しばらく歩くと喫茶店に着いた。
俺やセンセイの行きつけの店だ。
「ここでマスダのお父さんと、ジョウさんのお父さんが待ち合わせしている。マスダのお父さんはやや遅れてしまっているようだね」
なぜそれをセンセイが知っているのか。
まあ、恐らく俺の父を通じてフォンさんにこの喫茶店で待つよう連絡をよこした、とかだろう。
手回しが早いというか、回りくどいというか。
まさかあのアテもない徒歩の時間は、この場を調えるのも計算に入れていた、とか?
だとしたらセンセイには感嘆せざるを得ない。
「とりあえず、私だけで話してみよう。君たちは離れた場所で、これを」
そう言ってセンセイは俺たちに録音機らしきものを渡した。
これで店内でのやり取りが聴こえるんだとか。
「センセイ、これ常備してるんですか?」
「社会人の嗜みさ」
「ワタクシも社会人ですが、初耳ですわよ」
「社会にも色々あるのだよ」
センセイにとっての“社会”とは、どういったものなのだろうか。
答えてくれるとも思えないし、もし答えてくれたとして逆にこっちが困りそうな気がする。
「では、行ってくる」
センセイはおもむろに店に入っていく。
「いらっしゃい」
「よお、センセイ」
そして、センセイの言っていた通り、待ちぼうけをくらっているフォンさんも。
「おや、今日は珍しい客人がいるね」
「ええ、仕事の打ち合わせで人を待っていまして」
「奇遇ですね。私もここで待ち合わせなんですよ。マスダっていう子なんですがね」
「……マスダ?」
「ん? 別に珍しい名前ではありませんが、何か気がかりでしたか。ひょっとして……あなたが待っているのもマスダだとか?」
「え、ええ、偶然ですね」
「まあ、彼は学生なので、あくまで同姓同名ってだけでしょうけれど……もしかしたら親子なのかもしれませんね」
ともあれ、これで親と子の話をしつつ、フォンさんの趣味についても聞ける取っ掛かりは出来た。
「へえー、キュアキュア観てたんですか」
「まあ、きっかけが何であれ、大人でも好きな奴は結構いましたよ」
「そうそう、子供向けアニメだろうが作ってるのは大人なんだ。大人が観れるように出来てても不思議じゃない」
そこにマスターとタケモトさんも参加し、フォンさんの口も徐々に滑らかになっていく。
そうして会話を続けていくと、フォンさんがなぜ『キュークール』をあんな風に愛でるのか、その理由が徐々に見えてきた。
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