2014-12-03

劣等感の季節

ある種の人々は言いようのない劣等感を感じている。というか、青春期、人々の多くは言いようのない劣等感を感じているように思う。それは書物で見る限り昔からのようだ。

「その劣等感はどこから来たのか?」とか「どんな理由で感じるのか?」という問いにはあまり意味はない。おそらくそれは青年が何者でもなくて何が出来るかもわからない不安から生じているのだとは思うけれど、そんなことが分かったところで劣等感はなくならないからだ。正解でも不正解でも、あんまり意味がない。

十代でなんとかしないと、という焦りはこないだの青木君の小四なりすましの話に似ている。僕もそうだった。僕らの世代だと登大遊氏なんかが結構輝いてて、ああいう感じにならなきゃ、と思っていた節はある。十代の時になにか成し遂げないといけない、そのためには誰かに認めてもらわなければならないという焦りは、どれくらいの「大人」に理解してもらえることなのだろうか?

http://anond.hatelabo.jp/20141202220427

上の増田は嘆いているけれどその苦しさってそこまでユニークじゃない。「大人」の多くはその苦しみを経過して(乗り越えてとは言わない)大人になっているよ。

大人だってむかしは若者だったし若者だった以上にチンピラだった。Webの情報支援がなかった昔の若者はいまの若者以上に何も出来なくてずっとずっとボンクラだった。大人の多くは自己努力青春だの成長だのしてきたつもりでいるから、上から目線説教したりするかもしれかもしれないけれど、それって高度成長期があったせいであって別段昔の若者が優れてたわけじゃない。

断言する、昔の若者ボンクラだった。公平のために弁護すると、それは昔の若者能力が低かったというよりも、さまざまな課題解決のためのフレームマニュアルが共有化されていなかったせいだ。だからその時代口コミ師弟関係親族関係重要だったしコミュ障は今よりずっとスポイルされてた。また、だからこそ「無鉄砲な行動力」が重要視されていた。体当たりノウハウを積み重ねるというのが今よりずっと意味があったからだ。(なぜならそうして取得したノウハウは簡単には共有されないので差別化の原資になったからだ)。

今の若者はWebによる情報支援があり、さまざまな課題に関して極上のマニュアルを入手することが出来る。遭遇しうるありとあらゆる問題に対して、それを解決した先人がいて、おおよそどうすればいいのかわからないということがない。進学、就職研究技術的な学習恋愛人間関係法律問題。様々なマニュアルや手記がWebにはある。少なくとも手がかりは存在する。

そのメリットがある半面、隣を走ってる同年代の姿もよく見えるようになって、それが劣等感レンズとして視界をゆがめている部分があるにせよ、それでもこの情報支援は大きい。今の若者は昔の若者無意味強気ボンクラさに比べて、様々なことを実にスマートにこなす。紳士だし慌てないし礼儀正しいし、誤解を恐れずに言えば「有能」だ。

それはおそらく、いわれのない劣等感にさいなまれている増田でさえ有能なんだ。

オタクサブカルを敵視したのか、サブカルオタク差別したのか、はてなブックマークコメント欄も白熱しており、ヤンキーも巻き込んで混然としています

http://hatenanews.com/articles/201412/23089

から、この記事に見られるようなオタクサブカル、あるいはそれに加えてヤンキー同士の抗争というのも実は本質的ではない。本質劣等感だ。

いわれのない劣等感がまず先だって存在し、その劣等感は消去できない。麻痺させるしかない。劣等感麻痺させるいわば痛み止めとして、この種の抗争が存在する。ほとんどすべての人間は、無名の置換可能な消費単位しかない。若者であればそれはなおさらだ。そんなことは当たり前なのだから、そこで劣等感を感じるべきではない。しか青春期の自意識にとってはそうではないので、劣等感を感じるし、その劣等感を痛み止めするために、近しい場所にいる別の消費者罵倒してるだけだ。

歳をとるとその過程で様々なケーススタディ経験するし、見聞する。若いころ、世界には才能ある人(100点)とクズ(0点)しかいないように思う。

もちろん年を取ったこの世界にも100点の人と0点の人はいる。でもそれ以外の点数の人々もいるってわかってくる。わかってくるっていうのは、例えば42点の人がいるということじゃない。そんなことは(理論的には)若者の時だってわかっていた。

わかるのは「42点の人と41点の人の間にある差」だ。そのわずか1点の差が、彼我の間の明暗を分けるというような例をたくさん目にすることになる。「1点の差の大きさ」が実感としてわかるようになる。そもそもある年代を100点で分割すれば、任意社会人自分職場で見ることのできる人間の幅なんて5点差くらいしかないんだ。「俺の今いる会社にいるのは38点~43点」とかそんな感じ。しかたかがその5点の間の距離が、越えがたく遠いということもわかる。新入社員39点が40点に成長するのはすごく大変だ。

