2022-03-15

挨拶しないちんこ

大卒地方中小企業管理職恋愛経験ゼロ童貞アラサー

恋愛をしないまま、仕事ばかりしているとこの歳になってしまった。

三十代にもなると、地方ということもあり結婚の流れが早いのだろう、脚色抜きで自分以外の同年代はみな結婚をしている。

職場での人間関係は良好だと思うが、周囲から度々「最近ソッチはどうなのよ?」というピンク色を帯びたジャブをもらうこともあり、未だに独身を貫いている俺が奇異の視線で見られていることは明らかだ。

童貞だとは言っていない。あまりに衝撃が強すぎるからだ。

もはや俺は彼らにとって、空想上の生物と言って差し支えないだろう。

ヒトは三十にもなって女性器に自らの男根を挿入し腰を振る儀式を終えていないホモサピエンスをヒトだと認識できない。仕方の無いことだ。俺には性欲がない。これも仕方の無いことだ。

全く以て、どうしようもない。

自分には性欲がないのだと打ち明けると、周囲からはよく「俺には感情が無い」と額に手を当て嘯く中学生のようだと笑われたが、事実ないのだからどうしようもない。うんこは臭くて厄介だが、かと言って「明日からフローラルに頑張ります」とはならないのと同じである先天的に性欲がないのか、あるいは非モテとして過ごしてきた惨めな三十年間を説明するため、無意識のうちに「無かった」ことにしたのかは明らかではない。ただ、少なくとも今の俺に性欲がない以上、恋愛結婚も何処までも遠くままならない。誰かが言った。すべての恋愛セックスに通ずる。そうかもしれない。専らのトレンド不純異性交遊だ。性器結合主義を信奉する若者にとって、セックスとは性器を通した精神交流である

コンニチワ、とちんこが言う。

I'm fine.とまんこが言う。

ハウアバウチューとちんこが膣を探り、エンヂュー?で挿入。

これでfinishだ。あとは腰を振るだけでいい。俺は童貞なので分からないが、きっと挿入とは麻雀立直をした感覚に近いのだろう。責任思考放棄して快楽を待ち続ける時間はさぞかし幸福に違いない。もっとも、放銃による快楽の機会均等の観点からすると、セックスの方が麻雀よりよっぽど平等に思えるが。

ともかく、俺はそのいずれにも参加できない。俺のちんこはコンニチワが言えない。挨拶をしないちんこ非常識だ。それが分かっているので俺はちんこを表に出さないし、これまで鍵っ子のように下着なかに閉じ込めていた。

けれども、そうこう言えない状況になってきている。地方は恐ろしい。結婚していることが出世の条件だとは思いもよらなかった。少なくとも俺の職場では、婚姻がその人の信頼性担保しているようだった。そろそろしっかりしたらどうだと上司に言われ、同じ文脈で家庭の話になる。守りたい人がいるから仕事にも一層気持ちが入るのだと精神論が語られる。恐らく正しいのだろう、大多数の人々にとっては。しかし俺はそうではない。俺のちんこあなたちんこと違ってコンニチワが言えない。挨拶する相手もいないし、いても挨拶ができない。俺には性欲がないからだ。

おい、このフレーズ何回目だ? この問答を繰り返すことに何の意味がある?

俺は選択を迫られている。婚姻転職かの二択だ。どちらを選んでも環境は変わるし、どちらも選ばないのもまた選択の一つだ。なかなか難しい状況だと思う。あなたにはきっと理解できない。俺にも理解できないのだから

あるいは、俺たちの断絶はこういう風にも表せる。

あなたカーナビで、俺は絶対に曲がれないドライバーなのだ

あなた左折提案する。それが最短距離からだ。俺は曲がらない。あなたは次の角で左折を指示する。俺は曲がらない。あなたは徐々に苛立ち、声を荒げる。俺は曲がらない。あなたは呆れて「理解できません」と言う。俺もまったくの同意見だ。こっちが曲がれないと言っているのに、曲がれと指示するカーナビが何処にある?

そうして車内は静かになり、俺は助手席に誰も乗せていない気楽な軽を走らせて、どこまでも真っ直ぐ走り抜けていく。

恐らくもうブレーキは利かないのだろう。壁は目の前に迫っている。

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