2019-07-28

[] #76-1「車道シャドー

俺の住む町は田舎ってわけじゃないけれど、控えめに言ってマイナー、はっきり言えば中途半端なところだ。

観光街ってことにはなってるけど、それ目的の人なんて滅多にこない。

それでも年に1回くらいのペースで、ガイドブックの流れに逆らって上陸してくる人間もいる。

如何にも「色んなところを長いこと旅してます」って見た目のオッサンだった。

背中リュックは大きく膨らんでいて、後ろから見ると上半身が隠れるほどだ。

何をそんなに詰める必要があるのかと何気なく眺めていたら、本体と目が合ってしまったのが運の尽き。

この町の名所、穴場がないかと聞かれてしまった。

観光客向けの名所は無いに等しい町なので、正直なところ「ない」と言ってしまいたい。

それでも俺と仲間たちは“おもてなし精神”ってのと、地元に住むプライトでもって案内してやることにした。


例えば、ここ「アルブス・オーク」っていう大きいビル

名前だけ聞くとファンタジー香りが漂ってきそうだが、実際は樹の香りがする。

ここでいう「オーク」ってのは植物のことで、「アルブス」はラテン語で“白”って意味

まり白いオークの木をイメージした建物ってわけ。

難点は一般人が利用できるのは三階までで、上は賃貸オフィスとかで使われていること。

あと、ビルが白くなくて、形は普通に四角いってところか。

地域名産でもない木をモチーフにした理由も聞かないでくれ。

そのあたりを気にしなければ良い場所だ。

通路上には、オークらしき木が一定間隔で陣取っていてバランスがいい。

どこかの芸術家が作った意味不明なオブジェもあり、ポイントは押さえてある。

二階のショッピングモールには、駅から直通でいけるエリアが設けられていて移動が楽だ。

その他にもスーパー銭湯ボーリングゲーセンなどが一通り揃っている。

レストランも和洋中あって選り取りみどり

個人的によく利用するのは「初めての調理場」っていうファストフード店かな。

それ以外だと、蕎麦屋の隣にある店も面白い

周期的にコロコロ変わるので、住人的には見ものだ。

多分あのテナント、呪われてるんだと思う。


後は、無駄にオシャレな見た目の火力発電所、風が吹かない地域なのに建てられた風力発電所

新興宗教教祖がよく演説している広場、変な奴らが住んでいる廃墟みたいな家。

そんな調子で、俺たちなりの名所ってのを思いつく限り紹介していったんだ。

だけど、オッサンの反応は終始イマイチだった。

「こういうのじゃなくて、もっと文化的に、歴史的に意義のあるものが見たい」と言ってくる。

俺は、こんなところにいきなりやって来て、そんな意識の高いことを求めてくんなよと思った。

歴史を知りたきゃ図書館にでも行けばいい。

それを言葉にしなかったのは、ここまで案内してきたからには途中で放棄するのは嫌だったからだ。

「俺が物心ついたくらいの頃に、車の博物館とかはあったけどなあ」

その博物館ドラマ撮影とかでも使われて有名で、俺たちが名所と断言できる唯一の場所だった。

だけど町の小さな博物館なんて、滅多に人は来ない。

俺ですら数えられる程度しか行ったことないから、推して知るべしって奴だ。

から、せめて博物館についての思い出話をしようと思った。

「車の博物館……うん? 車……道路……信号機

だけど車繋がりで、ふと思い出したんだ。

この町を象徴する、とある信号機のことを。

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