2022年の防衛費増額のための増税を皮切りに、日本の軍事力は目覚ましい発展を遂げた。日本政府は米国、韓国の武器を大量に買い込み軍拡を急いだ。防衛費の余剰金は増税に向けて奮闘した政治家たちに渡った。
五輪招致決定以来の喜びに頬は熱を帯び赤く染まっていた。
森林環境をはじめとした万物に税がかけられ、日本の税収は世界一位に飛躍した。念願の敵地攻撃能力を手に入れるまでそう時間はかからなかった。
急な軍拡を危険視した周辺国が日本海へ威嚇攻撃を開始した。もう遺憾という言葉を述べる必要はない。その喜びを胸に行使した敵地攻撃能力の結果は思わぬ物だった。核による報復を受けることになってしまったのだ。
国民は岸田総理に対して核を保有すべきだったと声を荒げた。核保有国に対し容易に反撃をすべきではないとの意見も飛び交った。
岸田総理は国内外からの批判を受け、五感を研ぎ澄ました結果、国民の声という雑音に意識を逸らされてしまったと説明し総理大臣を辞任した。
追い討ちと言わんばかりに敗戦による賠償が重くのしかかった。増税や宗教法人への献金によって疲弊した経済や先送りにされた少子高齢化はすでに歯止めが効く状態ではなかった。
薄汚れた冷蔵庫には壺につけられたキムチしか残っていない。経済が破綻し貧しい日本にあるのは韓国から支援として送られてきたこの食べ物だけだ。
今日もこれを食べるのか。唐辛子で胃腸が刺激されていつもに増して感情的になる。
空腹に韓国製のキムチは堪えるなあ。悲しい独り言が物一つない独居房のような部屋に響く。全く日本人の食の好みに合っていない。
ペットの猫にも仕方なく食わせていたが、これを嫌がりしまいには餓死してしまった。つい半年前のことだった。それでもよく持った方だったのかもしれない。
愛猫につけられた引っ掻き傷を眺めて時間をやり過ごす。なんでこんなことになってしまったんだろう・・・。
課税されていない唯一の食べ物だから日本国民は胃腸に負担を強いてでもこれを食べなければならん。私は最初に日本が軍国主義の道を突き進んでいた頃の映像を思い浮かべながらそう呟いて強がった。
食品から、道路の利用、公園のベンチの使用まで特別税がかけらている。もうどれにいくら掛けられているかなんて気にしている人はいない。その点だけが昔の日本と変わらない唯一のものだった。
こんな孤独な私にも妻子がいたが、数十年前に木製のボートで脱日してしまった。脱北者みたいなことをするなと叱ったが、こんな国にいても生活は良くならないと言って憚らなかった。
私が子供に教えてやれたのはDENTAL PAIN、HELP MEという英語だけ。他に役に立つことは教えてあげられなかった。
元気にSHEINの服を裁縫しているだろうか。本当は一緒にいたかったが、今となっては日本より気候が穏やかな国で裁縫をしてくれていることを祈るばかりだ。
いつもと変わらない日々。無くなってしまった過去を枕がわりに想い抱きながら床に就く。妻は妻、私は私、現状維持、今より悪くならなければいいじゃないか。
そう言い聞かせる自分を否定するかのように右翼街宣車のエンジン音が静寂を引き裂いた。軍艦行進曲の重低音が荒れた胃腸に響き渡る。晋三が帰ってくるぞ。自称保守派の狂喜に湧く叫び声が薄い壁を突き刺し私の耳に届いた。
安倍晋三、懐かしい響きだ。私は追い立てられるように子供の形見の薄汚れたキャラクター物のサンダルを履いて外へ出た。遠方に光の柱が根を下ろしているのが見える。まるで三本の矢のようだった。
あの光は・・・。
老人しかいなくなってしまい荒んだ日本に、蘇った文鮮明・池田大作・安倍晋三の三大売国神が降り立つ。
私は神々しさに思わず糞尿を垂らしてしまった。キムチの唐辛子で胃腸が過敏になっていたからだろうか。汚物とカプサイシンのツンとした臭いが辺りに立ち込める。
安倍晋三氏は国神になられたんだ。誰かがそうか細い声でつぶやいた。
国神となった安倍による第三次政権が日本を取り戻してくれるかもしれない、そんな淡い期待が冷め切った体を温かくする。
日本を"とりもろす"。つかみどころのない笑みを浮かべそう口を開いた。