関係からまれて攻め込まれでもしたら、雲夢江氏は今度こそ本当に危ないだろうという心配もあった。


からアニメ3期にて、江澄が己を省みる展開を入れてくれて猛烈に感謝しているのだ。江澄が自分の愚かな性格のせいでこれ以上不幸にならないようにしてくれてありがとう、と。

そう思っていたので、パブサしたときに、アニメ公式に対して烈火のごとく怒り狂っている江澄ファンたちの姿を目にして驚かされた。


原作にはないオチをつけて、こんなもの低俗二次創作だ」

「江澄が罰せられたことを自業自得だという人は人間性がおかしい。正直、引く」

「これからアニメ3期に対する愚痴不満スペースを開きます

「江澄を悪く言う人はブロック!」

「私のTLはアニメ3期への罵詈雑言が溢れている。私はTL構築に成行した!」


えっ、本気で言ってるの?と思った。

それから彼女たちの発する粘着質でじめっとした熱気を浴びているうちに気が付いた。「平成の間にさんざん見てきた厄介なスネイプのファンと一緒だ」と。


厄介な江澄オタクたちはひたすら「かわいそうな被害者」としての江澄のことしか語らず、原作ファンに江澄の至らなさを指摘されると烈火のごとく怒り出す。

彼女たちが話す江澄とは、「父親に愛されなかったせいで自分に自信が持てない性格で、日陰者の秀才、師兄に裏切られた被害者」であって、決して江澄の愚かで醜悪な部分を見つめようとはしない。

鬼道術者ではなかった人まで拷問していたことに対しては、「それは本人発信の情報ではないから嘘に決まってる。魔道祖師って噂が独り歩きすることの悪さを書いた作品から」「拷問したあとは必ず医者を呼んで手当してるはずだから問題ない」という主張である。身内である甥の口から拷問の話はでているため、この情報を嘘だと疑うのは正確な読み方だとは言えないだろう。


他にも彼女たちの中には「江澄は20歳ちょっと若さで生まれたばかりの甥(金凌)を子育てをした。金凌には乳母はいない」という通説もある。金家ほどの大家乳母を雇わず宗主業務で忙しい江澄が自ら金凌を育て上げたというのはいささか考えにくい。

推し自分を同一化する傾向もあるのだろうか。「乳母を雇わずに自ら金凌を子育てした」というのも、実際に小さいお子さんがいる女性によって主張されている。推し自分と同じことをしてほしいという願望があるのだろうが、そのせいで推しの姿が歪んでしまっている。


オタク女の中でも特に腐女子には推しを「共有」する文化がある。

推し自分たちが推すにたりうるほどの品性人格を備えていないというのは、彼女たちにとって受け入れがたく、思わず目をそむけたくなる事象なのかもしれない。

からといって、そのもの推しの姿を見つめようとはせず、自分たちが盛り上がるために都合よく推しを美化して愛でるやり方は、本当に良い推しなのだろうか?


一部の江澄ファンの異常に熱心な姿を見ていろいろ考え、疲れたとき、ふと脳内に晋江掲載時の魔道祖師初版の、墨香铜臭によるあとがきが思い出された。

まさか江澄がコメント欄の人気者になるとは思いませんでした」というものだ。

墨香铜臭もJKRの発言を追っていると、スネイプと江澄のファンにはかなり困らされているのが伝わってくる。まさかこれほど厄介で熱心なファンがつくなんて、原作者として想定外だったのだろうな。

こちらとしても、何故このようなタイプキャラクターには、粘着質で厄介で異常な熱気のある女性オタクファンにつきやすいのか、いつもかなり不思議に思っている。

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