こうして俺たちは、この言い知れない謎を解明するため捜査に乗り出した。
ツクヒを轢いた犯人はどこの誰なのか。
いや、本当に車に轢かれて怪我をしたのか。
そうじゃなかったとして、なぜあそこで轢かれたことになったのか。
そして、何かを隠していたとして、その理由とは何か。
あそこに信号機をつけることが目的なのか、それとも他に隠された意図があるのか。
俺たちから湧き出てくる疑惑の数々は、実際のところ確かなものなんて一つもない。
今回の件に納得しきれないという想いが、取るに足らないことを強い違和感にさせているだけなのかも。
現実でそんなことをアテにする刑事がいたら汚職もいいとこだろう。
だけど俺たちは警察じゃない。
だから出てくる答えが何であるにしろ、知るための労を惜しむわけにはいかない。
それに俺たちから言わせれば、気になったことを気になったままにして、悪意と一緒に放っておく方が良くないと思うね。
好き勝手に邪推した以上、それを明らかにする使命が冒険家にはあるのさ。
まず俺たちは周りの住人から聞き込みを始めた。
「なるほど。曲がる途中で減速していたから、ぶつかっても軽傷で済んだってことか……」
「辻褄は合うね」
直接ツクヒに聞けばいいって思うだろうけど、こういうのは第三者から情報を集めてからじゃないとダメなんだ。
何か隠していたとしても、今のままじゃ白状してくれないだろう。
下手に詰め寄ったせいで警戒されてしまい、口がより堅くなってしまう可能性もある。
だから決定的な証拠が必要だけど、そんなものがあれば既に揉み消されているだろう。
一通り揃ったら、それらを憶測に基づいて組み立てていくんだ。
そうして真実への道筋を作り、最終的にはツクヒが白状するよう誘導するってわけ。
まあ、憶測ありきの状況証拠で追及するだなんて、芸人をスパイに仕立てる位に無茶な方法だとは思う。
「あなたが現場を見に行ったときには、ツクヒを轢いた車は既にいなくなっていた、と……」
こうして地道に聞き込みを続けていったんだけど、予想以上に捜査は難航した。
事故が起きた瞬間は誰も見ておらず、駆けつけた時には怪我をしたツクヒと、それを心配する親がいただけ。
みんな大体同じことしか言わない。
それだけ確かな情報ってことなんだろうけれど、これだけじゃあ真実には程遠い。
もう近隣の住人には一通り聞いてしまったが、このザマ。
「ん、ちょっと待って……」
「近隣の人たちが現場を見に行ったときの状況は、事故に遭ったツクヒと、それを心配するご両親……」
「ああ、そうらしいな」
「ツクヒの親御さんは、近所の人たちよりも早く現場に居合わせたわけだ」
「……あ、そうか!」
ミミセンに説明されて、俺たちもやっと気がついた。
≪ 前 信号機の管理には、警察が大きく関係しているらしい。 「ん? 信号機の設置ですか」 「ええ、交通事故が最近あったでしょう。そこに設置しようってことで」 「ああ、あれ...
≪ 前 結局、HRの時間になってもツクヒは現れない。 そして、その理由はすぐに分かった。 「先ほどツクヒ君のご両親から連絡がありまして……登校中に車に轢かれたようです」 突如...
≪ 前 そうして俺たちは、その信号機のある場所へ赴いた。 「この信号機が、この町のシンボルさ」 俺の通う学校の大通りから少し離れた、脇道みたいな場所。 そこにポツンと設置...
俺の住む町は田舎ってわけじゃないけれど、控えめに言ってマイナー、はっきり言えば中途半端なところだ。 それでも年に1回くらいのペースで、ガイドブックの流れに逆らって上陸し...
≪ 前 「ごめんくださーい」 俺たちは見舞でツクヒの自宅を訪ねた。 勿論それは建前で、本当の目的は事情聴取。 第一発見者なら、ツクヒを轢いた車を見ている可能性も高いだろう...
≪ 前 「……君ら、本当にツクヒの見舞いで来たのかい?」 さっきまで穏やかだった二人も、さすがに表情を強張らせている。 まあ無理もない。 指摘自体は間違ってなくても、友達...
≪ 前 「あの二人、すごい剣幕だったね。最初の穏やかさが嘘のようだ」 「ああいうところは、やっぱりツクヒの親なんだなあ」 ただ、あの態度は少し気になる。 子を思うあまり感...
≪ 前 前置き通り、語られた真実はシンプルだった。 あの日、目覚まし時計が鳴らなかったせいでツクヒは寝坊してしまう。 「は? 何で鳴らないんだ? いや、鳴っていたのに起き...