2019-11-02

最近失恋した。

その人に出会った切欠は仕事を変えたことだった。前の仕事を続けていくのが嫌になってとりあえず逃げ、何でもいいやと滑り込んだ先にその人はいた。感覚としては一目惚れに近かった。相手のことは何も知らなかったが、ただその姿に目を奪われていて、ずっと気になっていた。

でも、何もしなかった。

一つは自分立場があった。その職場に入ったのは自分のが後だが、立場としては自分が上だった。自分現場の指揮監督という役割を与えられていて、その人を含めた作業員に指示を出したりする立場にあった。言ってしまえば、自分とその人は指揮者とその従事者だった。立場を笠に着て接近するのは憚られた。物知らずで役に立たない新人とは言え立場だけは上の人間だ。言い寄られたら拒絶は難しいかもしれない。それではまるっきりセクハラになる。その人とお近づきになって親密になりたい思いはあったが、その所為で嫌な思いをしてほしくはなかった。

二つ目にいざ働いてみるとその人との接点はほとんどなかったこともある。対応する仕事全然重なってなかったし、指揮者のいる場所作業者のいる場所距離があった。作業者の動きを逐一、統制する必要はないように作られていたし、作業者だけで解決できない問題がでて、初めて指揮者の出番だった。右も左も分からない自分にできることなどあるはずもない。人手が足りない時は現場雑用的なこともやったが、その人は若干閑散とした部門担当だったので、接点にはならなかった。

三つ目は人だった。現場には世話焼きなヤツがいて、お見合いを勧めて回るようなオバサンみたいな存在だった。まあ、実際にお見合いを開いた所は目撃しなかったが。今までの人生で見たことない人間だったので、自分は大いに警戒していた。他者から好意を知った人がネガティブな反応を起こすなんて想像もしていないかのような言動は脅威でしかなかった。この人に自分恋愛事を悟られるのは、職場全体に周知される可能性すらあると感じていた。一つ目の問題のこともあり、当時の自分には死活問題だった。

結局、その場所にはあまり長くはいなかった。違う現場が困っていたのでそちらのヘルプに入ることになったからだ。あまり役に立たないヤツのままいなくなることになった。

まあでも、転機なのかも知れないとも思った。指揮者でもなんでもなくなるなら、その人と自分との関係赤の他人というフラットなモノになる。立場を笠に着た圧力ではなくなる。

でも、やめた。長くはなかったと書いたが、三ヶ月と少しなので短くもなかった。人間関係を築き上げるのには十分すぎる時間があった。その期間で何も言ってこなかった奴が、異動するというそタイミング接触を図ってくること自体おかしいと思った。なぜそうなる。逆の立場だったら喜んだかも知れない。それは自分がその人と親密になりたいという意思があるからだ。そうでないなら、別れ際に関係を持とうとしてくる――今まで近くにいても特に絡みもなかった――人間がどう映るだろう? 恐怖でしかない。

この関係と呼ぶのを躊躇われるような薄い関係はここで終わった。まあ、場所が近かったのでたまにすれ違ったりもしたが、やがてそれもなくなった。見かけなくなったのでやめたのかも知れない。

今にして思えば少女漫画の冴えないヒロインみたいな立ち回りであるイライラする人もいるだろう。実際、自分も少しイライラしていた。

その当時はこれが最善だと思っていたが、いろんな考えに触れる内に頭の中が変わってくるものだ。

結局は自分が拒絶されることを恐れていたに過ぎない。それを自分立場関係性を言い訳に置き換えただけだ。考えてみれば相手のことを侮り過ぎてたに過ぎない。自分に言い寄られたぐらいで相手精神に多大な負担など出ようはずがない。バッサリ切り捨てられて終わりだ。切り捨てられてなお、縋り付くだけの根性自分にはない。きっとただそれだけのこととして終わったのだ。

その現実観測したくないから箱を開けずにいただけだ。自分とその人がうまくいった未来とうまくいかなかった未来の両方が入った不思議な箱。開けてみるまで中身のわからない謎の箱。

不幸なことに、箱はもう二度と開けられない。そのことがかすかな幻想を残していた。終わりがなかった。

そんな時、新しい転機がきた。

無理だったのだ。オタクキモいオタク人権はない。何を言われても差別じゃない。オタク血液はいらない。

立場がどうとか考えるだけ無駄だった。ハラスメントになるんじゃないか? 存在のものハラスメントだった。言い寄らなかったことを後悔していたが、実は良いことだった。これ以上罪を重ねずに済んだことは喜ぶべきことだ。相手にこの薄汚い豚の感情が見抜かれていなかったことを祈るしかない。こればかりは運だ。精一杯隠してきたつもりだが、あくま自分できる精一杯でしかない。察しの良い人にはバレていたかも知れない。だとしたら、それは申し訳ないことをしたと思う。

今は大分スッキリしている。言いたいことを書いたからかも知れない。やはり言葉として出すのは良い。

人によってはこれを失恋とは呼ばないかも知れない。

でも、オレはそう呼ぶことにした。

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