高校時代に出会ったAは、私の親友だった。いや、親友だと思っていたのはもしかしたら私だけだったのかもしれない。私たち親友だよね、と言葉にしたことは確か一度もなかったけど、私は彼女のことを親友だと思っていた。くだらない話も真面目な話も秘密にしたいような話もオタク話も愚痴も、いろんな話をした。Aが彼氏と別れたとき、泣きながら電話を掛けてきたこともあった。私はそれがAに信頼されているようでとても嬉しかったのだけど、そのことをAは覚えているだろうか。
高校時代、私とAともうひとり、Bという友人がいた。部活動が同じだった私たちはよく三人で行動していたし、よく遊んだ。
高校を卒業して、Aは進学、私とBは就職した。遠方でひとり暮しを始めたBとはなかなか会う機会がなかったが、Aとはよく遊んだ。
ある日、Aに「今度Bと旅行するんだ」と言われた。そのとき私はへえそうなんだ、と軽く返したのだが、あれ、AとBっていつの間にこんなに仲良くなったんだろうとふと思った。ただなんとなく思っただけだったけど。
それからAが大学を卒業して就職し、忙しさから会う機会は減っていった。一年に一度会うか会わないかくらいになったとき、部活仲間の結婚式に呼ばれてAとふたりで参加した(Bは部活仲間たちを嫌っていたので参加しなかった)。そのときAに、「私が結婚式挙げるときは絶対あんたを呼ぶから」と言われ、私はそれが嬉しくて「じゃあそのときは絶対○○するから」と返したのだが、その○○の部分をすっかり忘れてしまった。なんて言ったんだったかな……。スピーチかな。余興かな。
そしてその日は独り身であることの愚痴を言い合いつつ、カラオケでオールした。
それから暫くして、ミュートしている部活動のグループLINEに飲み会の誘いが来た。私はAが行くなら行こうかなと思っていたら、グループに送られてきたAのメッセージは、「妊娠したから飲み会は行けません」の一言だった。
妊娠っていつの間に?相手は誰?プロフィールを確認したら知らない間に苗字が変わっていた。いつ結婚したの?私がグループLINEをミュートしていることをAは知っているのにそこで一斉に報告?
ショックだった。かつてあんなに色々なことを話したのに、彼女の人生において重大なことは私はなにひとつ知らなかった。でもまあ急なことだったのかもしれないし……他の人にも言っていないのかも……と自分を納得させることにした。
Bはこのことを知っているのかな。訊こうと思ったがやめた。知ってたよ、なんて言われたら尚更ショックだ。
そしてAが出産し、彼女から結婚式の報せが届き、結婚式は無事に執り行われた。旦那さんの顔も出身も年齢も何の仕事をしているかも、生まれた子どもの性別も名前も誕生日も、私はそこで初めて知った。
受付は職場の同期(恐らく)が担当していて、友人代表のスピーチはBが行った。AとBと、私の知らないAB共通の友人Cさんとの思い出を涙ながらに語っていて、私の心はスーッと冷めてしまった。
ああ、もうAとBの中に私は存在しないんだ。あんなに色んな話をして、あんなにたくさん遊んだのに。
結局私は何もせず座っているだけ。あとはたまに席を立って高砂に行き、出席していた友人たちと写真を撮るだけで終わった。
自分のカメラでは一度も撮らなかった。写真撮るの下手くそだから、と言い訳したけど、本当は写真を残したくなかったからだ。送ってもらった写真も保存していない。
この感情は恨み怨み、嫉妬なんだと思う。何に対してかはわからない。すべてのことに対してだとも思う。素直に祝福ができないちっぽけで心の狭い自分が惨めでたまらなくて、途中何度も泣きそうになった。
帰り道はBと一緒だった。予想より早く終わり、このあとはふたりとも何も予定がない。ちょっとお茶でもしていこうか、なんて言う暇もなく「じゃあね」と別れた。別れたあと、あーそんな感じねハイハイ、なんて思いながらとりあえず駅ビルに入る。
慣れない靴を履いたから靴擦れを起こして踵から血が滲んでいるし、疲れて頭は痛いし、デザートビュッフェの生クリームが効いてきて気持ち悪いし、さっさと帰りたいけど帰る気分になれなかった。目的もなくビルの中を三十分ほどぐるぐる歩き回って、荷物が重かったから帰った。歩きながら何度も何度も涙を堪えた。それがまた、情けなかった。
感情に耐えきれなくなってツイッターにまとまらない感情を吐き出していたら、大好きな子が心配して連絡をくれた。それにまた泣きそうになった。というか泣いた。
まとまらない感情は今もまとまらないままで、こうして文章にすれば少しはまとまるかと思ったがそうでもなかった。
大人になって自分の人生を歩む友人たちと、大人になれずいつまでも学生のまま時が止まってしまった私。何が違ったんだろう。どうして私は皆と同じになれないんだろう。
落ち着いたら連絡ちょうだいね、またご飯でも行こう。Aに掛けた言葉だけど、果たして彼女から連絡が来る日はいつなんだろうか。きっと来ないんだろうなと思いながら招待状を破って捨てた。
心配してくれた友達大切にしなね。 それだけで十分すぎるほど十分だよ
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