2018-09-02

[] #61-7「一人暮らしバイト

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後日、俺はマンションで起きた怪奇現象を、大家に包み隠さず話す。

大家は疑うわけでもなく、あっさりと話を信じた。

そして、確認のために俺の部屋である104号室を見に行くことになった。

すみません、タケモトさん。今日休みだったのに」

「まあ、同意の上でとはいえ仕事を紹介したことに負い目はあったからな」

その場には、証人としてタケモトさんと弟も来ていた。

「じゃあ、104号室。入りますね」

大家が104号室の扉をあけようとした、その時ーー

俺は出鼻を挫くように一つの提案をした。

「その前に、103号室を見てもいいですか?」

「え、そっちは空き家ですよ」

やはり空き家だったか

だが、驚きはしない。

「ええ、でもそこから内線がかかってきたのが気がかりなので、確認のために」

「はあ、分かりました。でも何もないと思いますけどねえ」


103号室に入るが、大家の言うとおり空き家から何もない。

「ほら、何もないでしょ」

当然、そんなことは承知の上だ。

だが、この一見すると何もない場所で俺は“真相”を導き出す。

「俺は心霊現象だとか、そういうのを信じないタイプなんですよね。でも案外そうじゃなかった」

俺は唐突にそう語り始める。

大家は要領を得ず、生返事するしかない。

「はあ、そうなんですか」

「心のどこかではまだそういうのを信じていたから、そういう考えになってしまった。そんなものに気を取られず、もっと冷静に考えればいいだけだったのに」

勿体つけるように、迂遠言い回しをしながら室内をグルグルと回る。

「えーと、つまり何が言いたいので?」

とどのつまり“前提”なんですよ。今まで起きた出来事を“どういう前提”で考えるかが重要なんです。これまでの出来事は“心霊現象という前提”などではなく、“初めから人為的ものによって起きたという前提”で考えるべきだった」

俺がそう言った時、大家の顔が一瞬だけ引きつった。

「例えば、エレベーターの窓から人が見え続けていたのは、そういう形をした、裏表で絵柄の違うステッカーなどを貼っていたからでしょう。その後は見かけなかったので、すぐに剥がされたのでしょうけど」

畳み掛けるように、俺は自分推理披露する。

「103号室から来た内線は何てことはありません。実際にここ103号室からかけてきただけです。この部屋に堂々と入ってね」

その他、俺の身に起きた心霊体験も全て否定することは可能だが、長くなるのでこの辺で本題に入ろう。

さぶるなら今だ。

「そんなことが出来る人間、そんなことをしても咎められない立場人間……そうなると答えは自然と導かれます

俺は大家の方を強く睨みつける。

弟とタケモトさんの視線も、大家に集中した。

「な、何を……なぜわたしがそんなことをしないといけないんですか」

「それはこっちが聞きたい」

俺たちの視線を浴びて、大家は酷く狼狽している。

「そんな推測で疑われても困りますよ。わたしがここに入った証拠もないのに」

証拠ならありますよ。この部屋にあった青い布の切れ端。あなたが今着ているのと同じだ。つまりあなた最近ここに入ったということ」

「ち、違う! それは自分のじゃない。昨日だって赤い服で……あっ!」

当然、これはブラフだ。

俺が長々と喋っている間に、弟にこっそりと服を切らせた。

「語るに落ちたな」

相手自白してくれるよう他にも証拠をたくさん作っておいたのに、まさかここまで早く落ちるとは。

こんな間抜けなヤツに今まで踊らされていたかと思うと、我ながら情けない。

「まあ、とりあえず……社会的制裁は勘弁してやるから、俺の個人的制裁に付き合ってもらおう」

こうして俺の一人暮らしバイト夏休みの終わりと共に終結した。

夏休みボケを治す一環のバイトとしてはビミョーだったが、上等だと思い込もう。


…………

後にタケモトさんからいたことだが、どうやら俺の住んでいた部屋はかなり状態が悪かったらしい。

大家リフォーム代をケチたかったが、このままだと誰も借りてくれない。

そこで大家は、あえて事故物件として売り出そうと考えた。

案外そういうところに住みたがる物好きがいるらしい。

その自作自演に、俺は付き合わされたってわけだ。

「このテのパターンだと、怪奇現象の中の一つは本当の幽霊仕業だったとかいオチ鉄板だけど、ことごとく大家仕業だったなあ」

「アレだ。“人間が一番怖い”ってパターンだ」

「いや、そのパターンにしても今回のはくだらなさすぎるだろ」

とはいえ怪奇現象心霊現象なんて冷静に見れば大体くだらないものなのかもしれない。

「あ、ひょっとして、よくよく考えてみたら怖い話ってパターン?」

「お前は一体なにを期待しているんだ」

そして必要以上の期待をするものでもないってことなのだろう。

まあ、そもそも期待するようなものでもないんだが。

(#61-おわり)
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