2018-09-01

[] #61-6「一人暮らしバイト

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俺は部屋の中を注視する。

根拠のない直感をアテにするものではないが、気のせいなら気のせいで構わない。

今の精神状態では安眠が難しい以上、確認しなければ気が収まらない。

そうして調べること数十秒、意外にも早く変化に気づけた。

備え付けの電話、その留守電ランプが点灯しているんだ。

これは俺にとって珍しいことだった。

連絡する際はもっぱらケータイで、それだって基本はメールとかSNSからだ。

身内や知り合いもそれを分かっているため通話は滅多にしてこない。

というより、この家の電話番号は誰にも言ってないしな。

ここには短期間、住むだけなんだから言うだけ無駄だ。

そう、つまり珍しい以前に、そもそも電話がかかってくること自体おかしいんだ。

それに気づいた時、更に緊張感が高まった。

俺はゆっくり電話に近づくと、まずは留守電の番号を調べる。

103……そんな気はしたが、知らない番号だ。

知り合いの番号を全て正確に記憶しているわけではないが、これは桁が明らかに少ないので違いはすぐに分かる。

なるほど、マンションの内線か。

それなら納得がいく。

内線の番号は、そのまま部屋の番号となっている。

俺の部屋は104だから、つまり103は隣の部屋だ。

新しく住み始めた俺への挨拶か、或いは何らかのクレームだろうか。

後者だったら億劫だな。

こちらには覚えがないので、もしクレームだったら隣人はかなり厄介な奴ってことになる。

俺は留守電再生した。

「……」

だが録音内容は無言であり、周りの雑音が拾われているだけ。

「イタズラ電話か……隣人相手に随分なマネしてくるなあ」

まあ、だからといって、自分から進んでトラブルに首を突っ込むつもりはない。

売られたケンカは買う主義だが、こんなもの商品未満だ。

いずれにしろ、どうせあと数日の隣人関係なのだから不干渉に限る。

隣の……そういえば名前すら知らないな。

最低限、それくらいは覚えておくべきだろうか。

俺は部屋から出ると、隣の表札を見に行くことにした。


そうして扉前まで来たはいいが、度肝を抜かれた。

表札がないんだ。

そういうのをあまり立てたがらない奴もいるにはいるが……。

もしかして隣には、今は誰も住んでいないのではないか

なのに、隣からかかってきた内線。

まり……。

「いやいや……いやいや、ねーわ」

主語のない、否定言葉だけを口に出す。

しかし、ここまでくると俺の中で浮上した“可能性”は、そう簡単に沈んでくれなかった。


…………

その可能性を後押しするかのように、それからマンション内で奇妙な体験を何度もした。

ホラーものありがちな展開は大体網羅したと思う。

まあ、いくつかは俺の自意識過剰もあったと思うが、どちらでもいいことだ。

俺のやることは変わらない。

途中で投げ出すなんていう選択肢は初めからなかった。

自分で言うのもナンだが、俺の性根は割と図太いんだ。

最初の内は得体の知れなさから恐れを感じることもあったが、しばらくするとほぼ慣れてしまった。

本当に心霊現象だったとして、俺が気にしなければいい程度の問題

それに一応は仕事だし、金はやっぱり欲しいしな。

「いや、兄貴。何を馴染んでんだよ」

遊びに来ていた弟が、そう言うのも無理はない。

かに、この時の俺はかなり抜けていた。

「よしんば心霊現象だとかがあったとしてさあ。それに遭遇する確率はどれくらいなのさ。兄貴よくバス電車に乗ってるけど、大きな事故に遭ったのは一回だけだろ。それより低い確率が、今ここで何度も起きてるっておかしくない?」

「うーん……俺もにわかには信じがたいが、そういうのが起きやす場所なんだろう。俺の利用するバス電車運行が基本ちゃんとしているからであって、もし運転手とかが酔っ払いだったら事故は置きやすくなるだろうし」

兄貴意味不明な例えを出すなよ。このマンション酔っ払い運転手と同じだと思ってるわけ?」

「いや、例え的にはマンション乗り物で……」

俺は言葉を詰まらせた。

一見すると無意味な問答に、真相へと向かう道筋を見たからだ。

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