そしてこの点数はジャンル技能ごとに分かれていてその種類も百種類じゃ利かないってこともわかってくる。つまりどういうことかというと、人間ってのは恐ろしく膨大なパラメータ構成されていて、若いころ思ってたよりもその距離感は遠く、埋めがたく、複雑だってことだ。マクロに見てみれば確かに消費単位としての人間なんて似たようなものだけど、ミクロに見てみればAさんにできてBさんにはできない、って問題にあふれすぎている。卑近なことでいってみれば「議事録手際よくまとめてコピーして事前に配布しておく」程度のことでさえ、人間人間の間には差があって埋めがたい――それが中年になるとわかる。

その種の格差ってのはもちろん絶望でもあるんだけど、一方で解脱というか、いいことでもある。

少なくとも「世界は才能ある人(100点)とクズ(0点)でできている」みたいに乱暴で便利で安易絶望には向かわないですむようになる。

世界を二種類で塗り分けるってのはずいぶん簡単で、その若い絶望は手抜きだったんだな、ってわかるようになるんだ。

若者はまだケーススタディが足りてないから「俺は0点だ!世界はクソだ!」とか叫ぶけれど、ちゃんと観察を続ければ(たとえば)自分は28点だってのがわかってくる。もちろん自分が28点しかないってのは、そりゃたしかがっかりするけれど、27点の人との間にある圧倒的なアドバンテージも同時にわかってくる。それが解れば、28点全部を放り出して「俺は0点だ!」なんて思いもしなくなる。

それに遠いとはいえ29点の方向もわかるようになる。29点になる為の1点を100分割して28・01点のためになら多少歩くことだってできる。これはなにも努力至上主義みたいな話ではなくて、どちらかというと、真っ暗で見たことも聞いたこともない砂漠に放り出された時、地図を持ってるのと持ってないのとでは大違いだ、という話に近い。努力をしなきゃならん、すべきだ、という話ではなくて、自分に何が出来て何ができないか(=自分の点数もわからない)で生きていくのは、生死にかかわるほど不便だってももちろんだけど、ただわからないというそれだけで死ぬほど不安で不幸なことだって話だ。

そんなわけで、ここでいう若さ特有劣等感は嵐みたいなもの中年になれば消える。すくなくともどっかの職場で働いて自分の姿が見えてくれば薄れていく。1点の差を乗り越えるためにグダグダ数年を過ごせば、懐かしくなる程度には過去になる。そこだけは、おっさんとして、安心してもいいんだよ、と言いたい。

記事への反応 -
  • 大学四回生の夏、下宿の扉に「出入禁止」とチョークで大書し、親を呼ばれて精神病院に連れて行かれた。   パソコンを買ってもらったのは小学三年生の冬だった。今でも覚えている。...

    • ある種の人々は言いようのない劣等感を感じている。というか、青春期、人々の多くは言いようのない劣等感を感じているように思う。それは書物で見る限り昔からのようだ。 「その劣...

    • 三行で

    • プログラミングでこういう経験はしなかったけど、音楽では似たような感覚はあったかな。 演奏する側やめたら、聴くのが楽しくなった。というか、技術を聴かないで、音楽を聴くとい...

    • http://anond.hatelabo.jp/20141202220427 60%の人間はプログラミングの素質がない http://cpplover.blogspot.jp/2012/05/60.html 君はこの40%のプログラムの素質がない人間だったんだよ。 うちの会社の後...

    • だいたい同じような感じで大学入ったけど、プログラミングは面白かった。幸せなことだったんだなあ こんなにわけが分からんと思ったことはないや。そりゃポインタとか死ぬほど頭こ...

    • だいたい同じような感じで大学入ったけど、プログラミングは面白かった。幸せなことだったんだなあ こんなにわけが分からんと思ったことはないや。そりゃポインタとか死ぬほど頭こ...

    • 何事も入り口の問題なんじゃないかと。ピアノだって小さい頃にクラシックから入ると挫折率高いけど、中高生になってポップスやアニソン弾きたい、ってなったらそれなりに弾けるよ...

    • なるほど。 『分からない』ということに関しては、どんなにムチャクチャな分からなさを設定しても、そこに疑問はわかないわけか。 勉強になった。

    • わかるわかる。 プログラミングとか、目的を達成するために仕方がなくやらなきゃならんもんであって、それ自体楽しくもなんともないよなあ。 あれ自体が楽しくて仕方が無い、という...

    • こんだけの長文すっと読ませられる日本語力があるなら、実はプログラマとしても優秀なほうだったんじゃないかと思うけどな―。。

    • なに? コピペで卒業したの? 最悪だなこいつ。

    • 共感した.自分も,(まわりと比べたら)早い段階でPCやネットというものに触れたことがきっかけで,そこから広がる世界こそが周囲との差別化要因だと思い込んで今ここに至っている...

    • 機械学習の単位に存在する大学って結構レベル高いんじゃないか?

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん