なぜオカルトを信じないのか。
そういうことは説明書に任せるべきで、俺がすることじゃない。
真面目に語れる領分じゃないしな。
だが、そういった気持ちは心霊番組やホラーものを観れば観るほど、むしろ薄まっていった。
だって、ああいうので出てくるものは人間か、動物なら犬猫ばかりだ。
キリンだとかゾウだとか、オオアリクイだとかも出てくればいいのに。
そういった話がない時点で作り手の都合がミエミエだし、それらがフィクションだってことも暗に示している。
結局、子供へ恐怖を通じて学ばせたり、嘘だと分かりきった上で大衆が楽しむ、都合のいい存在でしかないってことだ。
とはいえ俺は、今回の件をわざわざこうやって話している。
つまり、オカルトかどうかはともかく“何か”が起きるってことだ。
このマンションのエレベーターは扉にガラスがついており、外の様子が窺えるようになっている。
そこでガラス越しに人が見えた。
“見え続けて”いた。
5階、6階、7階……同じ様相の人間が、そこに佇んでいるのがハッキリと見える。
事態が上手く飲み込めていないが、自分の中で危険信号が鳴っていることだけは確かだ。
俺がエレベーター内で出来ることは、1階にもいるであろう“奴”に備えて身構えることだけだった。
この時、エレベーターは9階まできていた。
俺の部屋がある階は次だ。
拳に力が入る。
……だが、窓の外に“奴”は見えなかった。
扉が開く。
やはり、いない。
その状況に握った拳の力が弱まるが、まだ解かない。
左右はもちろん、念のため上と下も見た。
気になって後を振り向くなんてこともしてみたが、やはり何もない。
ワケが分からない。
だが、もし“奴”がこの階に向かっている最中だとしたら……と頭をよぎる。
俺は逃げるように自分の部屋に滑り込んだ。
今になって思えば、完全な取り越し苦労である。
他の階にはエレベーターに追いつける程のスピードで来ているわけだから、俺の階にだって既に追いつけているはずだからだ。
じゃあ、なぜそうならなかったのか。
この時点で、その不自然さについて考えていれば、もう少し早めに核心に近づけただろう。
あの時に、そんな余裕がなかったのが我ながら恥ずかしい。
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