2018-08-29

[] #61-3「一人暮らしバイト

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するとタケモトさんは容赦なく露骨きな臭いバイトを紹介してきた。

「じゃあ、これだな。近くに『スペースハウス』ってマンションあるだろ? そこに一定期間住むだけでいい、簡単仕事だ」

タケモトさんの言うとおりなら確かに簡単バイトだが、さすがに鵜呑みにはできない。

人を住まわせた上に賃金まで出すなんて、雇う側にメリットがないからだ。

どう考えても“裏”がある。

「部屋内の不備とか、使い心地とかのアンケートを書く、とかですか?」

俺はあえてバカっぽく質問をして、タケモトさんから答えを引き出そうとする。

「うーん……まあ、そうだな」

歯切れの悪い返答。

この時点で、何か裏があることはほぼ確定だ。

今度はやや強気に出てみよう。

「タケモトさん。俺は多くを要求するつもりはありませんが、説明責任は果たすべきだと思いますよ」

「そうは言ってもなあ、オレが説明できるのはそこまでなんだよ。そこの管理人が具体的な説明をしなくてなあ」

どうやらタケモトさんも、このバイトを怪しんでいたようだ。

だが、それが何かは分からないらしい。

「さすがに、そんなものを紹介するのはどうかと思いますよ……」

普段はこんなの絶対に紹介しねえよ。お前がテキトーに余ってるもんでいいと言ったから、ダメもとで出してみただけだ」

大分ストレスが溜まっているんだな。

今後、職業斡旋所で働くことがあったとしても絶対にやめておこう。

俺はタケモトさんを見て、そう思った。

「まあ、いいや。やりますよ、それ」

何はともあれ、俺はそのバイトをやることにした。

キトーものでいいと言ったのは事実だし。

それに、このバイト意味する“裏の目的”、その見当はついていた。

「え!? マジか、お前……」

「何かあったときは“斡旋”してくれればいいんで」

「おいおい……もしかして、“それ”狙いで請け負ったとか言わないよな?」

「違いますって」


…………

こうして俺は『スペースハウス』のとある一室にて住み始めた。

俺が生まれる前からある程度には古いマンションなので警戒していたが、意外にも中は小奇麗だ。

間取りワンルーム長方形で、一人で暮らす分には十分。

しろ実家では兄弟で一部屋を使っている状態だったので広いとすら感じる。

“裏の目的”よりも、住みやすさの方が俺にとっては問題だったので、これで安心だ。


ああ、もったいぶる必要もないので説明しよう。

まあ、あからさまに怪しいから、俺じゃなくても勘付いたと思うが。

そこは恐らく「事故物件」ってやつだと俺は見当をつけた。

バイト仲間にオサカってのがいるんだが、そいつからいたことがある。

事故物件に住み、そこで何の問題も起きなかった場合には事故物件扱いじゃなくなるらしい。

そうすれば、他の部屋と同じ家賃にできる。

このバイトは、それが目的なのだろう。

雇う側が仕事の内容について最低限しか説明しなかったのも、雇われた側がウソをつく可能性を恐れたからと考えるなら辻褄は合わなくもない。

というわけで、タケモトさんが言ったとおりこれは簡単仕事ってわけだ。

俺はオカルトだとか、そういった類のモノは信じちゃいないからな。

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