そんな状況に心を痛める者が一人いた。
「あら、マスダ。奇遇ですわね」
ジョウ先輩だ。
「あ、どうも……」
俺は気まずそうに会釈をした。
とってつけたようなお嬢様言葉に、とってつけたようなお嬢様服。
見た目や言動が強烈なのも相まって、俺はこの人が苦手だ。
「へえ、マスダ。このような御令嬢と知り合いだったのかい。人脈が広いね」
隣にいたセンセイが会話に入ってくる。
実際にはセンセイと俺の会話中にジョウ先輩が入ってきた、といった方が正しいが。
「いえ、センセイ。彼女が在学中に先輩後輩の関係だっただけですよ。この喋り方や服装は彼女の趣味なんです」
「え、じゃあ、それはただのキャラクター作りの一環というわけかい」
センセイ、そこはあまり掘り下げなくてもいい。
「おや、それは……気をつけていたつもりだったが、見た目や言葉遣いで安易に人を判断してしまったようだ。申し訳ない」
「むしろ安易に判断してくれて結構ですわ。そのためにしているのですから」
「ほう、そこまで割り切れるとは、達観した考えをお持ちのようだ。あなたにとってそれは、もはや体の一部なのですね」
初対面なのに、センセイはよく落ち着いた対応ができるな。
居心地が悪いのは、二人に挟まれている俺だけのようだ。
「ただ……周りがどう思うかを気にしすぎないのも考えものですわね」
何やらジョウ先輩が通俗的なことを言っている。
いや、この人は普段から割と俗っぽいから、驚くには値しないが。
だが、ここで興味本位に追求はしない。
明らかにジョウ先輩は話を聞いて欲しそうな素振りだったが、俺はこれ以上、話に花を咲かせたくなかった。
「……と、言いますと?」
まあ、俺にそのつもりがなくても、センセイが聞き出してしまうため無意味ではあったが。
「話してもよろしいですが……長くなりましてよ、少々」
「大歓迎さ。目的地に着くのはずっと先なのでね。君もそうだろ、マスダ?」
「……生憎、そうですね」
「では……そうですわね、まずはワタクシの父について、お話しましょう」
そうしてジョウ先輩は、初めからそのつもりだったのを証明するかのように淀みなく話し始めた。
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