2019-07-31

[] #76-4「車道シャドー

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この事故対応について、警察も何もしないわけではなかった。

信号機の設置……ですか」

「ええ、交通事故最近あったでしょう。そこに設置しようってことで」

「ああ、あれですか」

信号機管理には、警察が大きく関係している。

そして、その設置にも様々なことが考慮されるらしい。

具体的な条件は知らないけれど、少なくとも事故が一回起きただけでは有り得ないようだ。

「じゃあ……まあ、承認、で」

だけど「子供が轢かれた」というニュースは、大人が轢かれた場合よりも比重が大きくなりやすい。

もろもろの審査は形だけで、ほぼフリーパスに近い状態だった。

「何か気がかりなことでも?」

「え、いや、朝食のホウレンソウが奥歯に挟まってるようで……」

しかも俺たちの町では、警察立場があまり良くない。

魔法少女などの自警活動を行う者や、超能力者ロボットといった強力な“個”。

そういった注目を集める存在に、警察は後手に回ることが多かった。

常日頃から組織としての必要性世間疑問視されていたんだ。

そして、ここにきて管轄である交通での事故が起きてしまった。

実際がどうあれ、警察側にも多少の責任が問われる出来事

立場上、「子供が轢かれた事件ひとつ信号機つける必要ある?」と言うのは難しかったわけだ。

信号機って結構お金かかるんですよねえ……いや、でも、まあ仕方ないですよね、はい


こうして信号機の設置は決まり、俺たちはそれが取り付けられる様子を遠巻きに眺めていた。

「つける意味あるのかなあ」

「私、あそこよく通るけど、ないと思うわ」

「つけたところで、どうせ子供大人無視するだろうしな」

実際にあの道路を利用する人間にとって、あそこに信号機をつけるのは煩わしいだけだ。

事故に遭ったツクヒに同情する気が起きない俺たちは、割と冷めていた。

まあ、もはや決まったことだし、とやかく言ってどうこうなるもんじゃない。

発端となった交通事故当事者子供だけど、その是非を決めるのは最終的に大人の役目だからだ。

いくら急いでいたからって、この場所事故なんて起きるのかなあ?」

「それにつけても、随分とトントン拍子に決まったよな。なんだか予定調和感がある」

それでもこの場にいたのは、排気ガス匂いに紛れて妙な“クサさ”を感じたからだった。

陰謀論だなんて言うつもりはないけれど、今回の件は自分たちが知らない、何か変な力が働いている気がしたんだ。

それくらい、ここに信号機がつけられるなんてことは、俺たちにとって異常事態だったわけ。

「あ……つ、ツクヒだ」

そんなことを考えていると、仲間のドッペルがツクヒがいるのを見つけた。

「む……」

ツクヒもこちらに気づいたようだ。

交通事故の話を聞いてから、初の対面である

軽傷とは聞いていたけれど、所々に貼り付けられた大き目の湿布や、そこから覗かせる打撲の跡が痛々しい。

正直、疑っていたんだけど、怪我からして車に轢かれたことは本当のようだ。

「ふん……お前らも来てたのか」

ツクヒは、なんだか居心地が悪そうだった。

当事者なのだから、ここにいて不思議じゃないのに。

「元気そうじゃん。明日から学校来れるの?」

「そうだな……授業においていかれるのは面倒だしな」

しかも、どうも喋りの歯切れが悪い。

車に轢かれて怪我したんだから、ツクヒならもっと怒っているはず。

いちゃもんだろうが、自分に落ち度があると内心思っていようが、それでも主張を憚らない奴だ。

なのに、いつもより覇気のない態度。

俺たちは確信した。

これは間違いなく“何か”がある。

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