2019-08-04

[] #76-8「車道シャドー

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「あの二人、すごい剣幕だったね。最初の穏やかさが嘘のようだ」

「ああいうところは、やっぱりツクヒの親なんだなあ」

ただ、あの態度は少し気になる。

子を思うあまり感情的になったと考えることもできるけど、何だかそれとは違う必死さがあったような。

「お前ら……」

そして長い廊下を抜けて玄関へたどり着いたとき、ツクヒとばったり出会った。

さら出てきたってことは、タオナケの怒号に釣られたのだろう。

「じゃあな、ツクヒ! 学校でな!」

こいつにも聞きたいことはあるが、今はそれどころじゃない。

俺たちは靴を踏みつけるように履き、にべもなくツクヒの横を通り過ぎた。

明日放課後、みんなで後者裏に来い」

すれ違う瞬間、あいつは呟くようにそう告げた。

随分と意味深だ。


こうして翌日、俺たちはツクヒと共に後者裏にいた。

「で、ツクヒ。話ってのは何だ?」

「分かってるだろ。お前らが嗅ぎまわってることについてだ」

何となくそんな気はしたけど、やっぱりそれか。

まあ、普段は訪ねない人の家に押しかけたんだから、そりゃあ勘付くよな。

「え……か、嗅ぎまわってるって……」

「今ここで、とぼけることに何か意味があるのか? そういう無意味なやり取りをしたいなら、このまま解散でも構わんぞ」

「いやいや、ごめんごめん。お前の交通事故についてだろ?」

これまで大した成果も得られなかったのに、まさか一気に進展するとは。

というより、今までの俺たちが無駄な遠回りをしていただけのような気もする。

急がば回れ」とはよく言うけど、あれは「慣れないルートで近道するくらいなら、慣れたルートの方が結果として早い」って意味らしい。

そのことを俺はしばらく後になってから知って、国語の授業をもう少し真面目に受けておくべきだったと反省した。

まり俺たちは「そっちの方がスマートっぽいから」って理由で、慣れないルートで回り道をしていたわけだ。

道には迷うし、結局は時間もかかるしで、グダグダになるのは当然。

我ながら、そんな単純で簡単なことにも気づかず、無理やり複雑にしようとしていた。

「それにしても意外だな。そっちから話を持ちかけてくるとは思わなかった」

「こっちだって話したくない。だが今の状況、周りの反応にはウンザリしているんだ。その上、お前らにまで纏わりつかれたのは鬱陶しい。車に轢かれるよりも、たまったもんじゃない」

ツクヒ特有の嫌味な、クドい言い回し

普段どおりの調子から、ツクヒがこれから語ることは本心であることが窺えた。

「断っておくが、お前らが期待しているような隠された陰謀だとか、深い事情だとかいったものは何一つないぞ。むしろ表面的に見えている事実よりも、遥かにクダらない真実だ」

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