2018-08-28

[] #61-2「一人暮らしバイト

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俺は適当アルバイトを見つけるため、近所にある職業斡旋所に来ていた。

入り口近くには掲示板があり、そこに貼り付けられた求人チラシに目を通していく。

夏休みボケを治す一環で働くだけだから、面倒くさそうだったり疲れるようなものは出来れば避けたい。

そうして探していき、最初に目に入ったのはラインバイトだった。

ライン……流れ作業かあ」

このご時世、機械化も進んでるだろうに、こういうのも未だあるんだな。

作業じゃないと難しいモノ、とかなのだろうか。

それとも人材を買い叩いて安く済まそうってハラか?

気になったので、そのチラシを読み込む。

すると、『スプラインの製作』と書いてあった。

「いよいよ分からん……」

馴染みのない固有名詞が出てきて、余計に理解できなくなってしまった。

しかも「スプライン」と「ライン」で言葉が被っててややこしいのが、更に俺を混乱させる。

理屈じゃないんだが、俺はそれを理由候補から外した。


それ以降もチラシを見ていくが、目ぼしいものが見つからない。

ジップラインアシスタント……」

これは色々と覚えなきゃいけないことが多そうだな。

つーか、また「ライン」被ってる。

そんな風に一度気になり出すと、もうダメだ。

エアライン……これもライン……」

俺は「ライン」と名のつくバイトに謎の拒否感を覚え始めていた。

「お、ブラインド製作。これはラインじゃ……いや、あるな」

それにつけても「ライン」が多すぎる。

そういうコンセプトでチラシを並べているのかと思えるくらいだ。

「なんなんだ今日バイトラインナップは」

ああ、くそっ……。

ラインがオレにまで伝染し始めている。

このままじゃ夏休みボケどころか、ノイローゼまで併発しそうだ。

ここからバイトを探すのはやめよう。


俺は相談窓口に行くと、担当のタケモトさんに他にいいものがないか尋ねた。

「マスダよお……オレが近所のよしみで何か都合してくれる、だとか思ってないだろうな? 『頼りにする』のと『アテにする』のはワケが違うぞ」

タケモトさんが不機嫌そうに喋っているのはいものことだ。

だが、発せられる言葉には覇気がなく、眉の角度もいつもより低いのがすぐに分かった。

「疲れてますね」

普段バイトをしない奴らが、夏休みかになると駆け込んでくるからな……」

となると、条件のいいものは余ってなさそうだな。

タケモトさんもかなり疲れているようだし、あまり粘るのも忍びない。

色々とグダグダやってきたが、ここはもう観念しよう。

「俺が出来そうなのをテキトーに見繕ってくださいよ。余っているのでいいですから

「……後悔すんなよ?」

タケモトさんはそう言ったのに、俺は二つ返事で承諾してしまった。

こういう場合、最終的には後悔することが多いというのに。

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