2016-11-20

広告業界改善にはクライアント側の改革必要

これを書いた元増田です。

電通不正請求広告業界全体の問題

http://anond.hatelabo.jp/20160924144051

これを書いた後、電通過労自殺事件があり、電通組織や体質の問題社会的批判され、同時に広告業界ブラックっぷりを多くの人が知るようになった。自殺をした高橋さんには大変申し訳ないが、この流れはとてもいいことだと思う。社会全体で過剰なサービスや過重労働批判されて改善に進みだそうとしている今、広告業界もその流れに乗らないといけないし、しかもその流れを牽引していく存在になるべきだと思う。そのような力が広告にはまだまだ残っていると思う。

ただし、非常に不満がある。

今回の問題批判ほとんどが電通広告業界に対してのもので、過重労働を引き起こす元凶であるクライアント」はほとんど批判されていないことに対してだ。

確かに広告業界の過剰労働は相当な問題だ。これは業界全体に粘着のようにまとわりついていて、未だに「残業時間の多さ」を誇るようなところがあるし、新人の成長と残業時間は比例するみたいな考えも根強かったりする。中には給料いらないから働かせてくれ、みたいな人がいるのも確か。

だけど多くの人は仕事がない日は早く帰って家族に会いたいし、週末は遊びに行きたいし、休暇をとって旅行にも行きたい。

それを妨げるのが「モンスタークライアント」の存在だ。

彼らは自分仕事はだいたい「広告代理店にぶん投げれば解決する」と思っている。おれ自身経験があるが、そのような人物は「上司に報告するための資料作成から「年間の予算管理」、「他部署との折衝」、「クライアントの社内行事の余興」まで何でも代理店にぶん投げる。深夜に飲み屋に呼び出され、飲み代を「接待費」として経費精算しろ、と言われたこともある。広告代理店は今や「何でも下請け屋」になってしまっており、過去のおれの経験上、業務の半分以上はクライアント本来やるべき仕事だったり、クライアントの尻拭いだったりした。そうして広告代理店本来やるべき仕事の一部が子会社に行き、子会社本来やるべき仕事の一部が下請けに行き、と玉突き事故のように業務が流れていき、業務量が雪だるま式に増えていく。しかもそういう業務は当然のように「タダ働き」だ。請求できない。クライアントとの良好な関係を維持するための犠牲なのだ

何でこんなことになってしまうかというと、人格が終わってるようなクライアント担当者がいるというのもあるけど、構造的な問題を言えば「クライアント側にプロがいない」ということがあると思う。これは広告業界だけでなく、他の業界にも言えることだと思うけど。

いわゆる大企業ジョブローテーションが基本で、これまで生産管理をやっていたような人が、突然広報担当になったりする。そうやって幅広い分野で知見をためて、会社のことを知り経営ノウハウを身に着け、将来的には幹部候補生を育てていくという考えなんだろうけど、広告のことをまるで知らない担当者クライアントの窓口になった時の広告代理店の苦労ったらない。曲がりなりにもクライアント担当者から、彼らの指示を仰がなければいけないのだが、それまで生産管理をやっていた人だから全く感覚が分から支離滅裂なことを言ってしまう。だから新任担当者のために勉強会を開いたり(これも無償)、資料にも素人が分かるように滅茶苦茶細かく説明を加え、根気よく彼らが一人前になるまでフォローしなくてはいけない。本来はこれもクライアント側の仕事なのだが、今すぐにでも決定しなくてはいけない広告制作世界で悠長に教育してる暇なんぞない。だから手取り足取り教えていく。それが現場担当者レベルだったらまだいいけど、決裁者に違う畑の人物が来たときの苦労は並大抵ではない。

クライアント側も自分無知理解しているので、全面的広告代理店を頼ることになる。なんせ、分からないことは全部教えてくれる。無茶で無知要望質問にも応えてくれる。大変ありがたい存在だ。そこにクライアント担当者広告代理店信頼関係が生まれるのだが、ある一線を越えてしまうと、担当者は何でも広告代理店に頼るようになってしまう。そっちのほうがラクだから別に自分がカネを払うわけじゃないし。広告代理店は信頼を失いたくないから、無茶な要望も全部受け止める。そうなるともう歯止めが利かなくなる。

