俺は適当なアルバイトを見つけるため、近所にある職業斡旋所に来ていた。
入り口近くには掲示板があり、そこに貼り付けられた求人チラシに目を通していく。
夏休みボケを治す一環で働くだけだから、面倒くさそうだったり疲れるようなものは出来れば避けたい。
そうして探していき、最初に目に入ったのはラインのバイトだった。
このご時世、機械化も進んでるだろうに、こういうのも未だあるんだな。
気になったので、そのチラシを読み込む。
「いよいよ分からん……」
馴染みのない固有名詞が出てきて、余計に理解できなくなってしまった。
しかも「スプライン」と「ライン」で言葉が被っててややこしいのが、更に俺を混乱させる。
これは色々と覚えなきゃいけないことが多そうだな。
つーか、また「ライン」被ってる。
そんな風に一度気になり出すと、もうダメだ。
俺は「ライン」と名のつくバイトに謎の拒否感を覚え始めていた。
それにつけても「ライン」が多すぎる。
そういうコンセプトでチラシを並べているのかと思えるくらいだ。
ああ、くそっ……。
ラインがオレにまで伝染し始めている。
このままじゃ夏休みボケどころか、ノイローゼまで併発しそうだ。
俺は相談窓口に行くと、担当のタケモトさんに他にいいものがないか尋ねた。
「マスダよお……オレが近所のよしみで何か都合してくれる、だとか思ってないだろうな? 『頼りにする』のと『アテにする』のはワケが違うぞ」
だが、発せられる言葉には覇気がなく、眉の角度もいつもより低いのがすぐに分かった。
「疲れてますね」
「普段はバイトをしない奴らが、夏休みとかになると駆け込んでくるからな……」
となると、条件のいいものは余ってなさそうだな。
タケモトさんもかなり疲れているようだし、あまり粘るのも忍びない。
「俺が出来そうなのをテキトーに見繕ってくださいよ。余っているのでいいですから」
「……後悔すんなよ?」
タケモトさんはそう言ったのに、俺は二つ返事で承諾してしまった。
こういう場合、最終的には後悔することが多いというのに。
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