2019-08-02

[] #76-6「車道シャドー

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「ごめんくださーい」

俺たちは見舞でツクヒの自宅を訪ねた。

勿論それは建前で、本当の目的事情聴取

第一発見者なら、ツクヒを轢いた車を見ている可能性も高いだろう。

「来てくれて、ありがとうねえ」

「おカマいな~く、おナベな~く」

それにしても、意外といいとこ住んでんだなあツクヒのやつ。

部屋の中も小奇麗というか、品がある。

マメ掃除しているのか、それともハウスキーパーってやつがいるんだろうか。

他人の家を訪ねたときの独特な臭いもしなくて、するのは消臭剤匂いだけだ。

いや、もしかしてロマとかなんだろうか、この香り

「みんな、これ美味いぞ! なんの食べ物分からんが!」

出てくる茶菓子も気取っているというか、突然やってきた俺たちにポンと出せるレベルじゃない。

仲間のシロクロが、目的も忘れて菓子を食べるのに夢中になっている。

だけど親御さんたちは、そんな不躾な態度を気にせず接してきた。

「あの子を呼んでくるから、もう少し待っててね。怪我はもう大丈夫なんだけど、恥ずかしがってるみたいで」

「いやあ、学校で上手くやれているか心配だったけど、見舞いに来てくれる友達がいてホッとしたよ。あの子学校のことは全く話してくれないからね」

あいつの親とは思えないほど物腰が柔らかくて、子供思いのマトモな人たちだ。

その意外性も気になるところだけど、今はそんな場合じゃない。

ツクヒがくると面倒そうだから、そろそろ本題に入ろう。

「そういえば、まだ見つかってないんですよね。ツクヒを轢いた車と、運転手

しかし焦ってはいけない。

単刀直入質問するんじゃなく、話題に紛れ込ませるようにしていく。

「そう、なんだよね……」

被害者の親にとってはセンチメンタルな話だから、あまりズケズケと聞くものじゃない。

ガキの俺たちにだって、それくらいのことは分かる。

それで心象を悪くしてしまうと、聞き出しにくくなるしな。

「うん……今も何食わぬ顔で、どこかで車を走らせているかと思うと気が気でないよ」

「そう、ね……警察には早く見つけ出して欲しい、ね」

言葉を選んでいるのか、それとも出てこないのか、ところどころ詰まらせたテンポで喋っている。

それほどにツラい出来事だったのだろう。


「あの子遅刻する~って言いながら忙しなく出て行ったから、車で送ってあげようと後からいかけたら……」

そうしてやり取りを数分続けていくと、いよいよ聞きたかった部分を話し始める。

俺は前のめりになって尋ねた。

「轢いた車を見たんですか!?

「いや、自分たちが着いたときには既にいなかった……」

しかし、返ってきた答えは他の人と同じだった。

ここまで色々動き回って、何の成果も得られないのは初めてだ。

この人たちすら知らないんだったら、もうツクヒに期待するしかない。

ただ、あいつがここで喋ってくれるような気はしないか学校で聞こう。

それでも喋ってくれるとは思えないが。

俺たちは肩を落としつつ、この場はひとまず適当理由をつけて退散しようとした。

「私、思うんだけど、運転手が見つかったところで大して意味ないわよね。ツクヒの不注意が原因なんだし」

「え?……」

だがその時、タオナケが思わず口を滑らせてしまう。

得られた情報肩透かしだったものから、気が緩んでしまっていたらしい。

元々、思ったことが口に出やすタイプだが、この期に及んでそれ言っちまうのかよ。

「おい、タオナケ!」

「あ……でも私、別に間違ったことは言ってないけど」

タオナケも失言にはすぐに気づいたが、取り繕うのが面倒くさくなって開き直った。

危険を顧みず車道に突っ込んで、それで案の定ぶつかっただけ。それで“こっちが傷ついたので、悪いのはそっちだ”なんて当たり屋のゴロツキでしょ」

「よすんだ、タオナケ!」

どんどん言葉が出てきて止まらない。

挙句信号機がないのがダメなんだってことになったんだけど、あん場所で轢かれるなんて普通ありえないし。あったところでって話よ」

俺たちは慌ててタオナケを止めようとする。

かに俺たちも内心思っていたことだけど、ツクヒの両親がいる前でそれを言ってしまうのはマズいだろ。

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