結婚式ってハレの日だし、普通は本当がどうであっても「いい式だったね」とかなんとか言って帰るもんだと思うんだけど、今から7、8年くらい前、どうにもこうにも辛抱ならずにキレてしまった結婚式があった。
祝い事なので今まで黙っていたのだけれど、もうだいぶ時間も経ったし、ふとしたことで思い出したので書く。
それはだいぶ年下の従兄妹の結婚式だった。
昔からいつでも家族一緒の写真が飾られているようなとても仲の良い一家だったので、きっととても良い式になるのだろうなと喜んで式場に向かったのを覚えている。
小さなアパレル販売店で働く彼女は仕事を通じて今の夫に出会ったらしく、結婚式が始まるとお約束のようにそのエピソードの紹介が始まった。
新郎側の会社は大手のアパレル商社らしく、主賓挨拶やらなんやらでは新郎新婦のことにはほとんど触れずに「我が社の素晴らしさ」みたいなことが延々と語られていたような気がする。
よく覚えていないが、経営は安泰盤石だしイギリスの某ブランドがあるからどーたらこーたらみたいなことを左団扇で語っていたのは覚えている。
それはまあいい。結婚式なら普通のことだし、サラリーマンの結婚式にはよくあることだろう。
新郎側のほうが会社が大きいため、どうも挨拶や出し物が新郎側のほうが多い。
それもまたあるあるなんだろうけどそれがだんだん度を越してきて、しまいには新郎方:新婦方の話題の比率は8:2を余裕で超えた。
どうも昭和な商社なようで、昭和な宴会芸やら職場の話題がほとんどだったのだが、披露宴なんだからさ、もうちょっと新婦や新婦方の話題があってもいいんじゃねーの?と思いながら観ていた。
話を聞くに、どうも新婦の務める側の会社は新郎の会社の子会社だか傘下の販売店だかの関係なようで、新婦方の挨拶とかは妙に新郎方の会社をヨイショしたコメントだったりしてしかも一瞬で終わってしまったので、それがますます奇妙な話題比率に拍車を掛ける。親族としてはそんなの知らねーよって感じではあるが、当の家族が黙って見ているので我慢した。
遠い親戚の俺から見たって、もっと語るべきことや披露することは山ほどあるだろうになって思ったけど、とにかく我慢した。
さらに司会者の捌きがかなりイマイチで、そんなこんなギクシャクした雰囲気で淡々と進めた結果時間がだいぶ余ってしまったようだ。普通、結婚式って時間に収めるのに苦労するものだと思うんだけど。
イマイチ司会者、何を思ったか「ここからは皆さんで一言喋りたい人にマイクを回します」とかやりだした。まじか。セミナーかよ。
すると、出来上がった新郎会社の連中が次々を手を上げ、次々と会社の内輪ネタを披露しだした。イマイチ司会者は順番にはいはーいとマイクを渡す。どうやら話題の中身やターンを意識してマイクを振るという発想は無かったようだ。はいはーいじゃねーよ。
○○君は若い頃はオイタを一緒にしていたのに落ち着いちゃってー
うるせー。黙れバカ。
新婦は小さな販売店の社員である。ストアで販売員をやっている。
ああ、そうですか。
この間、新婦方にマイクゼロ。司会者、次の方いますかー、はいはーいとそいつらの席に張り付く。
ここで俺は切れた。屋上にいこうぜ、きれちまったよ。
とりあえず新郎会社の席に行って、イマイチ司会者にマイクよこせと言い、マイクを持って新婦家族の席に行った。
音が出るのを確認して「最後に、新婦の兄からひとことです」とわざとらしくひとことしゃべり、会場がシーンとしてから新婦の2つ上の兄にマイクを渡した。
照れ屋の兄はえーほんとにーとか言いながらも親指をグッとして、「しゃべるの下手なのでうまく話せるかわからないけれど」と言い、
それから、赤ん坊の頃から兄妹ほんとうに仲が良かったこと、家族で過ごす時間がいつも楽しくて幸せだったこと、両親への感謝、妹への感謝をニコニコと笑いながら淀みなく一気に話した。
大手子供服ブランドで働く彼は、自分も家族を幸せにする洋服を売っていきたいとちょこっと挟んで、これからも私達が素晴らしい家族でいること、新しい家族を作っていきたいことを語って話を締めた。
音の出元が偏っていた会場でようやく偏りの無い拍手がたくさん響いて、結局この言葉が締めになって閉会になった。
この日会場で一番輝いていた男は新郎ではなく、新婦の兄だった。
結婚式が終わって帰り道、親族一同で「いい式だったね」とは誰も言わなかったけど、「お兄ちゃんは最高だったね」と話しながら歩いた。
今もにたようなデザインの服売ってるのにブランド名が外れるだけでみんな買わなくなるの怖い