はてなキーワード: にゅっととは
http://anond.hatelabo.jp/20140718131158
つづきです。さらに長文になりました。すいません。
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「へえ、それは渋い趣味だね、じゃあ特に目的なくゆるゆる次の駅まで行くんだ」
趣味の合致におどろきつつも、あんまりそのまま「おれもおれも」と迎合するのは気が引けました。
少しわざとらしく、厭らしいと思われるんじゃないかな、と考えていたのかもしれません。
「はい、まあダイエットも兼ねてるんで歩くことが目的ですかね」
「あはは…」
美味しそうにプリンを食べながら笑う女の子は、まあいってしまえばぽっちゃり気味だったし
美人というよりはかわいい寄りで、それに大抵の人たちはそのかわいさすら横において「愛嬌あるよね」で終わってしまいそうな女の子でした。
タイプかと言われれば、そうでもないが、遠すぎもしない。いやしかし。
ひとしきりランチを終えて、ガサガサとゴミを片付けると、女の子は「それじゃあ、おじゃましました、いきますね」と軽い足取りで立ち上がり、
にっこり笑って、小さく手を振って「今度はおじゃましないようにしますねー」と去って行きました。
名前も、連絡先も、たずねることも、たずねられることもなくほんの数十分の邂逅は終わりました。
ただ、友人の言っていた「自分の好きなことを好きな人は必ずいる」という言葉は間違いではないという確信を得ることはできました。
これだけでも充分な収穫です。たかだか2ヶ月でこの成果であれば、きっと…
引き続き、休日も仕事帰りも趣味に浸りつつ過ごしていましたが、その間にあった出会いといえば
酔っぱらい7人、客引き5人、掃除のおばちゃん3人、犬猫多数、ニワトリ、亀、職務質問2回。
そう、ちょっと忘れかけていたのです。趣味に没頭しすぎました。
何を格好つけていたのか、あの時の女の子こそが運命の出会いだったのではなかったか? 後の祭りです。
偶然も三度続けば奇跡かもしれませんが、自分は奇跡が起こったとしても現実的にそこから新たな未来を切り開く冒険者ではありませんでした。
いまさらあの時連絡先聞いておけばよかったと思ったところでどうにもなりませんでした。
女の子にたどり着くすべなど、もうありませんでした。
それにたどり着いたとして、どうやってもう一度声をかければいいのでしょうか。
もう一度、奇跡が起こるしかない。そして、三度あることは、四度もあったのです。
遅刻は確定でした。
いくらがんばったところでどうにもならない。迷惑だけはかけたくないので上司と関係各所に謝罪連絡をいれました。
上司はもう仕方ないし、のんびり来なよ、慌てて事故ったりしてら余計面倒だしねと言ってくれたので、1時間遅れで自宅を出発しました。
始業の早いうちの職場のおかげで、普段は通勤ラッシュに巻き込まれずにすみます。
いつもより遅い通勤電車は。まさしく通勤ラッシュにぶち当たっていて、
とある駅に到着しました。ドアが開き、沢山の人が降りて、また沢山の人が乗り込んできます。
一人の女性が持っていたカバンの角が、ドムッと鈍い音をたててみぞおちに食い込みます。
「あっ、ごめんなさ…あれ?」
「えっ」
あの女の子でした。
あの、女の子、でした。
ドラマならスローモーションになるところでしょうか。あるいはその瞬間「つづく」って出るところでしょうか。
いや、あまりにもベタな展開すぎて脚本段階でダメ出しがかかるところです。
あの時と違う、落ち着いたジャケットにスカート姿。メガネは黒縁になっていましたが、確かにあのときの、あの女の子でした。
女の子は女の子で、こちらに気づいたようで「あ、もしかして神社…きゃっ」
言いかけたところで、3列待機していたサラリーマンの集団が突入してきて、通路の真ん中にいた2人は押し流されて、
ドア側の隅っこで背中合わせになってしまいました。身動きがとれません。
夢にまで見たあの女の子がすぐ後ろにいる、という事実と、振り返ろうにも動けないこの状態。
そもそも振り返ってなんて話せばいいのか、女の子は気づいてくれているようだが…
自分の降りるべき駅まであと20分くらい。途中駅で降りる人は少ないから、むしろ混雑は悪化するはず…どうする?
唐突に降臨した四度目の奇跡と、下手に与えられたこの考える時間のせいで、ぐるぐるぐるぐるしていました。冷や汗すらかくほどに。
その時でした。不意にトントンと肩をたたかれ、にゅっと頬の横に手が伸びてきました。
握られた携帯電話の画面に文字がありました。
『でんわばごうおしえて』
即座に意味が理解出来ました。こちらも液晶画面に電話番号を表示させて、後ろ手に捻るようにして女の子のほうに向けます。
ポチポチと携帯を操作する音が聞こえたかと思うと、SMS着信音が小さく鳴った。
小さな小さな、しかもデフォルトのままのピヨンというこの音が、
天使のラッパの音みたいにきこえた。 あんなに楽しい音は聴いたことがなかった。
『また、おじゃましちゃいましたね。びっくりしました』