クライアント企業広告代理店との付き合いの中に、「ここからここまで」という契約存在しない。そこは曖昧不文律で、各社によって千差万別だと思う。おれはクライアントの社内行事の余興までやってたけど、そんなことあり得ないという所もきっとあるだろう。

今回の問題を受けて、電通を始め広告代理店各社、過重労働対策を打っているようだが、だいたい「深夜になると明かりが消える」「早朝出社を推奨する」「残業○○時間を超えると労働時間をこれ以上付けられなくなる」みたいな小手先対策が主で、売り上げ下げたくないけど社会的批判にも応えなくてはいけない、という意識からまれた全く効力のないネガティブものだ。形骸化するのが目に見えている。

問題の抜本的な解決のためには、広告代理店は「クライアントとの付き合い方」をそもそも変えなくてはならない。それまでの担当者間の情の付き合い方をやめて、冷酷にならなくてはいけない。「それは弊社の業務ではありません」と言わなくてはいけない。

そしてもっと大切なことは、クライアントが変わることだ。クライアント側が変わらないと、広告代理店も変わらない。「私、これよくわかんないんです。電通さん、やっといてもらえます?」という乱暴な依頼の仕方を今すぐやめてほしい。自分業務責任を持ってほしい。そうでないと「何でも下請け屋」が再度はびこってしまう。

無責任に何でも丸投げするクライアント担当者と、「何でも下請け屋」的な方法クライアント担当者の信頼を得てポジションを得る広告代理を撲滅しないと、本当の意味での広告業界全体の改善はなされない。

記事への反応 -
  • http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/092300445/ ついに起こってしまったかという感じ。 この件については電通に同情する余地はなく、徹底的に膿を洗い出して欲しいと思う。 ただし「...

    • これを書いた元増田です。 電通の不正請求は広告業界全体の問題 http://anond.hatelabo.jp/20160924144051 これを書いた後、電通の過労自殺事件があり、電通の組織や体質の問題が社会的に批判...

      • いや、本当にその通りだと思いますね。 電通だけでなく、クライアントにも課題があるということは言えると思います。 1人が複数の案件を抱えているのであれば、それは電通側の社...

        • やはりひずみが表面化してきている 代理店系プロダクションで 超過剰勤務の末の自殺者がでてきてるが、そこはオープンにされないらしい。

    • なんとも既視感のある話題。 最近どこの業界でも金は出さないけど現場の精神論でなんとかしろってのばっかり。

    • 広告業界全体って電通と博報堂が支配してるんじゃないの?

    • ネット代理店の中の人として補足。 ・電通はデジタル広告を扱う代理店の中では最も先進的な取り組みをやっている これは一面が正しくて、一面が間違っている。 まず、いわゆる現在...

    • ネット広告の本当の姿がもっと明らかになって、正しい形で使われて欲しい。今回の問題の皆さんの反応を見ていて、もっと補足したほうがいいと思い、また増田を借ります。 http://anond...

      • http://anond.hatelabo.jp/20160925202444 クライアント側の人間だけど、こういう問題があるはずなのになんで世の中であまり話が出てこないのかとは思ってた。 うちはECサイトなんで、CVがはっき...

      • http://anond.hatelabo.jp/20160925202444 クライアント側の人間だけど、こういう問題があるはずなのになんで世の中であまり話が出てこないのかとは思ってた。 うちはECサイトなんで、CVがはっき...

    • 元中の人として、本件は構造問題と言われているのでその辺の整理をしようと思う。他の人と重複してるところは許してね。 ・現場の実情 ミスは多い。めっちゃ多い。記事に書かれて...

    • 電通の不正があった。私もネット系のいわゆる広告代理店で働く中の人なので、全く他人事ではない。 私は、今回の電通のトヨタ事件とそれにまつわるいくつかの記事を読んで本当に心...

    • 広告業界の人ってさすがにわかりやすい文章書くね

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん