2019-05-12

[] #73-7「娯楽留年生」

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「『キュークール』も観ているんですか。キュアキュアを観ていたってことは、そういったジャンルはかなり長いんですねえ」

何が悪いんですか。子供の頃に持った趣味を、今もなお続けている。良いことじゃありませんか。悪い理由がない」

「いきなり、どうしたんですか。別に悪いだなんて言ってないでしょう」

フォンさんの拗らせ方は、些か厄介といえた。

「やはり子供がいると自分時間が徐々になくなって、以前のように趣味に没頭できなくなるでしょう」

子供言い訳に使う人は、所詮その程度だったんですよ。ワタシはキュアキュアを観ていました、子供と一緒に!」

「なぜ、そこまで“子供と一緒に”を強調する」

現在社会的生活を維持しつつ、趣味も維持する自分”というものに並々ならぬプライドがあるらしい。

趣味継続させる”って意識が、そもそもズレているような気もするが。

「この歳になっても最新の動向を追いつつ、長年続けていくのは趣味だとしても大変でしょう」

別に大変だと思ったことはありません。仮に大変だったとして何も問題はない」

「ふむ、確かに自分はこの年齢になってからアニメを熱心に観るようになりましたね。たまにちょっと疲れていて、観ている途中で寝てしまますが、ハハハ

「それは年寄りゲートボールやり始めるようなもんでしょ。若い頃に始めた趣味継続させられるかって話と、ワタシの話を同列で語らないでくれ」

「さっきから、なぜそんな喧嘩腰なんだ」

しかも、酷く敏感になっている。

マスター個人的エピソードにすら、まるで自分否定されているかのように噛みつく。

あなたたちはワタシの趣味を軽んじている。年寄りの冷や水だと思っているんでしょう! ワタシが飲んだら腹を下すと思っている!」

周りの言葉が全てネガティブに聞こえているようだ。

言葉解釈差異こそあれど、“そう聞こえてしまうこと”に過敏なのは“思うところがあるから”だ。

他人生き方自分と違っていても、それはイコール否定にはなりえない。

趣味人の在り方だって千差万別だ。

自分は上手くいっているからだとか、自分のやり方がそうだからってのは大した理屈じゃない。

なのにそう言って憚らず、他人もそうあるべきだ、でなければ趣味人としては落第だと言うのは間違っている。

「ワタシはアニメに関する仕事をしているし、そういったものにも理解がある。ワタシは子供向けだからだとか、色眼鏡で見たりしない。ワタシは『キュークール』の大ファンだ!」

にも関わらずフォンさんは、他人姿勢否定して、己を大きく見せてまで自尊心を保とうとする。

ネガティブ思考で「自分ポジティブ趣味に励んでいる」と捲くし立てる。

翻って、どこかに負い目があることへの拒否反応といえた。

「あの作品には自由、愛、平和多様性が溢れているのに、あなたたちにはそれが分からないのか!」

そう語るフォンさんが、そのアニメから何も吸収できていないのは皮肉な話だ。

まあ、アニメの影響力なんて良くも悪くも所詮そんなもんってことなのだろう。


フォンさんの趣味アピールは留まるところを知らない。

「ワタシは楽しんでいる! 有意義だ! 納得している! あなた達とは違うんです!」

センセイたちはウンザリするしかないだろう。

とどのつまり趣味は各々が好きな配分でやるものだ。

マトモに笑うこともできないまま、いきり立って「自分は楽しんでますよ」といっても説得力はない。

それは、もはや趣味領域を越えているだろう。

「だめだ、だめだ。あの『キュークール』の素晴らしさと先見性が分からないなんて! アニメオタクに未だこんなのがいるから、この国は前時代的な表現がのさばり続けるんだ!」

フォンさんのおかしさを、恐らくセンセイたちも感じ取っている。

言語化して、指摘することもできるだろう。

だが、言わない、言えない。

なにせ本人が「楽しんでいる」、「有意義だ」と言い張っているから。

どんなに社会通念上やりすぎに見えても、個人自由から

から見て、明らかに意固地になっていたとしても、本人が良いと言っているのだから

非合法でもない限り、他人趣味にとやかく言うべきじゃない、なんて言うまでもない。

だが、それでも、今のフォンさんにあえて投げかけるべきはそういった言葉だ。

しかし居直られては、もう放っておくしかない。

余計なお世話をしてやる義理はセンセイたちにはなかった。

もし、言える人間がいるとするならば……。

「お父様……ひょっとして」

ジョウ先輩が何かに気づいたようだ。

突如、ドレスを着込んでいるとは思えないほどのスピードで走り出す。

そしてフォンさんのいる、喫茶店の扉を勢いよく開けた。

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記事への反応 -
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    • ジョウ先輩の話は予想以上に長く、結局バスが目的地に着いても終わらなかった。 しかし、途中で中断するのも気持ちが悪いと、ジョウ先輩とセンセイの間で意見が一致した。 俺もセ...

      • そんな状況に心を痛める者が一人いた。 知る由もない俺は、ひょんなことからその人物と邂逅する。 「あら、マスダ。奇遇ですわね」 ジョウ先輩だ。 「あ、どうも……」 バスの中...

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  • ≪ 前 「話は聞かせて貰いましたわ!」 「じ、じょ、ジョウ? なぜここに? 話を聞いていたって、どこで、どうやって……」 フォンさんは娘の電撃来店に慌てふためく。 「え、...

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