2019-07-30

[] #76-3「車道シャドー

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結局、HR時間になってもツクヒは現れない。

そして、その理由はすぐに分かった。

「先ほどツクヒ君のご両親から連絡がありまして……登校中に車に轢かれたようです」

突如、担任の口から告げられた出来事に、俺たちまで交通事故に遭ったような衝撃を受けた。


両親によると、その日ツクヒは寝坊してしまったらしく、慌てていたらしい。

急いで登校していたため、危機管理能力が散漫になっていた。

しかも車が滅多にこない場所なのもあって、油断していたのだろう。

そのせいで車道を横断するとき確認を怠り、良くない結果に繋がったというわけだ。

それでも軽い打撲と捻挫だけで済んだのは、不幸中の幸いというべきか。

運転手側は逃げたようで、まだ判明していません」

担任はそう言っていたが、「逃げる」と表現するのも変な話だと思った。

話を聞く限り、運転手側に非はない。

寝坊したせいで急ぐ必要があったのも、歩道もない場所に突っ込むなんていう危険行為選択したのもツクヒだ。

贔屓目に見ても、大きな落ち度のある人物は明らかに思えた。

起きるべくして起きた、難しく考える余地なんてない出来事だ。

俺も仲間も、いや、クラスの皆がそう思っていた。


だけど大人世界では、そういうことを複雑にするのが流行っているらしい。

「今回、事故が起きてしまったわけですが……何か改善案があれば意見をどうぞ」

この交通事故は町の人々に瞬く間に広がり、ここ最近トレンドになった。

そして数日後、この町にいる色んな市民団体が一同に介し、今回の件について議論することになる。

「こういった事故が起きた際、迅速に対応できるよう窓口を用意しましょう」

「車が危険だってことを伝える啓蒙活動もしていきますか」

交通量の調査バイトをしていた兄貴はそこに居合わせていた。

曰く「意味があるようで、実際は大して意味のないやり取りばかりしていた」だったという。

「その子供が急いでいたせいで起きたことを考慮するなら、登校時間もっと余裕のあるよう設定すべきでは?」

「いや、それよりも通学路に配備する役員を増やすべき。そのためにも公費を増やしましょ」

「あの役員たちはボランティアでやってるのでは?」

ボランティア無償って決まりはありません。働く人間には相応の賃金を与えるべきでしょ」

「その主張、いま交通事故関係あります?」

「少しはあるでしょ!」

今回の件にかこつけて、自分たち要求を通したい。

或いはどこかの誰かに責任を追及して、押さえつけたい。

各々の、そんな思惑が見え隠れしていた。

そもそも学校側が通学路をしっかりと定めるなり、スクールバスなり用意すれば、こんなことにならなかったのでは?」

「あと、未だ犯人を捕まえてない警察無能っぷりも問題ですよね。やっぱり自警団を作りましょう」

そうして各々が言いたいことを一通り言い終わると、いよいよ交差し意見の中心点を決める段階に入った。

「それで、よさそうかな」

「そう、ですね」

それは件の道路に、信号機を設置するという案だった。

「一応、君の意見も聞きたい。確か弟さん、事故に遭った子と同じくらいの歳でしょ」

大人たちは兄貴にも意見を仰いだ。

「うーん、そうですね……」

調べた交通量を見る限り、信号機をつける意味はないと兄貴は内心感じていた。

だけど現に事故が起き、雇ってる側に詰問されている手前、下手なことは言えない。

「まあ、信号機があることで事故可能性が減るなら、あるに越したことはないと思いますけど」

小銭稼ぎでやっていただけの兄貴は、無難な答えを返すしかなかった。

「よし、彼もこう言ってるし、この方向で進めていきます

「そうですね。折衷案といきましょう」

何をどう折衷した案なのかは分からないが、ひとまず反対意見がでてこなかったので善しとなった。

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