「うちの両親がやたらと一緒に観たがってさ。僕はそこまで観たいと思ってないのに」
「あ、あた、おれもそんな感じ。『タメになる』とか、『あなたにとって、いいものだから』とか何とか……」
しかし物語だとかキャラクターについてだとか、アニメの内容に関することではなく、それを観ている親についての愚痴に近かった。
「まあ、あれって如何にも女子向けって感じだしな。俺たちが観るもんじゃない」
「あ、あれ……意外だね。タオナケは好きそうなのに」
「私、その言い方すごく引っかかるんだけど、どういう意味なのかしら? 女子の大半はああいうのが好きだと見くびってるわけ? それとも私個人に対するイメージの押し付け?」
「おいおい、ドッペルにそういう絡み方してやるなよ」
こんな調子で、本来想定されているであろう層への評判がイマイチという状態だった。
「私、うまく言えないんだけど……あのアニメって大人の顔色うかがいながら作ってる感じがするの。しかも……うちのママみたいな一部の大人の顔色」
明け透けにモノを言うタオナケが、なんとも歯切れの悪い言い方をしている。
「な、なんか変な感じだね。子供よりも大人の方が熱中してるだなんて……」
「いや、むしろそのせいだろ。大人がマジになればなるほど、俺たち子供はヒくんだよ」
弟の指摘がどこまで的を射ているかはともかく、実際『キュークール』の子供ウケはお世辞にもいいとはいえなかった。
しかし大抵の子供は、そういったリアクションを上手く伝える術を持たない。
俺も弟たちも、『キュークル』の面白さがイマイチ理解できないでいた。
観ている人がいるってのは分かるし、彼らが何に熱中しているかってのも表向きには分かるんだけど。
こうして大人と子供の間で意識が剥離していくなか、『キュークール』は“流行って”いった。
父の周りでも、やや特殊な状況ながら『キュークール』の話題は盛んだった。
だけど、少し状況や認識が違う。
「『キュークール』の15話、ネットですごい話題のようですね」
「そうらしいな。オレは何が面白いか分からんので観ていないが」
「シューゴさん、監督なんですから話題の作品はチェックしといた方がいいですよ。そもそも、観なければ面白いかどうかも分からないでしょ」
「理屈なんていらねえ。オレくらいになると、観なくても面白いかどうか分かるんだよ。オレが観たいと思えない作品はイコール面白くない、これが名実。他の奴らがどう思うかなんて関係ないね」
「……まあ、個人の自由なので結構ですが、それをインタビューとかで誇らしげに言うのはやめてくださいね。分かる気もないのに、分かってるようなことを言ったらまた火傷しますよ」
父の職場はアニメのスタジオなので、同業の話題には注目せざるを得なかった。
「あ、お二人方、おはようございます。『キュークール』の15話、すごかったですねえ。1話から出ていたモブキャラが満を持して変身を……と思いきや、まさかの拒否。『誰でも魔法少女になれる』っていうコンセプトのアニメで、あの展開をやるなんて。個人の自由意志を尊重しているというメッセージが、これでもかと押し寄せてきますね!」
だが、それを抜きにしても同僚のフォンさんは格別だった。
作品の動向をチェックしているというよりは、ただファンになっているようだった。
「ワタシ感動しちゃいましたね。とうとう子供向けアニメも、ここまで来たかと。感動のあまり『キュークール・クーラー』買っちゃいましたよ。ほら、魔法の力で、いつでもどこでもチョー涼しい! これでもワタシも魔法少女!」
『ラボハテ』っていうロボットメーカーが、以前から力を入れている企画があった。 それが『魔法少女プロジェクト』とかいうヤツだ。 「誰でも魔法少女に変身して、素敵な力を使え...
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