今日は天気が悪いので、かつて人を乗せて観光地を走っていた経験について書いてみる。
人に会った時にこの経験の話をすると決まって以下の質問が来るから先に答えておく。
Q. あれって歩合なの?
A. 人力車の会社は全国でみても複数社あるのでどの組織で勤めるか、どういう雇用形態によるかで変わる。まあ普通に考えて人を捕まえて乗せるという営業活動なので、成果に応じて報酬が変わるのは普通な事だと思われる。
Q. どれくらい稼げるの?
A. 上記の通り人と雇用形態による。ただ、これ一本で食っていっている人は普通にいるし、ハイブランドのアイテムや車を所持している人も普通にいる、とだけ言っておく。もちろんそうならない人もいるだろう。
Q. あれってしんどくないの?
A. テコの原理なのかどうか説明が難しいが、一度走り出したら勢いで進めるので慣れれば案外大丈夫、というのが個人的な感想。もちろん運動なので走行量によってその日の疲労度は変わる。
Q. 誰でもできるの?
A. 少し調べれば各社普通に求人が出ているのでぜひ見て欲しい。人力車自体は軽車両の区分に該当する為、特別な免許は不要。採用されるかどうかは本人次第。採用された後の研修を乗り越えられるかどうかも本人次第。売り上げを出し続け無事に生きていけるかどうかも本人次第。結局は個人商店みたいなノリの働き方になる。
ここまでが基本のQ&A。
人力車に乗ると、日に焼けたお兄さんがユーモアを交えて良い感じに街の案内をしてくれる。例えて言うならとてもざっくり概要を教えてくれる社会の先生みたいなものだ。利用料金は時間によって変動し、二人乗りで5000円前後のコースから長いと○○万円まで。料金だけ聞くと「めっちゃ高いね」という印象を抱かれがちだが、実際に乗るとその印象は満足度に打ち消される事が殆ど。実際ハマってしまう常連客も少なくないし、自分も頂いた料金以上の価値を提供していたという自負がある。というかそのつもりでやらないと、話にならない。例えるなら昼間のホストみたいな感じだろうか。お兄さんによってサービスや価値がかなり変わる印象。
客層は地域によって様々だと思うが、目立っていたのは看護師・歯科衛生士・保育士あたりの女性二人組。男の出会いが少ない職業のせいか、ついつい乗せられてしまうのだろうか。女性でいくと40代~のおばさま層も1時間以上のロングコースを選ぶ事が多い。後は夜職従事者や刺青が入った人。プライベートの生活では全く絡むことはない世界の人々ではあるが、人力車の雰囲気や仕事内容に謎の共感を得てもらう事が多い。
人力車ファンの方は一定数存在し、中には日本中の観光地に行って、指定のお兄さんに一人で乗る事が趣味、というヘビーユーザーもいる。業界内での有名人である。
頑張った分だけリターンが来るし、何より業務中のテンションが自分にかなり合っていた。とある事情で住み処を変えないといけない理由がでてきた為、やむなくこの仕事から身を引いたが、これが最高な仕事であったという気持ちは今も変わらない。
少しネガティブな面があるとすれば、ある程度経験を積めばこれ一本で生きていけてしまうので、その次のキャリアプランが消えてしまう状況に陥りやすい。勿論アナログ仕事なので、IT関係やテクノロジーに関する知見は得られない。辞めてからは自分探しの海外留学にとりあえず行き、何となく仕事を見つけるみたいな人が多かったような印象である。
ようやく緊急事態宣言も解除され、各観光地にも人が舞い戻ってくる頃だろう。人力車に乗らないと得られない体験は必ずあるし、こんな雨の日は各お兄さん苦戦を強いられるので、もし機会があればぜひ一度体験して欲しい。