2024-09-16

虹の瞬間

俺は射精のことを「虹の瞬間」と呼んでいた。

今でもよく覚えている。自分小学校の低学年だったとき、俺は橙色に染まった空を飽きることなくずっと見つめていた。

夕立が止み、雲が退いていくと橙色の夕日が辺りを照らし、その空には大きく立派な虹が掛かっていた。

虹は太く、巨大で、俺は見惚れるように虹を見つめた。

物心ついてから、初めて見た虹だったのかもしれない。

「美しい」といった言葉だけでは言い表せない、神々しさのようなものを感じたのだと思う。

まるで自分が、自分けがこの光景と共にこの瞬間を生きているような。そんな倒錯感を覚えた。

俺はあの時、歴史から切り離された瞬間に立ち会ったのだと思う。

それから数年後、俺は精通し、そして自然オナニーをするようになった。

すると射精の瞬間、決まってその瞬間にはあの虹の光景脳裏に浮かぶのだ。

俺は密かに射精のことを『虹の瞬間』と呼ぶようになった。

大学生になると俺は熱心なオナニー信者になっていた。朝昼晩。一日三回は基本として、プラスアルファが週に何日かあった。

しかしそれは単に性欲を満たすためではなかった。

俺は必死だったのだ。射精の瞬間に訪れるあの瞬間を、あの虹を捉えようとしていたのだ。

射精快楽。虹の瞬間。大学時代、俺はそんな事ばかりを考えていた。

なぜ射精快楽を感じるのか。なぜ射精ときのあのときの虹を思い出すのか。

その理由を知りたかった。俺はずっと、あの虹を追いかけていたのかもしれない。

転機が訪れたのは二回生になった頃。友人たちとの飲みの席で、俺が童貞であることがバレた。

当時はそのような話題が上がれば「とりあえず風俗で済ませて来いよ」というのが普通だった。

だが金はない。すると友人たちがカンパを募り、俺のソープ代を集めてくれた。

正直それでも戸惑いはあった。だが彼らの友情反故にはできない。

俺は意を決するとその金を握りしめ、ソープへ向かった。

結論をいえば駄目だった。

初めてになるはずの女性バストが大きく、小型の南瓜ほどの大きさがあった。

乳房はとても柔らかく、彼女は人柄も良かった。俺が初めてであることを伝えると彼女ははにかむように笑い、「緊張しないで、大丈夫。私に任せて」と言ってリードをしてくれた。

それでも俺の物は最後まで機能しなかった。

店を出ると友人から連絡が来た。どうだったかなと聞かれ、俺は正直に駄目だったと伝えた。

友人は「最初はまぁ、そういうもんだ」と言って俺を責めることはなかった。

俺は女性身体に慣れていないことや、緊張のせいだと言い訳したが、違うんだ。実際には違っていた。

勃起はしたのだ。挿入も出来た。

だが彼女の中で射精しそうになると、不意に虹の光景が俺の脳裏に浮かんだ。

その瞬間、俺の物は干からびた薔薇のように萎れ、それから一切合切駄目だった。

虹の瞬間は俺にとって至高の瞬間であったが、同時にそれは呪いでもあった。

その後、俺は何度か店に足を運んだもののやはり駄目だった。

射精に近づく毎に、俺の脳裏には虹が浮かぶ

橙色の空に浮かぶ、巨大で、太く、美しいアーチを浮かべるあの虹が。

俺は虹に恋をしていたのかもしれない。虹は、俺にとってのファム・ファタールであったのだと思う

次の転機が訪れたのは4回生になったばかりの頃。

合コン意気投合した女の子は、俺の性格とは真逆で、明るく、ハキハキしていた。

クラスで人気者のタイプ女子だ。実際、彼女は明るく、美人聡明。周りに人が絶えないような人だった。

そんな女子がどうして俺とそういうことになったのか未だに不明だ。

俺は酒に酔いに任せて彼女を誘い、酔っていた彼女はそれに応えた。

俺たちは抜け出し、コンビニチューハイを買い、飲みながら千鳥足で当てもなく歩き、面白いことがないことに笑ってホテルへ入った。

ベッドの上に俺は倒れ込んだ。多少の眠気があった。でもそれは途中で買ったミネラルウォーターで多少緩和されていた。

仰向けになって寝ていると、口を塞がれた。目を開けると彼女がそっと俺に口づけをしていた。

彼女は既に下着姿だった。舌を入れられ、グレープの味がした。チューハイの味。少し分けってもらったやつ。9%。

そんなことが頭の中を過ぎり、彼女は俺のジーパンを降ろし、パンツを腿までずらすと俺の物を弄ぶように触り、触り、それからゆっくり口に咥えた。

彼女は音を立てるようにフェラをした。俺は一気に酔いが覚めた。血流が良くなる感覚。俺の物はウルトラマンのように肥大化していった。

それを見て満足そうに、彼女は上目遣いで俺のことを見て微笑む。

舌が絡みつき亀頭を刺激され、俺はイきそうになると同時に虹が脳裏に浮かび萎えそうになったが彼女フェラピストンが始まり俺はその数秒後に射精した。

そう、俺は射精したのだ。

彼女の口の中で俺は果てた。そのとき、俺の脳裏から虹の瞬間が消えた。

遥か彼方に遠ざかっていき、それが単なる過去の一つの記憶に収斂していくような感覚

彼女は「気持ちよかった?」と喉元を揺らしてから、俺に聞いた。

俺は頷いた。そしてこれ以降、俺はもう虹の瞬間を見ることがなくなった。

上書きされてしまったのかもしれない。かといって別に、俺はこの瞬間のフェラのことを射精の度に思い出すことはない。

そう言った意味では、やはり「虹の瞬間」は特別だったとだと思う。

これはただそれだけの話で、こういったことは稀にあるのではないかと思うが、ネットではあまり見かけないので書いてみた。

まりリアルでは言えない話でもあるので、もし同じような人が居たら教えてほしい。

あなたにとっての、”虹の瞬間”を。

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