2023-03-02

ネタバレ有】映画エゴイスト』を観に行けないので原作小説を読ん

そもそも映画館くそ遠い&しかも上映時間が観に行ける時間帯とずれていたので。


映画の評判やネタバレ回避出来る範囲で読めたレビューから、ある程度の重さは覚悟していたけど、思いもよらない方向性で辛かった。だってこれおそらく完全なフィクションではなく著者の本当の懺悔じゃん……。


過去自分馬鹿にし虐めた同級生復讐するかのように都会でイケイケな暮らしぶりをしていた主人公・浩輔。彼が出会い恋に落ちたのは、ちょっと訳ありで美しく純真好青年の龍太。実は龍太は病身の母親を養う為に売春をしていたのだ。


という、あらすじだけ書くと陳腐BL小説のような感じだし、受けの方の性別女性に変えると更によくある話って感じだ。だが、浩輔と龍太の出会いと恋は物語の序章に過ぎなかったのだ。


浩輔はよかれと思って、悪くいえば自己満足で、龍太に救いの手を差し伸べる。そして龍太の母親も交えて家族のように過ごし幸せ時間を共有することになる。ところが、それが結果として龍太を追い詰める事になってしまい彼の早すぎる死を招く事になってしまったのだ。


文中では浩輔の懺悔が切々と語られるけど、俯瞰してみれば浩輔だけでなく龍太も龍太の母もそれぞれのエゴや愛で行動しており、誰が悪いって話でもない。

著者本人であろう浩輔は等身大人間として描かれている一方で、彼の恋人の龍太という人物は、美しい過去の思い出として徹底的に純真無垢存在として描かれている。

けれども、私が思うには、龍太の死は浩輔のエゴのみが引き起こしたんじゃなくて、龍太自身エゴというか、自分意思で・望みであえて命を縮める方へ邁進してしまったのではないだろうか。

恋人」という肩書きに龍太は囚われてしまったのではないかと。浩輔が龍太とその母親金銭的な援助をしてくれた、それをビジネスと割り切って、浩輔のことをビジネスパートナーくらいに思っていたら起きなかったであろう悲劇恋人から、出来る事なら対等になりたい、正面から向き合いたいって思うあまり背伸びをし過ぎてしまったのだろう。けれど、そうして頑張ったお陰で得た幸せというのが、彼にはあったんじゃないかなあ。

男女の愛人関係にもあり得る話のようでいて、男同士の恋愛だったから起きた悲劇のようにも思える。対等でありたい相手が手の届かない高みにいる事に、女だったらそこまでプライドが傷つけられはしないのではないだろうか。女ならば社会的に男と圧倒的な差があるのは自明の事として渋々でも受け入れられたかもしれない。

なんて。浩輔が悪いんじゃなくてこれはどうしようもない事だったんだよ、と、作者にとってはミリも慰めにはならないだろう事を考えた。


浩輔と龍太との出会い死別までは三年の年月があるけれど、その蜜月描写はあまり多くない。ページ数でいえば龍太が死んでからエピソードが全体の四割くらいを占めていたりする。一人の人間が死んだくらいで世界は終わらないし残された人達にも容赦なく明日はやってくる。


しかも、龍太は人知れずあっさりと死んでしまうけど、その死をすぐには受け入れられず、でも受け入れるしかない浩輔の悲歎に暮れるシーンがけっこうな分量があって物凄くしんどかった。非常にリアル心理描写なので、読んでいて自分が今まさに体験しているような気分になった。この場面、作者はどんな気持ちで書き綴ったんだろう。過去のこととして他人事のように冷静な目で書いたりとか……私だったら無理かな、つらい……。

龍太が死んで後の話。龍太の母親と浩輔とで残された者同士で実の親子のように孝行したり心を支えたりっていう話は、エピローグでもおまけでもなくむしろ本題かなっていうくらいのものだった。だからといって龍太の存在が軽い訳じゃなくて……浩輔が龍太に援助を申し出たモチベーションになったのが浩輔自身の母への思いで。それを龍太の母親が汲み取ってくれて、浩輔がこの親子を救ったと同時に浩輔もまた彼らに救われていたのだと。


だが同時に明るみになる残酷現実というのもあって、龍太の母親は息子を喪って始めて生活保護を受けられるようになり、無料治療を受けられるようになったという。なまじ側に扶けてくれる人がいると社会福祉は遠ざかりがち。浩輔にしろ龍太にしろしなくていい努力をしてしまったともいえるのだけど、そうしたからこそ得られた愛と幸せがあったわけで。


それを外野からエゴ」と呼ぶことは私はできないなぁ。

文庫版後書きの鈴木亮平文章が胸に沁みた。あー、映画版、めちゃめちゃ観たいー!

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