大抵の文系大学生と同じように、俺には将来やりたいことがなかった。
好きなことと言えばゲームくらい。
好きなことを仕事にしたいとはあまり思わなかったが、なんとなくゲーム業界を目指していた。
しかしゲーム業界に拘ってはいなかったので、とにかく色んな企業の話を聞こうと思い、たくさんの企業の説明会に参加しようと決意した。
その中にはもちろん任天堂も入っていた。
就活を始める前の認識としては、任天堂はキャラクターが強く、何か楽しそうだしよさそうな会社、くらいだった。
会場は東京ビッグサイトに併設されたタワーの中のとても大きいホールみたいなところだった。
岩田社長は、まず説明会の場に登場できず、スクリーン越しになってしまうことを詫びた。(この時は多忙のためと言っていたが、体調が優れなかったのだと後で気づくことになった。)
任天堂の歴史、任天堂の目標、当時発表したばかりのDeNAとの業務提携とのこと、次世代ゲーム機NXについての考え方、任天堂が求めている人物像。
岩田社長の話は全て筋が通っており、とても丁寧でわかりやすかった。
1時間半くらい話していたが、岩田社長の話に引き込まれ、あっという間だった。
そこで初めて任天堂という企業の凄さに気づいた。もちろん岩田社長の素晴らしさにも。
その日を堺に、任天堂についてたくさん調べた。
はてぶでブックマークを集めている任天堂のエントリを読みまくった。
それに付いているコメントも全て読んだ。
よくホットエントリーに任天堂の記事があがっているが、理由がハッキリわかった。
俺は任天堂で働きたいと強く思うようになった。
しばらく経ったある日、就活の鬱憤を晴らすために友達と飲みに行った。
友達もみな4年生であったため、就活で忙しく、会うのは久しぶりだった。
最初は他愛もない話をしていたが、酒が進むに連れ、誰がはじめるとなく流れは自然と就活の話になった。
B:「だと思った。手堅くて、お前っぽいな~」
A:「お前は?」
俺:「ずっと言ってたもんな~。」
俺:「どの出版社が一番いいの?」
B:「アパレル系の雑誌の編集者になりたいから、◯◯かな~。行けたらどこでもいいけどな!」
A:「お前はどの辺目指してんの?」
俺:「俺はゲーム系行けたらいいな~。」
A:「ゲーム?今厳しくない?」
俺:「いや、いい会社と悪い会社があるからなー。任天堂とかめっちゃいいよね。」
A:「でも任天堂の最近のゲーム微妙じゃね?Wii Uとか全然売れてねーじゃん。落ち目じゃないの?任天堂なんて。」
ここから任天堂の素晴らしさを友人に熱く、熱く語ってしまった。
任天堂のゲームがいかに他のゲームと違ってユニークで楽しいか。
それを作り出している岩田社長の聡明さ、親しみやすいキャラクター。
任天堂は全てのユーザーを大切にしている。子供からお年寄りまで。
そして任天堂の目的はお金儲けではない、ユーザーを笑顔にすることだ。
そしてその逸話はたくさん残っている。
任天堂はユーザーを笑顔にすることを本気で目指していて、だからこそスペック重視の昨今のゲームの波に逆らって世界中の皆から愛されている。
熱く語ってしまった。
イカに任天堂がすごいか、素晴らしい企業かということを長々語ってしまった。
つい恥ずかしくなって酒がどんどん進んだ。
ああなんでこんなに熱く語ってしまったんだ。
それ以降就活の話はしなくなった。
「俺が熱く語ってしまったせいだな…。」そう思いながらくだらない話を続けていた。
忘れようと酒をどんどん飲む。
友人も俺に合わせてどんどん飲む。
みないい感じに酔っていった。
楽しくなり更に酒が進むに連れ、どんなくだらない話でも笑えてくる。
3人とも明日の予定がなかったため、朝まで飲むことにした。
2軒目でもたくさん笑い、たくさん酒を飲んだ。
少々飲み過ぎかな、とも考えたが楽しかったからどうでもよかった。
眠くなってきたので、2軒目を後にして、歩いて20分くらいの俺の家で寝ることにした。
帰る最中、コンビニを見つけるたびにストロング缶(アルコール9%の缶酎ハイ。早く酔いたい時によく飲んでいた。)を買って飲もうとAが言い出した。
大学生らしく、とてもバカな遊びだと今になっては思うが、酔っていたためとても楽しそうだと思いやることになった。
いつもは20分くらいで家には着くのだが、この日は1時間くらいかけて帰った。
計3本くらいストロング缶を飲んだため、家につく頃には皆泥酔していた。
家に帰るや否や、皆ベッドに倒れ込むように眠りについた。
そして明日になった。
酒を飲み過ぎたせいで3人共見事に二日酔いになった。
トイレを奪い合うようにして吐いた。
男3人で。
目が覚め、iPhoneで時間を確認すると午後4時過ぎだった。
そう考え、俺は目を閉じた。次に起きた時は6時を過ぎていた。
俺の人生こんなもんで十分だ。