現ジャンルに参入して、2ヶ月が経とうとしている。
小さいジャンルだからフォロワーは少ないけど、以前のジャンルより絵の感想をいっぱいもらえるし、いいねもRTもしてもらえる。
調子が良ければ、1日2枚は簡単なイラストを描けるし、どんなに空いても2・3日に1枚はコンスタントにアップしてる。
自称落書きだけどフルカラーだし、とても他人には落書きに見えないらしい。
キャラクターがかっこいいとか可愛いとか言ってもらえると、嬉しい。
学生だろうと、みんな一所懸命絵を描いて色を塗って、作品をアップしてる。
スマホで描いてるのかな。
私はiPad Proだから、指でちまちま描くという苦労が理解できるには程遠い。
ポケモンGOがサービス開始した頃、ボールを投げすぎて人差し指が痛くなってしまったのを思い出した。
あんな感じ。
いいねだけつけてくれる人、
ずっと見ていたけど、恥ずかしくてなかなかコメント出来なかったから、ようやく感想を送れた、と言ってくれた人もいた。
いろんな人がいて、対立してる人もいないし、心地いいなと思った。
恥ずかしくて感想が送れなかったなんて私に言ってくれる人、本当にいたんだと思った。
私も、以前にいたジャンルでずっと閲覧していた人がいた。
見ていたけど、BL表現は苦手で、顔をしかめる表現も多かった。
でも、その人はとにかく毎日のように、日記に添える簡単なカットを描いてはアップしていた。
すらすらと描いているみたいに感じて、
数年前のイラストよりもだんだん上手くなっているのが一目瞭然だった。
至ってシンプルなのだけど、男の子が華奢で小綺麗で可憐だった。
ちょっと間の抜けた表情のイラストは、本人が何か思い立った時くらいしか見たことがない。
ギャグみたいな豊かな表情は苦手らしい。
多分、その人は、私にとって神絵師だった。
アナログ線画デジタル塗りのその人は、つけペンの線一本一本が綺麗だった。
同人誌を買いに行ったけど、一般向けのものを2・3冊しか買えなかった。
他はBL色が濃くて、どうにも買う気になれなかった。
少ない同人誌を何回も見返して、
と思った。
「この人の作風は、こんなにスカスカでも物語が成立してうらやましいな、1ページのペン入れにかかる時間は30分か1時間だろうか」
と思った。
結局はBL作家も、少女漫画のようなモノローグの多いコマ割りを好むんだと思った。
対する自分はどうだろう。
あの人に比べたら、キャラだけでも6倍は描いていると思う。
少しでも緻密さをあの人に近づきたいから、
あの人みたいに、描写をシンプルに出来るところは少しでもないか、描き込みとデフォルメの間でずっと悩んでいた。
多分小綺麗な絵柄に寄せていけば、今までBL本目当てで買っていた人も、私の同人誌を目に留めてくれるかもしれない。
そんなことを暴露しても、誰が気付くだろうか。
漫画が上達するのは、アマチュアであろうと漫画家の当然であり義務みたいなものか。
原作は、絵柄が独特だった。
みんな大体、二次創作でも原作の絵柄に忠実に描く人が多かった。
その人は、どうにも原作に寄せ切ることは出来ないらしい。
心ばかりの原作に寄せた顔のパーツはあったけど、
それでも、サークルの前に足を止めて同人誌を買っていく人は多かった。
50冊くらい売れたのか、早々に切り上げて14時頃にはいつも撤収していた。
でも、私にだって私の絵柄がある。
自分の絵柄で物語が描けたら、こんなストレスを感じなくていいしどんなに気楽だろう。
あの人みたいに、自分の絵柄を尊重して、最初から原作に似せずに描く方法もあったか。
色んな後悔が押し寄せる。
不満はどんどん溜まっていった。
ある時、新刊用に書いていたシナリオと、別の同人作家の新刊告知とが
「ネタ被りした」気がした。
かなり長いこと悩んだ結果、
と割り切って、描き切ることにした。
作品は無事仕上がったし、パクリを疑われるようなこともなかった。
私がこの作品の二次創作をするために書いたシナリオは、きちんと私が原作を考察して書き上げたものに間違いなかった。
ある時、別のジャンルにハマった。
まったく別のベクトルのセンスを求められるファンアートを描く必要があった。
しかもそこには、プロの漫画家もファンアートを投稿しているらしい。
ここも小さいジャンルなのに、友達になれたら、イラストをお互いに描き合ったり出来て楽しそう。
私は、箸にも棒にもかからない。
またたく間に飛ぶように売れた。
次の日、友達になってくれた子が、サークルに私の本を数冊置いてくれた。
「いない間に飛ぶように売れて、完売しちゃったらどうしようかと思った」
と言われた。
あの人もまた、新しい作品と巡り逢って、サイトを閉じて、名前も変えて、別ジャンルの同人誌をせっせと描き始めた。
現在、私は新型感染症のとばっちりで、コミケに参加できていない。
でも、今いるジャンルはもうたくさんの同人誌を描き上げたし、あの飛ぶように同人誌が売れた時代も一瞬で終わった。
ファンは見切りをつけるのがとても早い。
そんな風に、ファンと購買層を分けて考えられる余裕があるのは、二次創作にあまりに慣れすぎたせいか。
私は筆が速いので、ファンアートを描き上げるのもあっという間になってしまった。
あの人に憧れて、もっと上手にとか、もっと速くとか思い悩むことも今はない。
自分の思い通りの品質で絵が描けるようになったから、あとは何枚もイラストを描いて、何人も私の作品に目を留めてくれたらいい。
絵が上手だと思われているかもしれない。
可愛いとか、かっこいいとか、思ってもらえてるかもしれない。
「原作の絵柄」なんて前提も取り払われたので、私は現在、無敵状態だ。
その中で、私は感じた。
誰か私に憧れているのだろうか。
私の絵を見て悔しいと思っているだろうか。
自分の執筆の手が止まってしまうくらい、私に嫉妬しているだろうか。
そう考えたら、私はあの人のことを思い出した。
あの人は、あの時の私にとって神絵師だった。
どんな気持ちで日々絵を描いているのか、
よく澄ました感じで絵を描き続けられるものだと悔しくもなった。
だって、自分はここまで憧れて悔しくて苦しんで、原作と自分の絵柄との間に苦しんで、逃げるようにジャンルからいなくなったのに。
苦しんでいる私を、神絵師は知らない。
知恵熱を出そうが、ガリガリに痩せようが、神絵師はそんなことをいちいち聞かされないんだもの。
今の私は、誰かから「よく澄ました感じで絵を描き続けられるものだ」と思われているのだろうか。
あれほど苦しんだことを度々思い返しながら、
私は今日も黙々と絵を描き続けている。
誰の苦しみもいちいち聞かされないから。
長すぎる
長すぎるから限界まで削ってみて
絵の上手い人間はみんな同じ過程辿ってるからみんな一緒だよ どこまで行ってもその時点での神絵師がいて、自分では描けない憧れの絵を描く人がいて、でも嫉妬や絶望で足を止めるこ...