最近のオタク文化にとって、声優という存在は切っても切り離せないものになってきた。
「○○の△△っていうキャラクターが好き!」という話をすると、「声かっこいいよね!」という返しがくることも多いし、声優からそのジャンルを知り、キャラクターを好きになる人だってたくさんいる。
別段それは悪いことでも何でもないし、むしろそのおかげでジャンル自体が盛り上がり、売上が伸びることはいいことだと思う。
ただ個人的に思うのは、最近あまりにもキャラクターと声優を同一視する人が多くないか?ということだ。
おそらくこれはSNSやラジオやリアルライブなどで声優本人のことを見て、知る機会が増えたことによるのだろうが、二次創作のみに限らず果ては原作にまで、声優の行動や人格がキャラクターに逆輸入されたりファン内での暗黙の了解となったりしている場面をよく見る。
私にとって声優というのはあくまでキャラクターの一部であり、キャラクターの人格や設定というのは声優のそれとは独立した存在であったため、正直なところ初めてそれに遭遇したときは戸惑った。
さらに言えばアニメとはあくまでも原作の付属品、あってもなくてもいいものであって、ノーコストで見れるものでもない(これは私が地方民のため、購入もしくはレンタルの必要性があるためである)。
漫画など声のつかないものが原作の場合、自然と声優という存在は必須のものではなかった。
勿論アニメが嫌いなわけでもないし、原作よりもアニメのほうが好きなシーンだってある。このキャラクターのこの台詞の言い方がいいな、と感じることも多々あった。
それでもそのキャラクターの話をしているときにまるでそのキャラクターの魅力の大部分が声優であるかのように、または声優が面白い方だからといってそのキャラクターまでネタキャラのように話をされるのはどうしても不快に感じてしまう。
私自身リアルライブのあるジャンルにいて、ライブ参加をしたこともある。
けれどもそれは、推しの歌を聞きたくて行っているだけであって、声優を見に行っているわけではなかったし、当然推しと声優を重ね合わせるなんてしなかった。
踊りながら歌うなんて相当な努力がないとできないし、少しでも私達ファンに楽しんでもらおうとしているのがダイレクトに伝わってきた。もちろん応援はするし、感動だってする。
それでも私は、声優のリアルライブよりも、たとえ薄っぺらでもステージ上の画面に映された私の推しが踊っているライブのほうがきっと魅力的に感じただろう。
ぼやかしても察してしまう人がいるかもしれないが、例えば、最近SNSで「このキャラのほうが明らかに歌が上手いのに、こっちのほうが歌バトルで負けるのが納得がいかない」「歌の上手さでは勝ってるのに人気差で勝敗がつくのが悔しい」という意見を見た。
どうやら投票によって勝敗をつける企画があったらしく、歌の技術的には勝っているチームが負けたらしい。
広く拡散された意見だったが、私としてはあまり賛同できなかった。
技術面ってそれ、キャラクター同士の勝負じゃなくて声優同士の勝負じゃないのか?
技術面だけで勝負するんだったらそのキャラクターはいらないのではないか?
個人的には人気差のほうがキャラクターの見た目、性格、生い立ち、色々なものが組み合わさって、きちんとそのキャラクターを見てくれているように思える。
公式から明確なステータス差も出ていないのに、声優の能力だけでキャラクターのステータスまで決まってしまう方がおかしいのではないか。
別に歌が上手い声優が当てられたからと言ってキャラクターまで歌が上手いわけではないし、逆に下手な声優が当てられたからと言ってキャラクターが下手なわけではない。
公式からのキャラクターのステータスが出ていない以上、そこから技術の良し悪しを推測するのはあまりにも残酷ではないだろうか。
声優というのは、魅力の一つにはなるであろうがそれだけが魅力ではない。
それだけを考慮して結果を決めるとなれば、『声優のおかげ』だけならまだしも、『声優のせい』になってしまうこともある。
こうして長々と声優とキャラクターの同一視に苦言を申してきたが、私自身声優とキャラクターを結びつけてしまったこともある。
自分のジャンルで声を当てている声優が、自分のファンへ後ろ足で砂をかけるような発言をした。
そのキャラクターは特に推しという訳ではなかったが、それでもその発言を知ったときはかなり衝撃的で、そして何より悲しかった。
私の知るそのジャンルは、そのキャラクターにかかわらず、すべてのキャラクターがファンを大事にする子たちだった。
先述したとおり、リアルライブを行うそのジャンルでは、一見してその声優は一生懸命だった。
私はてっきり声優もそのキャラクターのことを好きだと思っていたし、必死に応援だってした。
声優の行動は当然そのジャンルの評判に関わる。これは同一視があるからとかそういう問題ではないのはわかるだろう。
ファンのことを思って一生懸命頑張っている声優が大多数だろうとは思う。
それでも彼は仕事だからやってただけだったんだなあとぼんやり感じて、私はそのジャンルから離れてしまった。
それでもそのキャラクターも好きだったし、そのキャラクターを見るたび声優を思い浮かべてしまう自分が何よりも嫌だった。
そのキャラクターの魅力はたくさんあるのに、その世界の彼とは無関係な声優のやったことで、そのキャラクターを評価してしまう自分が嫌だった。
もうこんな思いはしたくないと思ったし、どのジャンルであってもリアルライブには二度と参加しないだろう。
今でもそのジャンルは好きだし、例のキャラクターだって好きだ。
いつか本当に私がその声優とキャラクターとを同一視しなくなることができるようになったら、そのキャラクターそのものを見ることができたら、その時は再びそこに戻れることを願っている。
私にも好きな声優がいる。
そして、その数以上に好きなキャラクターがいる。
未だ『声のついていない』大好きなキャラクターたちにとってマイナスにならない声優がついて、そして、声のみでなく彼ら・彼女ら自身を見てくれるファンが増えることを願っている。