そこで私の妻が仲良くしている一般的にママ友という保護者がいるようで、夫婦の何気ない会話にも「そういえば今日オガワさんがね」とたびたび登場する
妻からの話は「オガワさんの娘さんはほかにスイミングとピアノと英会話もしてるみたいでね」という子どもの話や、「少し前に家を建てたから、今度娘も連れて遊びに行くことになった」という、どこにでもありそうな取り留めのない話が多く、聞き流すことが多かった
つい先日、そのオガワさんが私と同い年だったと興奮気味に話す妻が「もしかしてパパと同級生じゃない?」と言い出し、私の中学の卒業アルバムを探し出してきた
しかし、やはり結婚で名字が変わっていて、下の名前も特徴が特にないありきたりなものだったらしく、顔写真からオガワさんの面影を探し続けていたものの、結局のところ卒業アルバムでは見つけることはできず、また明後日に会った時にあらためて聞いてみるということでその日は落ち着いた
そして次の習い事の日にいろいろと聞いたところ、オガワさん自身は隣市の出身とのことで同じ中学ではありえないことがわかった
しかし、オガワさんの旦那も私と同い年で、しかも生まれてこの方ずっと今の地域に住んでいるから、おそらく同級生ではないかということだった
その情報を持ち帰ってきた妻は再び卒業アルバムを取り出すとオガワさんの旦那を探し始めた
なににそこまで執着するのか、なにがそんなに気になるのかがわからないまま調べた結果、同級生に「オガワ」は3名見つかった
一人目は割と穏やかな性格だった印象の「小川くん」で、思い返せば成人式で再会して以降、今の地域で見かけた記憶がない
二人目は運動部でそこそこの成績を残した「小川くん」で、たしかスポーツ特待生で市外の寮がある高校へ行ったはずだ
そして三人目は、地元でも悪い意味で有名だった「緒川くん」で、いつも幼馴染と二人で不良のようなことをしていた子だった
ママ友のオガワさんから「うちのパパも子どものことになると甘くてー」と聞いていたことと、同じスポーツをしているという理由でおそらく二人目の小川くんが旦那だろうと妻は推理していた
オガワさんの旦那以外の残り2名の現在を私は知っていたため、すでにどのオガワか気づいていたのだ
妻が候補に挙げた小川くんは、関東の会社に勤めながら、社会人リーグのような立ち位置で現在も競技を続けている
そして、おとなしい小川くんは、実は職種が近いこともあり、数年前からSNS上で繋がっていて、今なお独身であることを確認していた
中学時代にいじめや校内暴力、万引きに自転車泥棒、あげく原付を無免許で乗り回し、高校へ進学するほどの学力もないまま、祖父母の家業を手伝うことになったと聞いていた
成人式の日には白の紋付袴で会場に現れ、ステージによじ登ろうとして係員に羽交い締めされた状態で退場したり、地域の祭りでは相変わらず不良ぶって年下を引き連れ歩いていて、「あれはいつまでたってもタワケだ」と近所の評価は相変わらずの緒川くんだ
そんな彼が結婚し子を成し、今では父親として生きていることを知った時は軽くめまいを起こした
そして、しばらくすると緒川くんの娘が習い事で孤立することが増えた
誰かが気づいてしまって話が回ったのだろう
きっといつかはこうなるだろうと思っていたから、妻から孤立している話を聞いた時に緒川くんの正体を話した
「だから距離を取れとは言わない。因果応報なのかもしれないが、奥さんと娘には関係のない話だから」と態度を変えないように伝えた
これが3ヶ月前の話
孤立し始めてすぐにママ友のオガワさんの耳にも旦那の過去の逸話が届いたようで、離婚を視野に入れて夫婦間で何度も話し合いをしたそうだ
もともと姉御肌の雰囲気をもつオガワさんは旦那の過去を恥じ、それでも過去は変えられないから、せめて今の評価なら変えられるはずだとという結論に至り、今も名字は緒川さんのままだ
緒川くんは妻と娘を失う可能性に接してようやく過去の蛮行を反省したとのことだった
もし娘が同じようにいじめられて暴力を受けたらどう思うかと叱責されて目が覚めた…というようなことを緒川さんが言っていたそうだ
結婚して子どもが産まれてようやく理性や知能、想像力を獲得できたようだった
因果は巡る
巡る先が己ならまだしも、愛するものに還ることもあるのだ
過去に人に言えないようなことをした人には、深く肝に刻みつけてほしい