はてなキーワード: 前立腺癌とは
さきほどツイッターでとあるツイートを見かけ、大変驚いたと同時にすごくやるせない気持ちになったので少し書かせてください。
そのツイートというのが、
とある向精神薬(検索避けのため薬品名は伏せます)を服用すると副作用として男性でも母乳が出たり、女性のように胸が膨らんだりします!とても現実味のある方法なので腐女子の皆さんはぜひこのネタで受けにミルクを出させてあげてください!Let's母乳☺
といった内容でした。
これをツイートされた方は実際にその薬で治療を行っていてその副作用もご自身で経験されたそうですが、
向精神薬というものがどういう状態の人が服用するのか、『副作用』という言葉の意味、男性の乳汁分泌・女性化乳房がどういう意味を持つのか、この薬を服用していてご自身でその作用を実感されているなら嫌というほどわかっているのではと思うのですがその上でこうしてネタにできるというのは不思議でなりません。
よく創作のための雑学bot~のようなものでも少し医学的な分野に触れた内容は見受けられますが、こういった具体的な疾患や治療、薬剤に関してその作用や症状などを面白おかしく扱うというのはあまりにも倫理観に欠けるのではないでしょうか。
ここでは名前を伏せましたが実際のツイートには薬剤の名前がハッキリと入っており、検索するとその作用や処方状況、服用している方の相談やブログ等も見ることができます。
その中でこのようなツイートが話題となり、検索結果の上位に上ってきたとしたらどうでしょうか。実際にうつ病等で向精神薬による治療が必要となりこの薬を処方された患者さんが、他に使っている人の感想や副作用を知りたくて検索をかけてこのツイートに行きついたらどう思うでしょうか。または女性化乳房や突然の乳汁分泌に驚いて、病院に行くのも恥ずかしくてネットで調べようと思った男性がこのツイートを見たら。どう思うでしょうか。
自分の病気が、または身体の異常がこのように面白がられてましてや性的なコンテンツとして消費されている現実をどう感じるでしょうか。
「前立腺は歳をとると大きくなるって聞いたから、若い人よりもおじさんの○○(キャラクター名)の方がお尻の感度がいいんだ」
といった発言を見かけたことがありますが、こちらも同じですよね。
前立腺は確かに加齢とともに生理的変化として肥大しますがそのせいで排尿に関する問題を抱えて悩む方もたくさんいらっしゃいます。
ましてや前立腺癌というものも存在します。おしっこの出が悪いなら前立腺癌ではないかと言われて不安になった方が検索してみてこれが目に入ったらどうでしょうか。
少なくとも私なら、自分の病気や不安の種をこんな風に面白おかしく書かれ性的なコンテンツのネタにされていたらいい気分はしません。
今回例として挙げたのはどちらも腐女子が男性の体について触れ、ネタとして扱ったものですが、もちろん逆もあるでしょう。
男性が女性の病気や疾患、体調の変調について興味半分で触れ、性消費のネタとすることも少なくはないと思います。
あくまでも今回私が問題と感じたのは『実在する疾患や障害の症状、その治療行為及び薬剤等を面白おかしくネタとして扱う』ことに関してです。
発信者及び対象となる方の性別や年齢・遍歴・疾患・国籍・人種等は問いません。誰が誰のどんな疾患(症状/治療/薬剤…)に対して行っても等しく問題であると思います。
自分も経験者だから良い、つらさがわかってるから良い、面白がるつもりはなかった…等、どんなことを言っても受け取る患者さんはそうは思いません。
医療者であればこのような発言がいかに不適切で患者の心を傷つけるか、また自身の立場を脅かすものであるかわかると思いますが、そうでない方には自分が発する疾患等についての情報の重大性がわからないのも仕方ないのかもしれません。
ですが、他者の病気、すなわち困難や苦痛をまるで笑い話のように扱うことが良くないことであるのはわかってほしいと思います。
実際に検索をかけてみたところ、当該薬剤の使用経験のある方の「向精神薬飲まなきゃいけないほど精神がまいってる時にこの副作用はつらかった」「かなりうつ病が進行してる状態だから性的な欲求は起こらない、それどころではない」といった苦言が見受けられました。ツイートされてからわずか数時間の間に何件もこういった意見が出されています。
医療者のように法的な責任を負えとは言いません。教育も受けていなければ免許を持つわけでもないのでその必要はありませんが、ともすればうつ病や精神疾患の患者団体等から訴えられたりしてもおかしくはないと思います。
御当人は「(疾患や薬剤の効能について)考え方は人ぞれぞれだから仕方ない、私はそう思わなかったからこういうツイートをしてしまったが、自分がこう考えるから他人もこうだというのは無理がある」「私の考えとあなたたちの考えは違う」「文句を言ったりブロックするのは自由だが考えを押し付けるな」と述べられておりますが、この件、すなわち医療に関してばかりはそうもいかないのが難しいところなのだということを、今回このツイートをした御当人にも、そしてこれを読む人にもわかっていただきたいと思います。
病気に関しては、当事者の受け取ったことが全てなのです。痛みがその本人にしかわからず数値化できないのと同じように、病気や障害のつらさやそれをどう受け取るかも確かに人によって違います。ですが、「人によって違うから面白く扱っても許される」ということではないのです。個別性があるなら、大勢に向けて誰か一人の尺度で発信してはいけない、もしするならそれは責任を負わなければならないということです。医療者の常識を押し付けるような形となるのは心苦しくもありますが、病気で苦しむ人がいる以上知っておいてほしいとも思います。
それがわからないのなら、軽率にこういった医療行為及びそれに関連した物品薬剤企業等に関する発言はしないで頂きたい。責任を取れないのは仕方がないが、だからといって何でも言っていいわけではないということです。
病気は誰でも当事者になる可能性があり、誰にとっても不安や苦痛をもたらします。
そのことさえ忘れないで頂ければ、このように疾患や障害・治療薬剤やその患者等を面白がって消費するような発言はできないと思います。
また、そのような発言を拡散する方たちに同じことが言えます。誰かがRTや共有などでその発言を広めることによって、これを不快だと思う方のところに届く確率は間違いなく上昇します。
発信しないことと合わせて、こういった疾患・障害・治療に関する不適切な発言は広めないこともお願いしたいです。
どうしても発信したい、そういうのが好きな方に教えたいと思うのであれば、せめてアカウントを非公開にするだとか、DMやその他クローズドな手段にて個人的にやりとりする程度の配慮はあってもよいのではないでしょうか。
自分の発言が誰からもアクセス可能なものであるということをきちんと弁えて頂きたく思います。
長くなってしまった上、ともすれば特定の一個人を攻撃するような形にはなってしまいましたが、今回あまりにも問題があると思ったため書かせていただきました。
これを機に少しでもそういった発言の減ることをいち医療従事者として切に願っています。
いたずらに患者さんの不安を煽ったり、不快にさせるようなことはやめていただきたい。たとえあなたが医療者でなく、その疾患に関係がなかったとしても。
病名や障害名、薬剤や治療法が存在する以上、それに苦しめられている方も必ず存在します。そしてインターネットはその患者さんとそれらに関係のないあなたを一瞬で結びつけることのできるツールなのです。どうか、どうかそのことを忘れないで欲しいと思います。