2019-07-29

[] #76-2「車道シャドー

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そうして俺たちは、その信号機のある場所へ赴いた。

「この信号機が、この町のシンボルさ」

俺の通う学校大通りから少し離れた、脇道みたいな場所

そこにポツンと設置された、歩行者用の信号機がそうだ。

「これが……?」

オッサン怪訝な顔をするのも無理はない。

見た目は何の変哲も無い、どこにでもあるタイプ信号機だ。

最近になって設置されたから小奇麗で、歴史なんてものも感じない。

客観的に考えて、町の歴史書にも記されることはないだろう。

「見た目で判断しちゃいけない。これには深~いオモムキってやつがあるんだから

から俺たちは解説をする必要があった。

文化的だったり芸術的ものってのは、一般人には基本的理解できない。

それっぽい説明をして、初めて価値が見えてくる。

世界文化遺産だって、そうだろう?

「この信号機はね、ほぼ意味がないんだ」

「はあ?」

「“意味がない”からこそ、“意味がある”のさ」

「はあ?」

ふざけているわけじゃくて、大真面目だ。

この鉄クズ電気食い虫に表面的な価値はない、

それでも俺たちの心に刻み込み、語り継ぎたい“意味”があるんだ。

====

さっきも言ったけど、この信号機には意味がない。

なくても問題ない場所にあるからだ。

かい歩道へは数メートルの間隔しかなく短い。

車道は東からだと長く真っ直ぐ伸びていて視界は良好。

西側は曲がり一本なので車は減速する必要がある。

まり左右確認をすれば横断は安全ってこと。

いや、そもそも車なんて滅多に通らないので、それすら必要いかもしれない。

で、ここまで説明すると、あるクエスチョンが出てくる。

「じゃあ、なんでここに信号機が設置されたのか」

そう、そこが重要なんだ。

“出来た理由”、その“経緯”にこそ深い意味が隠されている。

…………

発端は今から数ヶ月前。

半袖と長袖の人間が交差する、中途半端な時期だ。

その日の俺もいつも通り登校して、いつも通りクラスの仲間たちと何気ない会話を交わしていた。

だけど一つだけ違っていたのは、ツクヒの憎まれ口が聞こえてこなかったってこと。

「ツクヒまだ来てないのか」

気になったのは、別にいなくて寂しいからってわけじゃない。

近所に店があるんだけど、入ったことがないし、入る気もないところってあるだろ?

通りがかった時、その店が開いてなかったら「あれ?」ってなるじゃん。

そんな感じさ。

「私も気になってたんだけど、また手強い風邪にでもやられたのかしら」

「ぶり返したのか? 完全に治ったとか言ってたのに」

ツクヒの奴は捻くれているが、遅刻絶対にしない。

ズル休みなんてのもしない。

そんなことをする位なら、無理にでも登校して「ああ~学校行きたくねえ~」ってグチグチ言ってくる奴だ。

からHRも迫ってるのにあいつがいないってのは、思っている以上に特殊な状況だった。

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