〜ここはBLを極めしBL老師(独身)が隠棲する人里離れたあばら小屋〜
俺「老師〜」
老「ほっほっほ、なんじゃな増田くん。また男性向けくされ美少女アニメを持ち前の牽強付会でBL作品としてオススメしに来てくれたのかな? いいかげんうんざりじゃぞい」
俺「それですよ、それ。老師。最近、その……アレのことを考えると、むずむずして変な気持ちになっちゃうんです」
老「精通?」
俺「そんなんじゃなくて、ほら、日本のコメディドラマとかで黒人が無神経に『おもしろキャラ』扱いされてるのを見てると……その……なっちゃうじゃないですか」
老「ああ、なるほど。心配しなくていいのよ。それはね、おとなになったら誰にでも起こることなの。だから全然はずかしいことじゃないのよ」
俺「え……じゃあ、このバブみって……?」
老「政治的正しさ、いわゆるポリティカリー・コレクトネス強迫症ってやつじゃな」
俺「的……ゆる……ネス?」
老「アメリカでは公民権運動以来、日本では90年代以降に広まり始めた『平等・公平』にそぐわない先入観まるだしのステロタイプを恥じる文化症候群じゃ。まあ、いつかはミトコンドリアみたいに体に馴染むじゃろうて」
俺「でも……ひとつどうしても心配なことがあって……ほら、老師はこれまでに色んな非BL作品を『BL作品だ』と解釈して勧めてきたでしょう?」
老「解釈というより世界同時革命主義的トロツキズムに近かったがな」
俺「あれは間違っていたんでじゃないでしょうか……つまり、俺は、その、ゲイでもなければ腐女子ですらないじゃないですか。腐男子でもない。BL界隈のことについては無知に等しい人間なんです。無知であることを知っているぶんだけ、半可に知ったかぶってる老師よりは魂のステージが上なわけですけれど、褒められたことじゃない。どころか、俺がBLじゃないものをBLだとネタ的に主張することで、世間に流通している『BL的なるもの』の世間的イメージを歪めていたのではないかと、そういう行為に加担していたのではないかと案じてしまうのです」
老「ふむ……BL外のパンピーであるお主が『BL』の概念をもてあそぶことで、BLプロパーたちを傷つけていたかもしれぬ……それで不安なんじゃな?」
俺「はい」
老「増田くん、いや、我が弟子増田よ。一歩前に踏み出してみよ」
俺「?はい」
言われるままに、おずおずと前に出る増田――その刹那、BL老師の鉄拳がうなり、増田は二十ページ過去記事メートルもふっとばされた!!!!!!!!!!
俺「ぐべばぼれほらがぐぎっがががががげぼっ!老師〜ひどいじゃないですか〜いきなり殴るなんてあんまりだよ〜」
老「増田よ……お主は『暴力』についてどれだけ知悉しておる?」
俺「???」
老「わからぬであろう……では、わしは? このBL老師はどれだけ『暴力』を知っているといえるかな?」
老「わしもまた無知だ……ただ、わしは無知であることを知っているぶん、無知であることについて無知なお主より宇宙の位階は上じゃがな。では、この世に『暴力』についてよく知っている、精通しているといえる人間がどれだけおる?」
俺「格闘家とか?」
老「スポーツの本質は暴力にない。でなければ、どうしてルールや儀礼など必要になろうか」
老「百年戦争、薔薇戦争、オーストリア継承戦争、ナポレオン戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦、ベトナム戦争……兵や将が完全に『暴力』のなんたるかを把握しているならば、この誤算だらけの戦争史はいかにして説明しよう?」
俺「うーん、でも他にはなー」
老「そうじゃ、おらんのじゃ」
俺「いない?」
老「『暴力』についての完全知を有するものなどおらぬ。いわば、人類みな半可通で日々暴力を運用しておる」
老「男も女もリア充も腐女子もブクマカもおぬしもわしもみな等しくBLを知らぬ……そのことを理解してくれればよい」
俺「なるほど!わかりました老師!これからも俺なりのBLを発掘して、視野狭窄に陥ってる腐女子たちへ新たな角度からのアプローチを提案してみます!」
老「ほっほっほ、そのいきじゃ!!」
数日後、老師の弟子である増田氏の遺体が産業会館近辺の雑木林のなかから発見された。
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