村役場のホームページをアメーバピグに全面移行してからもう2年になる。
日本初のアメーバピグ自治体利用で、なおかつ従来のホームページを廃止しての全面移行ということで、大きな話題になったのは記憶に新しい。
地元のテレビや新聞、ネットメディアでも大きく取り上げられて、村長は全国からの視察対応や講演に引っ張りだこ。
それまでは村の名物といえば、すっかりさびれた温泉と、もぐらレースしかなかったんだが、今では「アメーバピグ村」として有名になった。
批判的な意見が多かったが、議論の大部分は村の外で行われていて、多くの村民にとっては、いい悪いの前に「関係ない話」だった。
周りに聞いても、アメーバピグはもちろん、村のホームページも見る必要がない生活をなのだから当然だろう。
村長は、アメーバピグの共有性と双方向性が、村民との政策議論を行う上では必要不可欠だと言ってたけど、村の中では、駐在さんのバイクがヤマハからホンダに代わった事の方が大ニュースだったかな。
東京の回転寿司チェーンを指定管理者にして、水族館は年中無休に。
毎日たくさんの鮮魚を扱っているノウハウを生かし、館内には世界最長の寿司レーンを作り、魚を見ながら飲み食いできる水族館にする計画だ。
水族館の件も、村の外では問題点が指摘されていたが、村民で自分の問題として考えているのは寿司屋の源さんぐらいだった。
村役場の「おさかな大好き課」に泣きついたそうだが、「既得権益には屈しない。企業努力で頑張ってくれ。」と門前払いされたと元気がなかったな。
指摘された問題点として、「回転寿司屋を指定管理者に指定した経緯が不透明」「ポイントカードに蓄積される注文履歴の取り扱いは問題ないのか」などが指摘されたが、村長は「魚業界の既得権益に切り込む」「荒唐無稽」と繰り返すばかり。
「大体、深海魚なんて面白く無いんですよ。人気のある魚を揃えないと」と鼻息荒かった。
村民の多くは計画そのものを知らないし、計画を知っていても回転寿司を見たことがない人ばかりで良し悪しも判断できない。結局議会はすんなり通過して、今年の春には巨大な回転寿司屋がオープンした。
最初は物珍しさから客も多かったが、今では源さんの店のほうが賑わっているかな。
アメーバピグ村役場も、回転寿司水族館も、村民にはほとんどメリットがない話だった。
村長はいろいろ派手なことをやってきたが、それで村民が得することはほとんどなかったが、逆になにかデメリットがあったかといえばそうでもなかったので、村民の生活とはかけ離れたことをやっているイメージだった。
その仕組みはこうだ。
(1)村役場で奇抜な施策を実施する。(ただし、アメーバピグ化など奇抜だが村民に大きな不利益がないもの)
(2)賛否両論の議論が盛り上がり、全国的に村が話題になる。(村長自ら議論に参加して燃料を投下しさらに炎上させる)
つまり、「村役場で奇抜な事をやって、それを視察にきた自治体職員や議員が村にお金を落としていく」という、「地方自治体版炎上マーケティング」を確立したわけだ。
アメーバピグ村役場も回転寿司水族館も、炎上マーケティングの燃料にすぎないというわけだ。
もともと村の経済は温泉旅館に依存していたから、温泉旅館に客が入れば村が活性化する仕組みになっている。
しかし、さびれた温泉旅館に人を呼ぼうとすると、宣伝費用や設備投資が必要になるし、ライバルとなる温泉地も多い上に季節変動もある。
「地方自治体版炎上マーケティング」であれば、設備投資なし、季節変動関係無しで安定的に人を集めることができる。
仮に失敗したところで、ホームページや水族館なら村民が大きな不利益を被ることもないから、支持基盤から突き上げられるリスクも少ない。
巧みな「地方自治体版炎上マーケティング」のおかげで、村役場には視察の名のもとに全国から自治体職員や議員が押し寄せ、温泉旅館は毎日満室。
村の温泉に客が戻って、経済が活性化されたとなれば、今回の選挙で村長が再選されたのは当然の話ということになる。
いいことばかりのようだが、大きな問題点がある。
それは、「他の自治体住民に迷惑をかけることで成り立っている」ということだ。
自治体職員は業務として、議員は政務調査として、村にやって来て、温泉に泊まって帰っていくわけで、その金は税金だ。
つまり、全国の市や町の税金を「地方自治体版炎上マーケティング」によって自分の村に集めているのだ。
また、視察に来ても、ほとんどは自分の市や町では到底実現不可能だということを確認し、温泉につかって帰っていくんだが、たまに「地方自治体版炎上マーケティング」を真に受けてしまい、市のホームページをアメーバピグに全面移行してしまう所が出てきてしまう。
この村では誰も村役場のホームページを見てなかったから誰も困らなかったが、人口数万人の市になるとそうはいかない。そこの市民には随分苦労をかけていることだろう。
さて、無事再選を果たした村長はこれからも「地方自治体版炎上マーケティング」を加速して、全国からさらに金を集めていく。
全国の皆さんは、自分の自治体が巧妙な「地方自治体版炎上マーケティング」に引っかかって、大事な税金を吸い取られていないか、十分にチェックする必要がある。
だれも「自分は炎上マーケティングに引っかかっている」とは思っていないのが「炎上マーケティング」である。
アメーバピグ村役場や回転寿司水族館は、あなたにとって「遠くの知らない村の出来事」ではないのだ。
都会と田舎対決が再燃しているので、僕も書こうと思う。 僕は田舎に生まれ、都会で過ごし、今はまた田舎にいる。 自分で言うのもなんだが、ちょっと変わった経歴だと思う。 僕が...