「あの二人、すごい剣幕だったね。最初の穏やかさが嘘のようだ」
「ああいうところは、やっぱりツクヒの親なんだなあ」
ただ、あの態度は少し気になる。
子を思うあまり感情的になったと考えることもできるけど、何だかそれとは違う必死さがあったような。
「お前ら……」
そして長い廊下を抜けて玄関へたどり着いたとき、ツクヒとばったり出会った。
今さら出てきたってことは、タオナケの怒号に釣られたのだろう。
「じゃあな、ツクヒ! 学校でな!」
こいつにも聞きたいことはあるが、今はそれどころじゃない。
俺たちは靴を踏みつけるように履き、にべもなくツクヒの横を通り過ぎた。
すれ違う瞬間、あいつは呟くようにそう告げた。
随分と意味深だ。
こうして翌日、俺たちはツクヒと共に後者裏にいた。
「で、ツクヒ。話ってのは何だ?」
「分かってるだろ。お前らが嗅ぎまわってることについてだ」
何となくそんな気はしたけど、やっぱりそれか。
まあ、普段は訪ねない人の家に押しかけたんだから、そりゃあ勘付くよな。
「え……か、嗅ぎまわってるって……」
「今ここで、とぼけることに何か意味があるのか? そういう無意味なやり取りをしたいなら、このまま解散でも構わんぞ」
「いやいや、ごめんごめん。お前の交通事故についてだろ?」
これまで大した成果も得られなかったのに、まさか一気に進展するとは。
というより、今までの俺たちが無駄な遠回りをしていただけのような気もする。
「急がば回れ」とはよく言うけど、あれは「慣れないルートで近道するくらいなら、慣れたルートの方が結果として早い」って意味らしい。
そのことを俺はしばらく後になってから知って、国語の授業をもう少し真面目に受けておくべきだったと反省した。
つまり俺たちは「そっちの方がスマートっぽいから」って理由で、慣れないルートで回り道をしていたわけだ。
道には迷うし、結局は時間もかかるしで、グダグダになるのは当然。
我ながら、そんな単純で簡単なことにも気づかず、無理やり複雑にしようとしていた。
「それにしても意外だな。そっちから話を持ちかけてくるとは思わなかった」
「こっちだって話したくない。だが今の状況、周りの反応にはウンザリしているんだ。その上、お前らにまで纏わりつかれたのは鬱陶しい。車に轢かれるよりも、たまったもんじゃない」
普段どおりの調子から、ツクヒがこれから語ることは本心であることが窺えた。
「断っておくが、お前らが期待しているような隠された陰謀だとか、深い事情だとかいったものは何一つないぞ。むしろ表面的に見えている事実よりも、遥かにクダらない真実だ」
≪ 前 「……君ら、本当にツクヒの見舞いで来たのかい?」 さっきまで穏やかだった二人も、さすがに表情を強張らせている。 まあ無理もない。 指摘自体は間違ってなくても、友達...
≪ 前 「ごめんくださーい」 俺たちは見舞でツクヒの自宅を訪ねた。 勿論それは建前で、本当の目的は事情聴取。 第一発見者なら、ツクヒを轢いた車を見ている可能性も高いだろう...
≪ 前 こうして俺たちは、この言い知れない謎を解明するため捜査に乗り出した。 ツクヒを轢いた犯人はどこの誰なのか。 いや、本当に車に轢かれて怪我をしたのか。 そうじゃなか...
≪ 前 信号機の管理には、警察が大きく関係しているらしい。 「ん? 信号機の設置ですか」 「ええ、交通事故が最近あったでしょう。そこに設置しようってことで」 「ああ、あれ...
≪ 前 結局、HRの時間になってもツクヒは現れない。 そして、その理由はすぐに分かった。 「先ほどツクヒ君のご両親から連絡がありまして……登校中に車に轢かれたようです」 突如...
≪ 前 そうして俺たちは、その信号機のある場所へ赴いた。 「この信号機が、この町のシンボルさ」 俺の通う学校の大通りから少し離れた、脇道みたいな場所。 そこにポツンと設置...
俺の住む町は田舎ってわけじゃないけれど、控えめに言ってマイナー、はっきり言えば中途半端なところだ。 それでも年に1回くらいのペースで、ガイドブックの流れに逆らって上陸し...
≪ 前 前置き通り、語られた真実はシンプルだった。 あの日、目覚まし時計が鳴らなかったせいでツクヒは寝坊してしまう。 「は? 何で鳴らないんだ? いや、鳴っていたのに起き...